大学病院は教育・研修機関としての役割を担いながら、先進的な医療の提供を行っています。また大学病院には、次世代の医療を担う人材の教育や、治療法の研究のための仕組み(医局制度)があります。そんな大学病院に勤務する医師の年収はどれくらいになるのでしょうか。今回は、大学病院の構造や勤務する魅力などに加え、大学病院に勤務する医師の年収目安について解説します。
- 大学病院の医局組織について知りたい方。
- 医局の構成メンバーや役割に興味がある方。
- 大学病院でキャリアアップを目指す方。
目次
大学病院の「医局」とは?

大学病院の特徴の1つとして「医局」の存在が挙げられます。医局とは、内科、外科、消化器科など診療科ごとに組織され、診療科ごとの教授を頂点としたピラミッド型の組織を指します。この制度は明治時代からあり、ドイツで取り入れられていた仕組みをモデルとして国内の一部の大学が導入したことから始まりました。
大学病院は、外来や入院患者さんの「診療」だけでなく、地域の病院で診療が難しい希少な疾患の治療や手術を担う役割を担っています。さらに、医学生や研修医など次世代の医療を担う人材の「教育」や、臨床で得られたデータを基に、新たな治療法などの確立に向けた「研究」にも携わります。この3つの目的をより効果的に実施し、経験やデータを蓄積するための仕組みとして「医局」があるといえるでしょう。
厚生労働省が行った「令和2年臨床研修修了者アンケート調査結果」によると、「臨床研修後のいわゆる大学医局入局予定」とする回答が全体の76.9%となっており、半数以上の若手医師が医局に所属しています。なお、卒業大学の医局への入局が44.3%、卒業した大学以外の医局が32.6%でした。
医局の構造と階層

医局は、各診療科の教授を頂点とし、准教授、講師、助教、医員(医局員)、大学院生、研修医などで構成されています。それぞれの役割を確認しておきましょう。
2-1.教授
教授は、医局内においてキャリアの頂点となる存在です。おおむね、知識や経験を高めた50歳前後の医師が選出される傾向にあり、医学部のある大学の運営にも関わるのが大きな特徴です。教授は臨床医として大学病院に所属しながらも、実際に患者さんへ診療に携わる時間は減少し、専門とする分野の研究や教育に携わる時間が増える傾向にあります。院長に次ぐポジションとして重要視される存在です。
2-2.准教授
准教授は、教授と同様に、専門分野の研究や後進の教育に携わりますが、大学の運営に関わることはほとんどありません。医員の年齢構成によっても異なりますが、おおよそ40代後半での就任となるケースが多いでしょう。教授と比べて、やや臨床に近い立場であり、若手医師や研修医の教育に注力しながら、臨床業務を統括します。医局内でのキャリアアップを目指す場合、教授選を視野に入れた活動に時間を割くことが多く、業務の割合として、臨床よりも、専門分野での研究や症例等をまとめた論文執筆などに注力する傾向にあります。
2-3.講師
講師は、臨床業務に加え、医学生への講義や実習に関わる存在で、大学や大学付属病院における教育の一翼を担います。キャリアプランとしては、40歳前後での就任が目安となるでしょう。講師になると、頻繁な日当直やオンコール待機に入る回数が減る一方で、若手の教育や専門分野への研究に従事する時間が長くなります。臨床と研究にバランスよく対応するため、幅広い業務に対応することになるでしょう。
2-4.助教・助手
助教・助手は、教授の補佐を担ったり、若手医師や研修医をサポートしたりする役職にあたります。医局におけるキャリアの第一歩ともいえる立場で、専門医の資格取得後、博士号を取得して助教や助手に昇格します。一般の勤務医である医員と近い存在ですが、若手教育や指導にも携わり、多岐にわたる業務を担当します。次世代を担う可能性のある役職として、重要な役割を担います。
2-5.医員(医局員)
医員とは、上記の役職をもたない一般の勤務医を指します。専門医取得を目指す専攻医など、若手医師が多く、主に臨床現場で活躍します。専門医の資格取得後も、博士号を取得するまでの期間で医員として勤務することもあり、実際のところ境界は不明瞭です。
医員は、主に診療業務を担いますが、キャリアアップを目指して専門分野での研究などにも携わりながら、教授職のサポートを担うこともあります。幅広い年齢層の医師が医員として在籍し、臨床経験を深めます。なお、実際には別の民間病院で勤務しながら、研究のために医員として所属するケースもあります。
大学病院で勤務する魅力、やりがい

医局という特徴的な仕組みがある大学病院ですが、勤務するにあたり、どのような魅力ややりがいがあるのでしょうか。
3-1.大学病院に勤務する魅力
大学病院は、診療機関であると同時に、医療の専門家となる医師を育成する重要な役割を担います。次世代を担う若手医師を育成したり、最新の知識や技術を習得したい医師がスキルアップを目指す場を提供したりすることに重きを置かれる点が、一般的な民間病院とは異なります。
そのため、大学病院に勤務すれば、専門分野において最新の知見や先端医療技術が学べる環境に身を置くことが出来るというのが大きな魅力といえるでしょう。また、貴重な症例が集まりやすいため、幅広い臨床経験が積みやすいのも利点です。
また、大学病院には幅広い診療科が集まっており、連携しながら学びあえる環境にあります。加えて、将来的なキャリアプランとして教授を目指す場合、研究に携わりやすい環境にあり、上司となる教授・准教授・助教などとの人間関係が構築しやすくなります。
3-2.大学病院で勤務するやりがい
大学病院では、地方の病院では対応が難しい疾患や希少な疾患についての治療にも取り組みます。希少な疾患の治療で成果をあげたり、最新の知見や先端医療技術を導入した治療に携わったりできることは大きなやりがいとなります。キャリアアップの道筋が明確で、経験を積むことで指導医として活躍できるほか、助教や講師を目指しながら、次世代の医療専門家の育成に携わったり、自分が指導した学生や医師の成長を実感したりすることに、やりがいを感じることもあるでしょう。
大学病院に勤務する医師の年収・給与事情

