医療的ケア児とは、自宅もしくは学校などの日常的な環境で、医療的ケアが必要とされる児童のことです。近年、地域包括ケアシステムの構築として高齢者と障害者の支援が進んでいますが、医療的ケア児への対応が追いついていないのが現状です。そもそも、医療的ケア児とは、どのような子が該当するのでしょうか。今回は、医療的ケア児についてわかりやすく解説し、医師との関わりについてご紹介します。
<この記事のまとめ>
- 医療的ケア児とは、1つ以上の重要な機能の喪失または障害を有し、生活を維持するために医療的介入や支援を必要としており、基礎疾患を含め多様で、個別性が高い特徴があること。
- 訪問看護師、訪問歯科医、訪問薬剤師、保健師、管理栄養士、リハビリ職、学校教員などの連携による支援が行われる。
- 医療的ケア児は、個人差が大きく、個別性が高い特徴があるため、ライフステージを意識し、それに応じた診療、支援体制を作っていくことが重要である。
1.医療的ケア児とは

日本小児医療保健協議会合同委員会による「重症児・医療的ケア児を診療する医師としての指針(2022年2月)」によると、
医療的ケア児とは
▶1つまたはそれ以上の重要な機能の喪失または障害を有し、生活を維持するために医療の現場だけでなく教育や福祉、家庭等の生活現場においても医療的介入や支援を必要としている
▶その病態像は、基礎疾患を含め多様で、個別性が高い特徴がある
と示しています。
参照:厚生労働省 医療的ケア児について
参照:日本小児医療保健協議会合同委員会 重症児・医療的ケア児を診療する医師としての指針(2022年2月)
ここで指す「医療的ケア」とは、病院などの医療機関以外の場所(学校や自宅など)で日常的に継続して行われる、人工呼吸器による呼吸管理や喀痰吸引、経管栄養、気管切開部の衛生管理、導尿、インスリン注射などの医療行為のことです。なお、「医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律」によると、病気治療のための入院や通院で行われる医療行為は含まれないものとされています。
重症度は患者さんによって異なり、生活すべてにおいて介護を必要とするケースもあれば、自身でインスリン注射を行いながら自立した生活を継続しているケースもあります。
1-1.医療的ケア児が必要とするケアの内容
必要な医療的ケアは、医療的ケア児によってさまざまです。入院中であれば、医師や看護師によるケアが行われますが、在宅医療に移行した場合には、医療従事者の指導を受けた家族が行います。
在宅医療にて、医療的ケア児に主に行われている医療的ケアの内容は以下のとおりです。
1.人工呼吸器
2.気管切開の管理
3.鼻咽頭エアウェイの管理
4.酸素療法
5.吸引(口鼻腔内、気管内)
6.ネブライザーの管理
7.経管栄養
8.中心静脈カテーテルの管理
9.皮下注射
10.血糖管理
11.継続的な透析
12.導尿
13.排便管理
14.けいれん時の対応
1-2.障害児との違い
医療的ケア児と障害児の大きな違いは、「医療的ケアの必要性の有無」です。
医療的ケアとは、前述のとおり、吸引や経管栄養、人工呼吸器の管理などをはじめとする医療的行為を指します。医療的ケア児は、これらの医療的ケアが日常的に欠かせない状況にあり、
知的や身体、精神に障害がなくても、何らかの医療的ケアが日常的に必要な状況です。例えば、ADLのほとんどが自立している幼児であっても、排尿に何らかの障害があり、管を用いて排尿する導尿が定期的に必要であれば「医療的ケア児」に含まれます。
一方、障害児とは「知的や身体、精神に障害のある児童のこと」であり、必ずしも医療的ケアが必要であるとは限りません。ただし、医療的ケア児の 6〜7割は、重度の肢体不自由に加えて、重度の知的不自由が重なる「重症心身障害」とされています。
なお、医療的ケアの必要性が高い障害児は、主に以下の障害がある場合です。
1.呼吸機能障害
2.摂食嚥下機能障害
3.心・循環器系障害
4.内分泌系障害
5.膀胱直腸障害
2.医療的ケア児の現状

厚生労働省の統計によると0歳~19歳までの全国の医療的ケア児(在宅)は、2022年の時点で推計20,385人と報告されています。2005年の9,987人と比較すると15年の間に2倍以上に増加しています。
その中でも人工呼吸器を必要とする子どもは、2010年は10人に1人でしたが、2021年は4人に1人と、在宅で必要とする医療の重症度も上昇しています。
参照:小児在宅医療の全体像(行政とのかかわり〜制度まで) |厚生労働省
医療的ケア児の数の増加や医療の重症度が上昇している背景としては、さまざまな要因が関連しています。主な要因としては、総合周産期母子医療センターやNICUの増設など、高度な医療施設の整備が進んだこと、また、人工呼吸器などの医療機器や技術の進歩により、小児の生存率が向上したことなどが影響しているといわれています。その結果、出生直後に亡くなることの多かった超未熟児や、生まれつき病気を持つ子どもなどの命が救われるようになりました。
命が救われた多くの子どもたちは、生後数ヶ月から一年ほどで退院し、医療的ケアが必要な状況であっても家族や地域の小児在宅医療、社会福祉制度などの支援を受けながら在宅医療に移行します。
その一方で、これまで、地域包括ケアは高齢者や成人の障害者を対象に整備が進められており、児童に対する福祉が十分でない地域も少なくありません。医療的ケア児が増加しているにも関わらず、制度が整っていない、もしくは十分に機能していないのが現状です。
2-1.医療的ケア児とその家族への支援状況
日本の医療的ケア児への支援として、「医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律(2021年)」の制定などをはじめ、さまざまな環境の整備が進められています。しかし、医療的ケア児の場合では、受け入れる保育園や療育施設に看護師など医療従事者が必要となるため、施設や制度の利用が難しいのが現状であり、医療的ケア児への支援はまだ不十分な点が多くあります。そのため、医療的ケア児の主なケアは親が担い、仕事を辞めて24時間子どもにつきっきりにならざるを得ない状況です。
「医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律」では、各都道府県に医療的ケア児支援センターを設置することが義務付けられました。医療的ケア児の支援に携わる機関や専門職が研修や情報提供を受けることで、より質の高い支援の提供を目指します。
また、医療的ケア児支援センターでは、医療的ケア児に特化した相談窓口を設け、医療的ケア児とその家族が安心して生活できる環境の整備を進めています。
法律が施行されても、実際には地域格差があったり、まだ十分な支援を提供できていなかったりする場合もありますが、環境整備を進めることで医療的ケア児が支援を必要とする さまざまな職種間でしっかりと連携をとり、サポートできる地域包括ケアの実現が期待されています。
3.医療的ケア児を支える専門職

