レーシック手術やコンタクト検診などで多くの診療報酬が得られる眼科医に対して、数ある医師の診療科のなかでも年収が高いイメージをもつ方が多いのではないでしょうか。はたしてイメージ通り、眼科医の年収は高いのでしょうか。今回は、眼科医の年収事情と勤務実態について詳しく解説します。
- 眼科医の年収やワークライフバランスに関心がある方。
- 高額報酬のレーシック手術に興味がある方。
- 眼科医になるための臨床研修に関心がある方。
目次
眼科の年収事情

「医師・歯科医師・薬剤師統計」(厚生労働省、2020年)によると、医療施設に従事する眼科医の数は1万3,639人です。全医師数が32万3,700人なので、眼科医はそのうちの4.2%を占めます。
診療科目別にみてもっとも多い内科医が6万1,514人(19.0%)、次いで整形外科が2万2,520人(7%)、3番目が小児科医で1万7,997(5.6%)で眼科医は7番目の多さですから、想像よりも「多い」と感じる方もいるかもしれません。
さらに医療施設に従事する女性医師の割合を診療科目別でみたときに7.2%という高い割合を占める点も特徴です(内科の14.8%についで2番目の多さ)。また現役の眼科医の平均年齢は52.6歳で全体の平均年齢(50.1歳)と大きな差はありません。
とくにクリニックで勤務する眼科医の場合、日当直やオンコールを要さない仕事内容がメインとなることが多いため、ワークライフバランスを確保しながら勤務をしたい医師にとって働きやすい診療科目であると考えられます。
レーシック手術など診療報酬を多く得られる診療を受け持つイメージもあり、眼科医は年収が高いイメージがありますが実際はどうなのでしょうか。
「勤務医の就労実態と意識に関する調査」(労働政策研究・研修機構、2012年)によると、眼科医の平均年収は1,078.7万円となっています(本調査では耳鼻咽喉科、泌尿器科、皮膚科を合わせて集計)。調査対象となった全診療科の医師の平均年収は1,261.1万円であるため、意外かもしれませんが平均よりもかなり低い水準であるといってよいでしょう。また、年収1,000万円以上を得ている「眼科医・耳鼻咽喉科医・泌尿器科医・皮膚科医」は59.4%にとどまり、調査対象となった全診療科の中で最も低い割合となっています。
■診療科別・医師の平均年収
順位 | 診療科目 | 平均年収(万円) | (計n=2,876) |
---|---|---|---|
1 | 脳神経外科 | 1,480.3 | (n=103) |
2 | 産科・婦人科 | 1,466.3 | (n=130) |
3 | 外科 | 1,374.2 | (n=340) |
4 | 麻酔科 | 1,335.2 | (n=128) |
5 | 整形外科 | 1,289.9 | (n=236) |
6 | 呼吸器科・消化器科・循環器科 | 1,267.2 | (n=304) |
7 | 内科 | 1,247.4 | (n=705) |
8 | 精神科 | 1,230.2 | (n=218) |
9 | 小児科 | 1,220.5 | (n=169) |
10 | 救急科 | 1,215.3 | (n=32) |
11 | その他 | 1,171.5 | (n=103) |
12 | 放射線科 | 1,103.3 | (n=95) |
13 | 眼科・耳鼻咽喉科・泌尿器科・皮膚科 | 1,078.7 | (n=313) |
(独立行政法人 労働政策研究・研修機構「勤務医の就労実態と意識に関する調査」2012年をもとに作成)
最も割合が大きい年収帯は1,000~1,500万円未満(33.2%)であり、年収2,000万円以上は4.2%にとどまります。耳鼻咽喉科や皮膚科など比較的時間外労働の少ない診療科目を含めて算出していることも影響していると考えられますが、それらの診療科の医師を含めても突出して高水準の年収を得ている医師が少ない実情がうかがえます。
背景として、インターネットを経由してコンタクトレンズを購入する人が増加するなど、患者数が減少していることなどが影響しているかもしれません。
■眼科・耳鼻咽喉科・泌尿器科・皮膚科の年収階層別の分布
主たる勤務先の年収 | 割合(%) |
---|---|
300万円未満 | 2.6 |
300万円~500万円未満 | 8.3 |
500万円~700万円未満 | 12.5 |
