「【01】医師の年収は高い? 低い?」「【02】高収入を目指すなら、勤務医よりも開業医?」「【03】都道府県別 医師の年収格差」に続き、第4回目となる今回は、診療科別に給与に対する医師の満足度について深掘りしていきます。金額だけを見れば、一見十分に見えても、身を粉にして働いていることを考慮すると、給与と労働量が見合っていないということも考えられます。満足度の高い診療科、低い診療科はどこなのでしょうか?
診療科別 医師の平均年収
全国の病院(20 床以上)に勤務する24 歳以上の医師を対象とした「勤務医の就労実態と意識に関する調査」(労働政策研究・研修機構、2012年)の、診療科別の平均年収を見てみましょう(ただし、アルバイトなどを含め複数の勤務先で働いている場合の、主たる勤務先での年収であることに注意してください)。
平均金額が最も高かったのは「脳神経外科」(1480.3万円)であり、次いで「産科・婦人科」(1466.3万円)、「外科」(1374.2万円)となっています。「脳神経外科」は年収が1000万円を超えている割合が最も高く(81.6%)、「産科・婦人科」は年収2000万円を超えている割合が最も高い(20.8%)点が目立ちます。
逆に、平均金額が最も低かったのは「眼科・耳鼻咽喉科・泌尿器科・皮膚科」(1078.7万円)であり、「放射線科」(1103.3万円)が次点となっています。
<経営形態別にみた主たる勤務先の年収・診療科別>
※無回答を除き集計
「勤務医の就労実態と意識に関する調査」(労働政策研究・研修機構、2012年)をもとに作成
診療科別の給与満足度は?
同調査によると、給与・賃金の額について「満足」「まあ満足」と回答した人の割合が最も高いのは「小児科」(51.2%)で、次いで「産科・婦人科」(47.6%)、「精神科」「麻酔科」(45.8%)、「脳神経外科」(44.7%)の順でした。
一方、「少し不満」「不満」と回答した人の割合が最も高いのは「救急科」(55.5%)で、次いで「呼吸器科・消化器科・循環器科」(46.1%)、「外科」(42.3%)となっています。
<診療科目別 給与・賃金の額に対する満足度>
「勤務医の就労実態と意識に関する調査」(労働政策研究・研修機構、2012年)より
医師不足が叫ばれる「小児科」や「産科・婦人科」で給与・賃金に対する満足度が高いのは、医療機関が人手を確保するために高い報酬を提示していることの表れかもしれません。
特に地方では、地域活性化のためにも若い世代をUターンさせる必要があり、小児科医や産科医の確保に血道を上げている状況が見て取れます。そう考えると、同じく医師不足が課題となっている「救急科」で満足度が低いのは、小児科や産科医に比べて高い報酬が提示されていない可能性もありますし、高い報酬が提示されていても業務内容に見合わないと医師が感じている可能性も考えられます。
また、内科系と外科系を比べるとどうでしょうか。最も代表的な一般内科では「満足寄り」(「満足」「まあ満足」と回答した人、以下同)が42.5%、不満寄り(「少し不満」「不満」と回答した人、以下同)が31.9%で、満足寄りのほうが優勢です。
一方、一般外科では満足寄りが38.8%、不満寄りが42.3%であり、内科系とは逆に不満寄りが優勢という傾向があります。
満足度を左右するのは給与と労働時間のバランス

わが国の報酬体系では、勤務医で同一施設内に勤務している場合、診療科によって医師の給与にそれほど大きな開きが出ることは考えられません。
アメリカでは、手術をバリバリこなす外科医の報酬は内科医に比べてケタ違いに高額になりますが、日本ではそういうことはあり得ないのです。せいぜいオンコールや当直の手当によって給与に多少の差が出てくるといった程度でしょう。
ということは、給与に対する医師の満足度は、単に金額の多寡によるわけではないこと考えられます。満足度に影響する大きなファクターのひとつとして考えられるのは労働時間ではないでしょうか。
<労働時間別 給与・賃金の額に対する満足度>
「勤務医の就労実態と意識に関する調査」(労働政策研究・研修機構、2012年)より
実際、主たる勤務先の週あたりの労働時間別に給与に対する満足度を見ると、おおむね労働時間が長くなるにつれて「満足寄り」の割合が低下しています。
週あたりの労働時間が「50~60時間未満」になると満足寄りと不満寄りが拮抗し(満足寄りが38.5% vs不満寄りが 37.7%)、60時間以上になると不満寄りが優勢になります。
診療科によって給与に大きな差が生まれない環境下で給与を増やそうとするならば、給与水準の高い他の医療施設へ転職するか、より労働時間を増やし手当の額を増やすといった選択が考えられるでしょう。
しかし、上記で見てきたように労働時間の増加が給与・賃金への満足につながらないことはデータから明らかです。それどころか、ワーク・ライフ・バランスを維持することが難しくなり、かえって不満を抱え込んでしまう恐れさえあります。
ただ、見方を変えれば、診療科によって給与に大きな差が生まれないということは、給与以外の要素に基づきキャリア(診療科)の選択をしやすいともいえます。国内で勤務医として働くならば、そのことをプラスにとらえるべきなのかもしれません。
現在の職場で収入を増やすことにこだわらないのであれば、他の医療機関でのアルバイト勤務を追加したり、より高収入を得られる医療機関へ転職したりすることを検討してもいいでしょう。
文:ナレッジリング