医療的ケア児の多くは在宅医療を必要とするため、小児在宅医をはじめ、訪問看護師、訪問歯科医、訪問薬剤師、保健師、管理栄養士、リハビリ職、学校教員などの連携による支援が行われます。
多職種の連携においても、その中でも医療的ケア児の成長に合わせた診療を担い、医療機器の管理調整や投薬、栄養管理など体調管理を担う小児在宅医が中心となるチームが形成されます。
また、医療的ケア児の場合は、小児在宅医はかかりつけの医療施設の医師とともに「ダブル主治医制」を採用している場合が多いため、必要な治療の程度に応じて高度医療実施医療機関・地域医療機関・在宅クリニックで分業して診療を行います。在宅診療では、対応が難しい場合には、すぐにかかりつけの医療施設の主治医と連携できる体制があることがほとんどです。
小児在宅医は、医療的ケア児が障害や病気をかかえながらも、その子なりのペースで成長発達するのを支援したり、成人医療への移行のかけ橋となったり、在宅での看取りを支えたりします。
小児在宅医は、ともに支援に取り組む多職種のコーディネーターの役割を担っている場合も多いのが現状です。各専門職と連絡を密にしとりながら、個々の医療的ケア児に寄り添った支援に取り組みます。
4.医療的ケア児を支援する医師に求められること

医療的ケア児の支援に携わる場合は、医師はどのような役割を担い、どのように配慮していくべきでしょうか。
4-1.医療的ケア児への個別的な配慮と対応
日本小児医療保健協議会合同委員会による「重症児・医療的ケア児を診療する医師としての指針(2022年2月)」において、医療的ケア児は、個人差が大きく、個別性が高い特徴があるからこそ「その子のライフステージを意識し、それに応じた診療、支援体制を作っていくことが重要である」と述べられています。また、医療的ケア児を支援する小児科医は、「ライフステージに沿った経過の中で急性および慢性的なニーズに対応し、調整することができなければならない。」と役割を説明し、変化を生じる状況においても適切な支援を提供できることが期待されています。
医療的ケア児に関わる際には、成長度に合わせて変化する症状に加え、個別性の高い症状に対応することになります。医師として、小児科の知識に加え、より個別化された状況に対応できるスキルが求められるでしょう。
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4-2.幅広いスキルとマネージメント能力
厚生労働省は「小児在宅医療を担う医師に必要な資質」を以下のように説明しています。
1.プライマリケアが実践できる
2.複数の医療デバイスの管理ができる(特に呼吸管理)
3.生活の中で行う医療の特徴を理解し、多職種連携をコーディネートし、地域包括ケアを実践できる
4.子どものライフステージを理解し、それに沿ったケアをコーディネートできる。
5.Patient & Family-Centered Careを理解し、実践できる
6.小児在宅医療の対象となる子どもにかかわる複数の医師の役割分担を理解し、その調整ができる
7.緩和医療を理解し、End of Life Careができる
参照:厚生労働省 小児在宅医療の現状と問題点の共有
参照:日本小児医療保健協議会合同委員会 「重症児・医療的ケア児を診療する医師としての指針(2022年2月)」
医療的ケア児は、地域での在宅支援が必要ですが、コーディネートできる専門職が不在であったり、十分に機能していなかったりするところも少なくありません。そのため、小児科医が各専門職と連携や調整を担う重要な役割を担うことがあります。
医療的ケア児のケアに携わる際には、厚生労働省の小児在宅医療の現状と 問題点の共有や日本小児医療保健協議会合同委員会による「重症児・医療的ケア児を診療する医師としての指針(2022年2月)」についても確認しておくと役立てられるでしょう。
4-3.社会的役割を担う重要性を理解する
医療的ケア児と家族が安心して地域で生活するためには、医療の提供だけでなくよりよい地域包括ケアシステムの構築に向けた社会的な役割を果たすことも重要です。医療的ケア児とその家族の代弁者としてさらなる地域包括ケアシステムの発展に向けて働きかけていく姿勢を持つことも大切です
5.医療的ケア児と家族にも配慮できる医師を目指そう
医療的ケア児の増加に伴い、医師が担う社会的な役割も大きくなっています。医療的ケア児への支援に携わる際には、個別性を踏まえて、それぞれの子どもや家族の背景や在宅での過ごし方を考慮し、納得して治療やケアを受けられるように配慮できるよう、専門的な知識を深めておきましょう。加えて、医療的ケア児は他の専門職との連携が欠かせません。普段から、関連する専門職との交流を深め、地域で提供される支援システムや制度についても確認しておくとよいでしょう。
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