医師として働く際、誰しも一度は関わる医局。医学生時代だけでなく、医師免許取得後にもさまざまな形で関わる機会があります。では実際に、医局とはどのような役割を担うものなのでしょうか。今回は、医局について概要を解説するとともに、市中病院との違いや入局するメリット・デメリットについてお伝えします。
<この記事のまとめ>
- 医局とは、大学医学部付属の病院における人事組織のこと。
- 「診療」「教育」「研究」の3つの目的を持ち、医師が効果的に経験を積むための組織。
- 市中病院と比較すると専門性が高く、研究機関としての役割を持ち、人事権がある。
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1.医局とは?
医局とは、大学医学部付属の病院における人事組織のことです。内科、外科、消化器科などの診療科ごとに組織され、教授を頂点とした「ピラミッド型の構造」になっています。医局は、地域医療を支える存在でもあり、へき地などの医師不足の地域に医局員である医師を派遣するなど、医療人材の確保や医療格差の緩和に貢献しています。
医局制度は、日本では明治時代から始まりました。もともとドイツで取り入れられていた医局講座制の仕組みをモデルとして、国内に導入され広まった経緯があります。基本的に公立病院や民間病院では医局の配置はなく、大学病院ならではの組織形態といえます。
1-1.医局の役割
医局は、「診療」「教育」「研究」の3つの目的を持ち、医師が効果的に経験を積むための仕組みとして組織されています。
大学病院では、希少な疾患の「診療」にも積極的に関わり、医師不足の地域への派遣なども行っていますが、そうした対応が行えるのも、医学生や研修医など次世代の医療を担う人材の「教育」や、新たな治療法などの確立に向けた「研究」にも携わっているからです。医局は診療だけでなく、教育や研究を通じて次世代へ貢献する役割も担っています。
1-2.医局に所属する医師の傾向
医師免許取得後の研修機関として大学病院が選ばれる傾向があることから、医局は若手医師が多く所属しているのが特徴です。厚生労働省が行った「令和2年臨床研修修了者アンケート調査結果」によると、「臨床研修後のいわゆる大学医局入局予定」とする回答が全体の76.9%でした。
また、医局は研究機関としても組織されるため、臨床だけでなく研究に注力したい医師も多く所属しています。
2.医局の構造
医局は、各診療科の教授を頂点として、准教授、講師、助教、医局員で構成されています。それぞれの特徴は以下の通りです。
▶教授
院長に次ぐポジションとして重要視される存在。
▶准教授
若手医師や研修医の教育に注力しながら、臨床業務を統括。臨床業務よりもキャリアアップを目指して専門分野の研究や論文執筆に注力できる立場。
▶講師
臨床業務に加えて、教育、研究にバランスよく対応し、幅広い業務を担う。
▶助教
教授の補佐を担ったり、若手医師や研修医をサポートしたり多岐にわたる業務を担当。
▶医局員
上記の役職をもたない一般の勤務医。診療業務を担いながら、キャリアアップのために専門分野を深める立場。
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3.医局のある大学病院と市中病院との違いは?
医局は大学病院内に組織されるものですが、市中病院とはどう違うのでしょうか。異なるポイントを見てみましょう。
3-1. 専門性の違い
医局のある大学病院は、市中病院と比べて、より専門性の高い治療を行っています。大学病院は先進医療や高度医療などを積極的に取り入れており、設備も充実している傾向にあります。特定機能病院の認可を受けている施設も多く、希少な疾患の患者さんや高度な治療が必要になる症例が多く集まります。
一方で、市中病院は「地域のかかりつけ医」として機能し、一般的な診療や予防医療の提供、健康管理を担う医療機関として利用されています。地域住民に医療を提供する施設として、幅広い疾患に対応すると同時に、高度医療が必要な患者さんを大学病院等につなぐ窓口になっています。医局がある大学病院と市中病院では、専門性の高さに大きな違いがあります。
3-2.研究機関の有無
医局のある大学病院は、研究に取り組みやすい環境が整っています。教育機関でもあることから、専門領域を極めた教授や助教授に指導を仰ぎながら研究に取り組めるのが利点です。また大学病院には、付属図書館が併設されており、必要な文献や資料を入手しやすい環境にあります。一方で、市中病院は、診療を重視する場所であり、研究機関としての役割を求められていません。臨床研究に携わることはできますが、日々の診療が重視されており、医局ほどの環境が整っている市中病院はほとんどないでしょう。
3-3. 医局人事の影響
医局には人事権があり、医局員として所属する医師の人事や異動を決定しています。教授をはじめとした上層部が人事権を握っており、ピラミッド型構造の下層にいる医局員は、遠方への移動を命じられても、基本的に拒否できない状況にあるでしょう。医局の構造から、医局人事の強制力が大きい傾向にあります。ただし、人間関係の悩みなどが生じた場合、こうした異動が助けになることもあります。関連病院が多く、異動先にも困りません。
