【映画『人生をしまう時間(とき)』】在宅死に向き合う医師の姿を映し出す|業界ニュース

【映画『人生をしまう時間(とき)』】在宅死に向き合う医師の姿を映し出す

在宅医療に携わる医療者の姿を追ったドキュメンタリー映画『人生をしまう時間(とき)』が、いよいよ今週末2019年9月21日(土)に劇場公開となります。小堀鷗一郎医師と堀越洋一医師はもともと外科医として長年キャリアを積んできた医師。終末期医療の現場をあえて選んだ両名が患者さんと家族に対しどのように向き合い、何を語りかけるのか――公開に先立ち、本作の見どころを紹介します。

テレビ放送されたドキュメンタリー番組が映画化

「病院から在宅へ」の流れが強まる昨今、住み慣れた自宅で穏やかな最期を迎えたいと願う患者さんは少なくありません。当事者でない人にとっては簡単にはイメージしづらい在宅死の現実——それを映し出したのが2時間にわたるドキュメンタリー番組「在宅死 “死に際の医療”200日」(NHK BS1 スペシャル)でした。同番組は大きな反響を呼び、何度も再放送されたのち「日本医学ジャーナリスト協会賞大賞」を受賞。今回、新たなシーンを加え再編集されたのが、9月21日(土)より全国順次公開となる映画『人生をしまう時間(とき)』です。

本作を監督・撮影したのは、NHKエンタープライズ エグゼクティブ・プロデューサーの下村幸子氏。およそ200日間かけて、64人もの患者さんやその家族を取材してきました。通常は少なくともカメラマン、音声マン、ディレクターの3人体制で行われるというドキュメンタリーの撮影をさらに最小限に抑えるため、たったひとりで自らカメラを回し続けることにした下村氏。その理由を「人が亡くなる瞬間という究極のプライバシーの現場まで立ち入らせていただくことに生身で向き合う『覚悟』と『責任』を課さねばならない」と思ったからだと話します。

在宅医療に携わる外科出身のふたりの医師

下村氏のカメラが主に追うのは、本サイトのインタビューでも紹介した堀ノ内病院(埼玉県新座市)に勤める小堀鷗一郎医師(80歳 ※撮影当時)。「鷗」の字からピンときた方もいるかもしれませんが、文豪であり医師でもあった森鷗外の孫に当たる人物です。東京大学医学部附属病院の外科医として約40年勤務しその手技を研鑽してきましたが、67歳にして在宅医療の世界へ転身。外科医時代を「職人的なところに走り過ぎたという反省がある」と振り返ります。

堀ノ内病院の在宅専門の医療チームは、小堀医師を含めた医師が4人と看護師が2人。たった6人で140人もの在宅患者さんを診ています。患者さんたちの家々を1軒1軒診て回る小堀医師。時折ジョークを交えながら患者さんやその家族とコミュニケーションをとりながら、さりげなく自宅の暮らしや介護環境を聞き出したり、表情やふるまいから病状や心情を察したりする医師としての手腕も垣間見えます。

映画の「舞台」の一つとなる堀ノ内病院。地域包括ケア病床や退院支援室を備え、在宅復帰にも力を入れている。
「毎日がフレッシュ」と語る小堀医師。晴れの日も雨の日も、患者さんが待つ家に通い続けている。

堀越洋一医師も、小堀医師と同じく元々は外科医としてキャリアを研鑽してきた医師です。国際医療機関の医師としてアジア、アフリカ、南米などの途上国を中心に活動し多くの人の命を救ってきました。そんな堀越医師は外科医時代を振り返り、手術で救える見込みのない終末期の人のケアは「苦手だった」と話します。しかし「苦手かもしれないけれど、そこに自分の身を置く」ことに決め、2013年から堀ノ内病院で在宅医療に取り組んでいます。

堀ノ内病院の在宅医療チーム。緊急の電話が入ればすぐに体制を整えて患者さんの家へと向かう。

きれいごとではすまない命の現場を活写

医師の訪問に同行するかたちで患者さんの家にカメラを入れた本作は、患者さんの家族や家庭のありようまでをリアルに映し出していることが特徴の一つ。中には、貧困や障害などさまざまな困難な問題を抱えた人たちもいます。理想通りにはいかない現実を目の当たりにしながら、少しでもベターな選択ができるよう医師、看護師、ケアマネージャーなどの医療者たちは連携をとり患者さんに働きかけているのです。そのやり取りを引き立てるかのように、BGMは最低限に抑えられ、ドキュメンタリーにはつきもののナレーションもいっさい入れられていません。

本作に登場する9つの家庭の中でもとりわけ印象的なのは、末期の肺がんを患い寝たきりになった84歳の父親と、47歳の全盲の娘というふたりきりの家族。かいがいしく世話を続け、父親に死が近付いていることを娘は本当に受け入れることができているのか、小堀医師は懸念します。受け入れなければならない現実を小堀医師はどのような言葉で伝えたのか。そして最期の時、どのように動いたのか――ぜひ劇場で確かめてください。

末期の肺がんを患う千加三さん(右)と小堀医師。千加三さんが家を建てた時に植えたという庭の百目柿について話すシーンが印象的。
父親が亡くなる直前、自分のとってしまった言動を後悔する娘に小堀医師は言葉をかける。

「死」をテーマにしたドキュメンタリーというのは、言葉を選ばずに言えば「重苦しい」作品を想像する人も多いのではないでしょうか。しかし、過剰な演出を控えてシンプルに家族の情景を切り取った本作では、医療者と患者さんたちのユーモアあふれるやりとりや細やかな感情の動きを垣間見ることができ、心温まる場面がいくつもあります。

住み慣れた空間で、自然な最期を迎える。そうした人生の終わりは決して当たり前ではなく、実現するためにはさまざまな困難がつきまといます。そのような現実の中で、日常の延長にある最期を願ってやまない患者さんや家族のために、医師としてできることは何か。また自分が当事者になった時どのような選択をするのか――思いを馳せずにはいられなくなるでしょう。

<作品情報>
『人生をしまう時間(とき)』110分(ドキュメンタリー)
9月21日より渋谷シアター・イメージフォーラムほか、全国順次公開
監督・撮影:下村幸子 プロデュース:福島広明 編集:青木観帆、渡辺幸太郎
制作:NHKエンタープライズ 配給:東風 (C)NHK
『人生をしまう時間(とき)』公式サイト:https://jinsei-toki.jp/index.php

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