初期臨床研修は、新人医師のキャリア形成に欠かせないものです。しかし、研修を受ける環境やプログラムの内容などにおいて、病院ごとに差が出ることがあります。そこで、初期研修内容の質を評価する団体として設立されたのがJCEP(卒後臨床研修評価機構)です。
JCEPの評価を受ける際には病院全体で準備を進める必要があるため、医師として協力を求められる可能性があります。今回は、JCEPの概要や評価内容に加え、受審するメリットやデメリットについても解説します。
<この記事のまとめ>
- JCEP(卒後臨床研修評価機構)は、新医師臨床研修制度の質向上を目指し、医療機関の研修プログラムを評価・改善するNPO法人。
- JCEPの評価を受けるには、書面調査、訪問調査、フィードバックを経る必要があり、原則2年ごとの更新が必要。
- 臨床研修の質向上につながる一方で、医療機関にとっては準備や調査対応に時間・費用の負担がかかる課題もある。
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1.JCEP(卒後臨床研修評価機構)とは?
JCEP(卒後臨床研修評価機構)とは、新医師臨床研修制度を行っている医療機関を対象に、実施されている研修プログラムの基準を策定・公表、および評価事業を行うNPO法人です。
正式名称は、「NPO 法人卒後臨床研修評価機構(Japan Council for Evaluation of Postgraduate Clinical Training)」で、英語名称の頭文字をとってJCEPと呼ばれます。2007年に設立され、第三者機関として臨床研修の評価や改善を行い、医療の質向上に取り組んでいます。
1-1. JCEP設立の背景と遷移
JCEPが設立された背景の1つに、2004年に必修化された新医師臨床研修制度が関係しています。それ以前は、新人医師の進路として、直接医局へ入局するか、独自の研修制度を実施している医療機関に行くかを選択できる状況にありました。卒後研修が明確に統一化されておらず、研修を担う各医療機関の指導内容や質、プログラム内容や実施状況などにばらつきがあることが懸念されていました。
しかし、2004年に新医師臨床研修制度の必修化により、そうした研修の質のばらつきを把握する必要があり、標準化が進められたのです。2005年に、有志らによって「新医師臨床研修評価に関する研究会」が結成され、それを引き継ぐ形で2007年にJCEPが設立されました。
JCEPは、設立目的を以下のように掲げています。
「国民に対する医療の質の改善と向上をめざすため、臨床研修病院における研修プログラムの評価や研修状況の評価を行い、臨床研修病院のプログラムの改善、よい医師の養成に寄与する」
1-2.対象となる医療機関と認定病院数
JCEPでは、主に「基幹型臨床研修病院」や「協力型臨床研修病院」を対象に、研修プログラムの評価を行います。なお、医療機関側に評価を依頼する義務はありません(2024年9月時点)。
2024年9月時点で、305の臨床研修病院を認定し、2023年度の299施設と比べて、増加傾向にあります。とはいえ、厚生局・各都道府県が公表している基幹型臨床研修病院の総数は1028施設であり、認定病院は約3割にとどまっています。全国的にJCEPの受審が進められていますが、47都道府県中、栃木県、福井県、滋賀県、大分県の4県ではまだ認定を受けた病院はなく、地域差があるのが現状です。
1-3.臨床研修評価の具体的な流れ
JCEP臨床研修評価実施要領(2024年10月25日更新)によると、臨床研修評価の具体的な流れは以下のとおりです。
1.申し込み
2.契約
3.書面調査
4.訪問調査日とサーベイヤーの決定
5.訪問調査と受審証の発行
6.フィードバックと報告書・認定証の発行
7.公表
評価方法は、調査基準にそって各医療機関を訪問・調査後、教育的評価を実施し、病院長をはじめ、プログラム責任者、指導医、指導者、研修医、その他職員に直接的にフィードバック(形成的評価)を行う流れです。
受審結果が、JCEP の定める認定基準を達成している場合は、認定証が発行されます。卒後臨床研修は原則2年間の研修であることから、認定更新のための調査は2年ごとに設定されています。
また、調査結果より受審病院の「臨床研修体制」「臨床研修プログラム」が確認され、臨床研修の質が維持されると認められた場合は、訪問調査は4年後になります。
ただし、期間内においても2年ごとに定められた書類(更新書面調査)の提出が求められます。この書類をJCEPに提出しない場合は、認定更新は認められません。
2.JCEPによる評価方法と評価項目
2024年時点での訪問調査は、「研修プログラム通りに臨床研修が実践されているか」についてまとめた「JCEP評価調査票」に基づいて、サーベイヤー(3名程度)が評価を行います。
サーベイヤーは、「管理者等との合同面接」「記録・資料の確認」「設備・環境の確認」「研修状況の確認」「研修医、指導医、指導者へのインタビュー」を通して審査します。
▶JCEP評価調査票October 2023 臨床研修評価 評価項目
大項目 | 中項目 | 小項目 |
---|---|---|
臨床研修病院としての役割と理念・基本方針 | 2 | 5 |
臨床研修病院としての研修体制の確立 | 2 | 6 |
臨床研修病院としての教育研修環境の整備 | 4 | 15 |
研修医の採用・修了と組織的な位置付け | 6 | 17 |
研修プログラムの確立とその実践 | 5 | 23 |
研修医の評価 | 2 | 6 |
研修医の指導体制の確立 | 3 | 9 |
修了後の進路 | 3 | 4 |
計8項目 | 計27項目 | 計85項目 |
※JCEP評価調査票October2023 p1 を参考に作成
上記の項目は、「適切」「要検討」「要改善」のいずれかで評価され、さらに、小項目では3段階評価(a・b・c)が行われます。