700万円~1,000万円未満 | 17.3 |
1,000万円~1,500万円未満 | 33.2 |
1,500万円~2,000万円未満 | 22 |
2,000万円~ | 4.2 |
(独立行政法人 労働政策研究・研修機構「勤務医の就労実態と意識に関する調査」2012年をもとに作成)
また、同調査における「自身の給与額に対する満足度」にまつわる質問に対し、「満足」「まあ満足」と回答した「眼科医・耳鼻咽喉科医・泌尿器科医・皮膚科医」はわずか34.8%にとどまりました。これは調査対象となった全診療科のなかで3番目に低い割合です。ただし、「不満」「やや不満」と回答した41.2%も、他の診療科と比べて特段高い割合ではありません。
これらの結果から、眼科医の年収はそれほど高い水準ではないものの、ワークライフバランスが確保しやすい点などから働きやすさをプラスにとらえている医師が一定数いることがうかがえます。給与と労働時間に納得度がある、バランスのとれた診療科だといえるかもしれません。
[プライベートも重視したい医師におすすめの記事]
ワークライフバランスに関する記事一覧はこちら
眼科医の働き方と給与の特徴

眼科医の平均年収は意外と高くないことがわかりました。ですが眼科医の勤務事情は勤務先の業態や雇用形態によって大きく異なり、それに連動して年収事情も人によって変わってきます。
ここでは総合病院勤務の場合、クリニック勤務医・開業医の場合に大別し、それぞれの仕事内容と勤務事情について詳しく見ていきましょう。
2-1.総合病院勤務の眼科医の場合
総合病院に勤務する眼科医は、眼科医のなかでも比較的ハードな勤務になる傾向があります。手術やレーザー治療など、高度な技術を要する重篤な眼科疾患患者さんの診療に従事することもあり、幅広い症例をみながら経験・スキルを研鑽できるというメリットがあります。
手術件数が多い場合は時間外勤務が発生するためハードな勤務環境で働く医師も多く、入院施設のある医療機関では日当直やオンコールが求められることもあります。時間外勤務の長さに比例して給与も高くなり、他科の医師と同水準となることが一般的です。
2-2.クリニック勤務医・開業医の場合
眼科のクリニックは、診療内容が多岐にわたります。コンタクトレンズの検診などをメインにしている施設から、レーシック手術などの特殊な治療を専門的に行っている施設までさまざまです。そして勤務環境や給与水準も、診療内容によって変わる場合があります。
眼科の年収相場は、1,000万円から2,000万円ほどが多く、勤務形態や福利厚生もさまざまです。マイナビdoctorに掲載されている眼科医の求人を見ると、週4日勤務で年収800万円のところから、管理医師として週5日勤務で年収2,400万円~2,500万円のところまで、勤務地や働き方によって大きな差があります(※)。
検診をメインで行う医療機関は時間外勤務やオンコールがないために給与水準は低くなりますが、ワークライフバランスが確保しやすいという特徴があります。一方で、レーシック手術などの特殊な治療を行う施設では医師の経験や技量によっては高い年収を得られるケースが多く、都市部では年収2,000万円以上の報酬(※)を提示して医師を募集していることもあります。
高額な報酬が提示されている場合では、「管理医師として勤務可能な医師」「眼科専門医を取得している医師」などの条件が明記されているため、確認することが大切です。
眼科医は非常勤勤務(アルバイト)も人気

眼科医は、非常勤勤務(アルバイト)も人気のある診療科目です。アルバイトでは主にコンタクトレンズの検診業務や外来業務で需要があり、施設や地域により差はあるものの、日給10,000〜15,000円である場合が多く(※)、短時間の勤務で自由度が高いという点で子育て中の医師にもおすすめです。
また、「△曜日の午前中1コマ」などの勤務形態で単価にて求人している施設もあります。その他場合は、35,000〜55,000円が相場といえるでしょう。金額に差があるのは、勤務時間の長さや業務内容に違いがあるためです。
数は少ないものの、専門性の高い手術の非常勤勤務(アルバイト)を募集しているケースもありますので、非常勤勤務を検討中の眼科医の方は、希望の仕事内容の求人があるかどうかを転職エージェントに問い合わせてみてはいかがでしょうか。
眼科医が年収を上げるには?