一方で市中病院は、大学医局と比べて、上下関係による強制力は弱い傾向にあります。ただし、医局と比べて異動先がない、人材不足になりやすいという特徴があります。そのため人間関係で不安が生じても、異動による解決が難しい場合があります。
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4.医師が医局に所属するメリット・デメリット
多くの若手医師が大学病院での研修を望む一方で、以前と比べて、医局への所属を希望しないという医師も増えつつあります。厚生労働省が行った「令和2年臨床研修修了者アンケート調査」によると、研修修了者の11.8%は「臨床研修後にいずれの大学の医局にも所属する予定はない」と回答しています。その理由はさまざまですが、医局に所属するかどうか迷った場合には、そのメリットとデメリットを理解したうえで検討することが大切です。続いて、医師が医局に所属するメリット・デメリットをお伝えします。
4-1.医局に所属するメリット
メリットとしては、以下の5つが挙げられます。
1. さまざまな施設での診療を経験できる
2. 人脈を広げられる
3. 先端医療が学べる
4. 研究に取り組みやすい環境
5. キャリア構築に役立つ
医局では、関連病院のほか、地方の病院に派遣されることもあり、さまざまな環境で経験を積みながら、人脈も広げられます。大学病院では先端医療に触れる機会が多く、さまざまな症例を経験できるのも利点です。また、研究に注力したい人にとっては、上司となる教授や准教授に指導を仰ぎながら研究ができます。臨床研究だけでなく、基礎研究の道に進むことも可能です。将来的に、医学博士を目指す場合は、学位の取得のために医局への入局が必要です。さまざまな可能性が開ける医局での経験は、キャリアを築くための土台となるでしょう。
4-2.医局に所属するデメリット
一方で、医局への所属にはデメリットもあります。
1. 地方への異動を命ぜられることもある
2. 多忙を強いられることもある
前述の通り、医局は医師不足の地域への派遣や、連携する地方の医療機関への異動があります。幅広い経験ができる一方で、場合によってはへき地に赴任することになり、生活環境に大きな変化が生じます。へき地での医療に興味がある場合にはデメリットとはいえませんが、都市部で働き続けたい人にとってはつらい日々になるかもしれません。また、医局に所属すると、毎日の診療に加え、研究や論文の執筆、教授のサポート、学会への参加などを同時進行しなければならず、多忙を強いられる場合もあります。
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5.医局の選び方
全国の大学病院に医局がありますが、それぞれに特長が異なります。これから医局への就職や転職を考えているのであれば、自分に合った医局かどうかをチェックしておきましょう。選び方のヒントを3つお伝えします。
5-1.自分が学びたい領域で指導医がいるかどうか
入局するタイミングによっても異なりますが、これから専門医取得を目指す場合には十分な症例が経験できるかどうかに加えて、指導医が充実しているかどうかも確認しておきましょう。すでに専門医資格を取得し、サブスペシャリティ領域に進みたい場合や、研究分野に進みたい場合にも、師となる上級医師がいるか、適切な指導を受けられる環境かどうかを確認しておくとよいでしょう。情報収集が難しい場合には、先輩医師に相談したり、見学に行ったりするのがおすすめです。
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5-2.関連病院を確認しておく
医局に所属するならば、基本的に、医局人事に従わなければなりません。状況によっては、数年ごとに関連病院への異動を命じられる可能性もあります。そのため、異動の可能性がある関連病院がある範囲を事前に調べておくことおすすめします。全国に関連施設を持つ医局もあれば、一定の地域内のみという医局もあります。事前に調べておくと、ライフプランを考えやすくなるでしょう。
5-3.医局の規模やメンバーを確認する
人数が少ない医局に所属すると、それだけ多忙になりやすい傾向にあります。その分、さまざまな症例に携わることができるでしょう。逆に、人数が多い医局では、働き方に余裕ができる可能性がありますが、貴重な症例に関わる機会が減るかもしれません。自分のキャリアプランに合わせて、働きやすい医局の規模を考えてみましょう。加えて、医局に所属するメンバーもチェックしておくと安心です。同期や医学生からの知り合いの多い医局に所属できれば、困ったときには相談できます。多忙であっても、互いに協力することで乗り越えやすくなるでしょう。
6.自分のキャリアプランを見据えて入局を検討しよう
医局に所属するかどうかは、今後のキャリアを左右するものであり、メリット・デメリットを踏まえて検討する必要があります。将来的に地域で活躍する医師を目指すのか、大学病院で専門分野を極めながら研究や教育に取り組むのかなど、それぞれの目標に沿って検討することが大切です。
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