例えば、「大項目1. 臨床研修病院としての役割と理念・基本方針」の中では、臨床研修病院のあり方について地域からの声に耳を傾けている」といった評価項目も含まれています。各病院内だけでなく、地域における臨床研修病院が果たすべき役割についても評価されます。
なお、受審時には以下の調査票を提出する必要があります。
▶臨床研修調査票October2023
項目 | 内容 | |
---|---|---|
1 | 基本情報 | 責任者、病床数 |
2 | 臨床研修指定区分・体制 | 連携、理念・基本方針、役割・機能の明示、研修管理委員会、指導体制、研修医の診療行為を確認する体制、研修医の参加する委員会、プログラム連携施設、研修プログラム、オリエンテーション |
3 | 医師数および患者数 | 分野別医師数、患者数、ICD疾患別患者数 |
4 | 職員の状況 | 職種別職員数、専門医師数 |
5 | 労働時間の状況 | 病院の主体性、研修医勤務状況 |
6 | 研修医の状況と環境整備状況 | 募集・採用、規程類、辞令、研修記録、臨床研修修了証、修了後フォロー、健康管理、給与・手当て、図書、研修機器、研修設備、外部研修活動、Web環境 |
7 | 医療安全管理の状況 | 委員会、研修医の医療事故発生時対応体制、患者相談窓口、医療関連感染 |
8 | 各部門の活動状況 | 救急医療体制、外来部門、研修期間と主な指導体制、精神科診療機能、臨床検査部門、病理診断部門(CPC)、手術部門、チーム医療、診療録管理部門、医療ソリューション |
9 | 研修の評価 | 研修医の評価、指導体制の評価、研修修了状況、修了者の到達目標の達成状況、医療記録の作成数 |
10 | 研修施設のQI | |
11 | 研修プログラムの研修分野別マトリックス表 | |
12 | 各分野の研修プログラム |
なお、JCEPの評価基準は毎年改訂されます。受審期間に適用される評価基準は、適時公式ホームページにて確認ください。
3.JCEPの評価を受けるメリットとデメリット
続いて、JCEPの評価を受けるメリットとデメリットについて見て見ましょう。
3-1.JCEPの評価を受けるメリット
病院側のメリットとしては、基幹型臨床研修病院として、統一基準に基づいた研修カリキュラム等を構築・運用しやすくなる点が挙げられます。
臨床研修の質が担保され、研修環境の整備が促進されるでしょう。評価を受けることで、研修医や研修希望者、病院見学者などの増加が期待され、研修医の労務環境や指導体制が改善される可能性もあります。さらに、調査に向けた準備を病院全体で進める必要があるため、職員全体に研修内容が周知され、「病院全体で医師を養成する」という意識を向上できます。また、他職種の教育システム改善や多職種連携教育の推進にも役立ち、医療の安全性確保や質の向上にも寄与すると考えられます。
研修医にとっても、JCEPからの認定を受けた臨床研修病院で研修を受ければ、質の高い研修を受けた医師と認識され、信頼を得やすくなるでしょう。また、研修期間中に受審がある場合、病院一丸となって準備を進めるため、多職種とともに学んだり共働したりする作業時間も増えます。研修への協力が得られやすい環境作りが進められ、将来につながる人脈作りの機会が得られる点もメリットといえるでしょう。
3-2.JCEPの評価を受けるデメリット
一方で、JCEPの評価を受けることによるデメリットもあります。
まず、高評価を目指すためには、準備にある程度の労力が必要です。JCEPの調査は、施設長や研修医だけでなく、評価を受ける施設全体の職員が対象となるため、施設内の一部だけで調査の準備を進める訳にはいきません。通常業務を担いながら、病院全体で調査を受ける準備を進める必要があります。
加えて、訪問調査は丸一日かかることから、業務をこなしつつ、調査に対応する時間も確保しなければならない点もデメリットといえるでしょう。なお、2008年からJCEPの認定を受け、2019年の更新時にエクセレント賞を受賞した東京都の立川相互病院は、書面調査に1カ月半、訪問調査に5カ月の準備期間を設けたと報告しています。
加えて、JCEPの評価を受けるために、高額な費用がかかる点もデメリットといえます。以下は、2024年9月時点での調査にかかる費用です。
●評価料
1.調査評価料(税込):新規、および更新〔2年後、または4年後〕
受審病院 | 新規調査 | 更新調査 | 更新書面調査 |
---|---|---|---|
機関会員 | 一括 220,000 円 | 一括 220,000 円 | 一括 33,000 円 |
非機関会員 | 一括 550,000 円 | 一括 517,000 円 | 一括 33,000 円 |
※更新書面調査:書面のみによる更新調査のことをいい、2年ごとに実施します。
2.再調査評価料(税込):条件付認定と判定された場合に適用する。
一括 110,000 円
参考:NPO 法人卒後臨床研修評価機構(JCEP)臨床研修評価 実施要領 p3
さらに2025年4月の調査から金額が変更されます。受審を予定している場合は、公式ホームページで最新情報をご確認ください。
4. JCEPについても理解を深めて受審準備を進めよう
JCEPを新規受審・認定更新する病院は、今後も増加していく見通しです。受審すると費用や準備にかかるコストが大きいものの、病院が担う臨床研修の質を高く維持するのに効果的です。さらに、研修医だけでなく関連する多職種の医療安全への意識を高めたり、労働環境を改善したりすることにもつながるでしょう。
勤務先がJCEPの評価を受ける予定があれば、準備の協力を求められるかもしれません。どのような情報が必要なのかを理解したうえで、業務と並行して効率よく対応できるよう準備を進めましょう。
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