マイナビDOCTOR 編集部からのコメント
企業による労働者の健康管理の重要性が見直されるいま、産業医の求人ニーズは拡大しています。健康診断や労働者の面接指導、メンタルヘルス相談など、業務内容は多岐にわたりますが、具体的にどのように業務を進めたらいいのかわからない……という産業医初心者におすすめな書籍が『嘱託産業医スタートアップマニュアル』(勝木美佐子/奥田弘美・著)です。兼板佳孝氏(日本大学医学部社会医学系公衆衛生学分野主任教授)による書評をお届けします。

著者の勝木美佐子先生と奥田弘美先生は、ともに労働衛生コンサルタントの資格を有し、これまでに多くの企業の嘱託産業医を務められてきた経験がある。また、勝木先生は内科、奥田先生は精神科の臨床診療についても精通している。そのお二人がご自身の実務経験に基づいて執筆されたのが本書である。本書は、産業医資格を取得されたばかりの初心者に活用してもらうことを意図して企画されており、嘱託産業医として最低限知っておくべき事項に加えて、業務を進めていく上で役立つ具体的なノウハウが網羅されている。
本書を拝見したところ、次の点が特徴として挙げられる。第一に、嘱託産業医案件の求職、つまり、嘱託産業医の仕事を探す方法についても記述されている。この領域の従来の成書では、こうしたところまで述べられているものは少ないと思う。第二には、産業医業務のほぼすべての内容は、労働安全衛生法で規定されているのであるが、本書では難解な法律の内容を平易な文章で分かりやすく解説している。第三には、具体的な事例を示すことによって、より理解が深まるように工夫されている。第四には、産業医巡視報告書や就業制限に関する情報提供依頼書などでは、例文を示しながら記載方法を解説している。第五には、掲載されている書式がインターネットを介してダウンロードできるようになっている。日常の産業医業務では様々な書類を作成するため、こうした書式が利用できるのは大変便利である。このような特徴を有する本書は、いわゆる「かゆいところに手が届く」ものであり、産業医の実務を遂行する上できわめて有益である。
過労死や過労自殺が大きな社会問題となっている今日のわが国において、産業医に求められる業務は日々増してきている。そのような社会情勢にあって、本書は、これ一冊があれば、産業医業務が開始できるように工夫されている。本書が多くの産業医にとってその業務を支える一助となることを確信している。
出典:Web医事新報