ここまで紹介したように、眼科医はワークライフバランスを確保した働き方の選択肢が多い診療科です。眼科医が年収を上げるためには、専門医資格の取得はもちろんのこと、レーシックなどの特殊な治療技術を磨いておくと有利です。好条件で転職できる可能性が高くなるのみならず、非常勤勤務(アルバイト)でも好条件の求人に応募しやすくなります。
競争率が高くなるような好条件の求人が出た際にすぐに応募ができるよう、あらかじめ転職エージェントに登録をしておくことをおすすめします。
眼科医になるためのステップを解説

眼科医を目指す場合、どのような資格や経験が必要になるのでしょうか。続いて、眼科医になるためのステップを解説します。
5-1.6年間の臨床研修を行う
計6年間の臨床研修の内訳は、初期臨床研修が2年間、眼科専門研修基幹施設における眼科臨床研修が4年間です。具体的には、基本領域にて「眼科領域」を選び、研修基幹施設で専攻医になるための研修を受けます。眼科専門研修基幹施設は、現在(情報取得日:令和6年1月28日)110施設が承認されており、公益財団法人日本眼科学会のホームページ 眼科専門研修基幹施設で確認することが可能です。
また、2022年10月1日から眼科専門医制度は、「日本専門医機構の専門医更新基準」に則った新専門医制度が開始されています。
研修基幹施設には、大学病院と市中病院があります。大学病院の場合、眼科医として必要な臨床経験を積むだけでなく、医学発展のために研究活動に携わったりするキャリアプランにもつながります。一方、市中病院には、大学病院レベルの大規模病院から、地域医療を担う病院までさまざまです。市中病院は、大学病院よりも医師数が少ない傾向があるため、さまざまな症例や手技を経験したり、主体的に治療に関われたりするチャンスが広がります。市中病院の規模や教育体制は、施設ごとに特徴が異なるため、研修先を検討する際は情報収集のうえ、検討してみましょう。
5-2.眼科医になるのは最短でも30歳から
上述したとおり、眼科医になるまでの研修期間は6年です。順調に眼科臨床研修などを進めても、眼科医として働きはじめられるのは、最短でも30歳からが目安となります(医大を現役入学・卒業して24歳、そこから6年の研修を受けると最短でも30歳)。
さらにサブスペシャリティ領域まで進むとなれば、希望する領域で一人前として働くのはさらに時間がかかります。
5-3.眼科のサブスペシャリティ領域
眼科のサブスペシャリティ領域には、「角膜、網膜、ぶどう膜、緑内障、水晶体(屈折矯正)、神経眼科、眼瞼眼窩涙道、小児眼科」と幅広い専門分野があります。専攻医4年目にそれぞれのサブスペシャリティを決定し、研修をスタートすることが可能です。
サブスペシャリティ領域の専門的な診断技術、治療技術を身につけるためには、一般眼科臨床技術を修得した後に、大学病院眼科の専門外来や病棟診療、関連病院にて指導を受けながら、臨床経験を積むことになります。専門領域を深めることで、最先端の基礎研究や技術を利用して眼科医療に新しい概念や治療を見出したい、新しいことに挑戦していきたいと考える際には、大学院への進学を検討する選択肢もあります。
眼科医に関するよくある質問

眼科医の年収相場は、医師の平均年収と比較すると高いのでしょうか。こちらでは、眼科医の年収に関する質問について解説します。
6-1.眼科医は儲からないって本当?
