世界の医療ニュースから、マイナビDOCTOR編集部が「ぜひ読んでほしい」と思った記事を紹介します。今回はScienceAlertに掲載された「ALS患者の細胞にみられる異常を元に戻すことに成功/研究室サンプルで」を取り上げます。
ScienceAlertによると…
脳や脊髄の神経に異常が起こり、手足、喉、舌などの筋肉が衰えていく難病「筋萎縮性側索硬化症(ALS)」の根治を目指した研究が進んでいます。多くのALS患者の神経細胞で、RNAを制御する「RNA結合タンパク質」の分布に異常がみられるといい、発症に関与していると考えられています。患者の体細胞から作ったiPS細胞を用いた研究で、VCPという酵素を阻害することによって異常な分布を正常な状態に戻すことに成功したそうです。英国人らの研究チームの報告です。
不治の病ALS 原因はいまだ不明
筋委縮性側索硬化症。ALSと略して呼ばれるその病気は、全身の筋肉が徐々に衰えていき、手足を動かすことや言葉を発することができなくなる不治の病です。日本神経学会によると、最終的には呼吸不全で亡くなる患者が多く、人工呼吸器を使わない場合、発症から2~5年で死に至るといいます。2018年に他界した英国の物理学者スティーヴン・ホーキング氏もALS患者でした。
ALSの原因は不明です。多くの場合は遺伝しないといわれていますが、全体の5%は、家族の中で複数人が発症する「家族性ALS」に当たるといいます。これまで、そのうちの20%の患者で、ある酵素の基となる遺伝子に異常が見つかっているそうです。近年、さらにいくつかの遺伝子にも異常が発見されており、原因遺伝子が明らかになってきているといいます。
現時点でALSの治療は、神経保護作用を持つ薬「リルゾール(商品名リルテック)」や「エダラボン(商品名ラジカット)」による進行抑制にとどまります。しかし、遺伝子変異が発症や進行にどのようにかかわっているかを解明できれば、根治を目的とした創薬につながるかもしれないとの期待が寄せられています。
原因は神経細胞内のRNA結合タンパク質? 根治に向け光明か
ALSの原因ははっきりとは分かっていませんが、ほとんどの患者の神経細胞で、TDP-43というタンパク質の異常な分布がみられるそうです。TDP-43はRNAを制御するRNA結合タンパク質です。本来は神経細胞の核内に存在するのですが、ALSの場合は核の外に出て凝集しているといいます。ScienceAlertの記事には、英国人らの研究チームが、その分布を正常に戻す化合物を発見したことが紹介されています。
研究チームは、ALS患者の体細胞から作ったiPS細胞を用いて研究を行いました。ALSを含めた運動ニューロン疾患では、VCPと呼ばれる酵素が変異しており、過活動になっている可能性があることが分かったといいます。この酵素の働きを阻害する薬を投与したところ、RNA結合タンパク質の異常な分布が解消されたそうです。この薬はがん治療でも注目を浴びており、第2相試験が進行中とのこと。そのため、ALSでの臨床試験も想定より早く開始される可能性があるといいます。
先日、寝たきりで発話できない人がコミュニケーションを取るためのAI装置を、マイナビRESIDENTの記事に取り上げました。ALS患者の生活を補助するテクノロジーにも期待がかかっています。ただ、症状を根治する薬の開発に動きがあることが、何よりも、患者やその家族の希望の光になるのではないでしょうか。
文/ジャーナリスト・村上和巳