大学病院は、付属先となる学校法人が独自に経営を行っています。それを踏まえて、大学病院に勤務する医師の年収事情を見てみましょう。
厚生労働省の資料「第23回医療経済実態調査 (医療機関等調査) 報告(令和3年実施)」によると、「その他(公益法人、学校法人、社会福祉法人など含む)」に勤務する医師一人当たりの平均年収は、1,535万6,119円(平均給料年(度)額+賞与額)でした。ただし、この額は社会福祉法人などのデータも含むため、あくまで目安です。役職や働き方によっても大きく異なるため、参考として考えるとよいでしょう。
なお、令和3年賃金構造基本統計調査によると、医師全般の平均年収は1,139万6,700円※(平均年齢41.0歳、役職者を除く)であったことを考慮すると、大学病院の勤務医の平均年収は、やや高い結果となっています。
しかし実情は、役職者である教授や准教授などが一般の勤務医と比べて高収入を得ていることから、大学病院全体の平均年収値を大きく上げていると考えられます。また、大学病院では研修医など若手の年収も低い傾向にあるため、あくまで全体の平均値であり、中央値とはいえないことも考慮しておくとよいでしょう。
※「医師全般の平均年収=きまって支給する現金給与額×12+年間賞与その他特別給与額」にて算出
大学病院(医局)でキャリアアップする方法

医局内でキャリアアップすれば、医師としての地位を築くことができ、年収アップも可能です。大学病院(医局)でキャリアアップする方法は、主に以下の3つが挙げられます。
5-1.専門分野での研究で成果を出す
医局内でキャリアアップを目指すためには、臨床研究に取り組み、質の高い論文を数多く発表するなど、成果を上げることが大切です。論文は実績の1つであり、キャリア形成につながる重要な判断要素となります。日々の臨床業務で多忙であっても、将来のキャリアアップを目標に、地道に研究に取り組むことがキャリアアップの近道となるでしょう。
5-2.臨床経験を積む
近年、民間施設では実力重視で評価するところも増えていますが、医局の場合、ある程度、臨床経験年数がキャリアアップに影響を及ぼします。何らかの事情により、ポジションに空きができた際には、経験年数に加え、実力や人脈などが昇格への判断材料となるでしょう。また、学位の取得や留学経験なども考慮されることがあるため、できるだけ早い段階で、多くの経験を積んでおくとよいでしょう。
5-3.コミュニケーション能力を高める
医局はピラミッド型の構造で、タテ社会の組織となっています。上司や同僚への気配りといった、コミュニケーション能力もキャリアアップには必要です。幅広い人脈をもち、多くの経験を積むことは、キャリアアップ後の働きやすさにもつながるでしょう。
医局を辞めたいと思ったときに考えること

さまざまな魅力ややりがいがある大学病院での勤務ですが、なかには、現在、所属している医局を辞めたいと考える人もいるでしょう。しかし、医局を辞めるとなれば、デメリットも生じます。まずは、医局を辞めるメリットだけでなく、デメリットを理解したうえで行動に移すことが大切です。
6-1.医局を辞めるメリット
医局を辞めたいと思う理由は人によって異なりますが、辞めるメリットとしては、主に次の5つが挙げられます。
1.希望する働き方を選べる
2.給料アップが望める
3.医局とは異なる経験を積める
4.人間関係のストレスを軽減できる
5.ライフプラン(キャリアプラン)に合った勤務先を選べる
医局に所属していると関連病院への異動を命じられたり、研究と臨床の両立で長時間労働になってしまったりすることがあります。医局を辞めれば、そうしたルールに縛られることなく、今とは違う働き方ができるようになるのが一番のメリットといえるでしょう。また、診療業務に専念したい人や、医局の人間関係に疲れた人にとっては辞めることに大きなメリットがあります。加えて、役職がない医員の場合、市中病院に転職した方が、現在の経験を活かしつつ年収アップになる可能性が高まります。医局では叶えにくい働き方が選べるのが、辞めるメリットといえます。
6-2.医局を辞めるデメリット
一方で、医局を辞めることで生じるデメリットもあります。具体的には、主に次の3つが挙げられます。
1.医局内での出世の道は断たれる
2.人脈を広げる機会が少なくなる
3.専門以外の知識を求められることがある
別方面に行く場合でも役に立つ可能性のある医学博士号を取得していない場合には、医局を離れることで、取得が難しくなります。別の医局に移籍してキャリアアップを目指す方法もありますが、新しい勤務先での研究成果や実績がなければ、評価につながらない可能性があります。また、医局は民間の医療機関と比べて所属する医師数が多く、高度なスキルをもつ人材も集まっています。医局を辞めてしまえば、そうした人脈とのつながりをさらに広げるのは難しくなるでしょう。特に、将来開業を予定している場合は、医局との関係が途切れることで、連携がとりにくくなる可能性があります。医局との良好な関係を築きつつ、人脈を維持するような工夫が必要です。
自分のキャリアプランに沿って医局の所属を検討しよう
医局は、明確に役職が分かれており、それぞれ担う役割や働き方が異なります。医局でのキャリアアップを考えるなら、研究にも力を入れながら、臨床経験を積むことが大切です。一方で、医局を辞めたいと考えている場合、辞めることによって生じるデメリットも考慮したうえで、決断することが大切です。まずは、自分のキャリアプランを明確にしたうえで、今後の働き方を考えてみてはいかがでしょうか。
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