先述の通り「勤務医の就労実態と意識に関する調査」(労働政策研究・研修機構、2012年)によると、眼科医(本調査では耳鼻咽喉科、泌尿器科、皮膚科を含む)の平均年収は1,078.7万円。同調査において、全診療科を対象とした医師の平均年収は1,261.1万円であることから、平均よりも低い相場であることがわかります。また、年収1,000万円以上を得ている「眼科医・耳鼻咽喉科医・泌尿器科医・皮膚科医」は59.4%にとどまり、他の診療科と比較すると少なく感じる人もいるかもしれません。
ですが、眼科はオンコールや当直業務に対応する頻度が少ない診療科です。この点を考慮すると、ワークライフバランスを維持しながら充分な収入を得られる診療科だといえます。
先に紹介した診療科別の平均年収を見ても、最も平均年収が高かった脳外科医と眼科の差は、400万円程度。オンコールや当直で非常に多忙な働き方をして高い年収を得るのか、プライベートの時間を確保しつつ、バランスの良い働き方で安定した収入を得るのか、一人ひとりが大事にしている価値観をもとに働き方を考えていく必要があるでしょう。
勤務医のままで収入アップを目指したい場合には、副業を増やすなど、働き方を見直す方法もあります。眼科は、専門領域で開業しやすい診療科です。開業医となれば勤務医と比べて収入が上がることもあるでしょう。
6-2.眼科医に向いている人の特徴とは?
眼科医に向いている人は、勤勉であることに加え、手先が器用で細やかな作業が得意な人でしょう。眼科の治療や手術は、特に繊細で丁寧な作業が必要になるため、手先を動かすことが苦にならず、得意な人が向いているといえます。
また、眼科では、診察から診断、薬剤治療〜手術と最初から最後まで一貫して自分の患者さんの治療に携われるのも特徴です。自分が主治医となる患者さんの全ての診療や治療、経過観察に携わりたいと考えている人にも向いているといえるでしょう。
更に、眼科は「角膜、水晶体、網膜、神経」など様々な分野や領域があり、内科から外科的側面と幅広いのも特徴です。例えば、眼瞼下垂や腫瘍をはじめ、涙道疾患、眼窩底骨折などは形成外科とも重複している疾患であり、このような疾患の治療は形成外科的なアプローチとも似ています。疾患に応じてアプローチを検討しながら幅広く対応して活躍したいという人にも向いているでしょう。
眼科の対象は小児から高齢者まで幅広く、健常者だけでなく何らかの障害を抱える人もいます。どのような人ともコミュニケーションがとれる人も向いているといえるでしょう。
また、視覚はQOLにも直結する要因の1つですが、眼科領域ではまだ解明されていないことも多くあり、日々の診療だけでなく研究にも携わりたいという人にもおすすめです。
眼科医として効率よく年収アップを目指そう
眼科医になるためには、医師免許取得後、眼科専門医の取得まで、最短でも30歳までの期間がかかります。その後、年収アップを目指すなら、自身のスキルを高めるのはもちろん、働き方を見直すことも考えてみましょう。眼科医として活躍しながら、効率よく年収アップを目指したい場合は、医師専門のエージェントに相談してみるのもおすすめです。
※本稿で紹介した年収額や時給額の相場はマイナビdoctorに掲載されている求人内容(2024年2月時点)にもとづく概算値であり、サイト内に掲載されている求人の報酬額を確約するものではありません。条件に合致する求人が見つからない場合は、マイナビDOCTORへお問い合わせください。
[医師にはどんな働き方がある?情報収集におすすめ]
年収・給料に関する記事一覧はこちら