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老年科専門医とは? 役割や資格取得までの道のりを解説

超高齢社会を迎えた日本では、高齢者医療の充実がますます求められています。そこで今注目を集めているのが、サブスペシャルティ領域のひとつである「老年科専門医」です。老年科専門医には、どのような役割があるのでしょうか。

本記事では老年科専門医の基礎知識や目指す専門的医療、老年科専門医になるまでの流れや資格について解説します。高齢者医療に携わりたいと考えている方は、ぜひ本記事を参考にしてみてください。

こんな方におすすめの記事です!

  • 老年科専門医がどのような専門領域かを知りたい方
  • 高齢者に特化した医療に従事したい方
  • 老年科専門医になる方法を知りたい方

目次

老年科専門医とは?

老年科専門医は、高齢者に特有の病気や体の不調に対し、専門的な知識を生かして診療・治療・サポートを行う医師です。内科を基盤とするサブスペシャルティとして、日本老年医学会が作成し一般社団法人日本専門医機構が認定しています。

高齢になると、同じ病気であっても若年層とは症状の出方や治療効果が異なり、複数の慢性疾患を同時に抱えることも珍しくありません。処方される薬剤の種類が増えることで、薬物有害事象のリスクも高まります。加えて、完治が難しい病気が多いため、治すことだけを目的とするのではなく、QOLの維持・向上につながる医療を提供することも重要な課題です。

一般的な内科では、それぞれの病気に対してガイドラインに従った治療を行うのが主流ですが、その結果過剰な医療の提供につながるケースもあります。また適切な治療を受けていても、日常生活に支障があれば、本人の不安は解消されません。

老年科専門医は、こうした高齢者ならではの複雑な課題に対して、患者さんひとりひとりの生活背景や価値観を重視しながら、適切な優先順位で治療・ケアを提供する専門医です。かかりつけ医として総合的な健康管理を担い、症状のコントロールとともに、生活の質を維持・向上させることを目的とします。

高齢化が進む現代において、老年科専門医の需要はますます高まっています。

老年科専門医が目指す専門的医療

ここからは、老年科専門医が提供を目指す専門的医療についてご紹介します。

高齢者の生活機能を維持・向上させる全人的医療

老年科専門医が提供を目指す専門的医療のひとつに、高齢者の生活機能を維持・向上させる全人的医療があります。

高齢者の場合、複数の疾患を抱えているケースが多い上に、その症状や老化の進行度合いにも個人差が大きいです。また症状や進行度合いは、住環境や生活習慣、家族関係、経済状態などに影響する部分も大きいため、患者さんの心の状態や社会的背景なども考慮した医療が求められます。

老年科専門医は、身体的・精神的・社会的な機能面に配慮しながら、高齢者の生活機能を維持・向上させて、QOLを高める医療を目指します。

高齢者の多疾患併存への診療アプローチ

高齢者の多疾患併存に対応する診療アプローチも、老年科専門医が提供を目指す専門的医療のひとつです。

多疾患併存とは、ひとりの患者さんが複数の慢性疾患を抱えており、どの疾患を診療の中心とするかの判断が難しい状態を指します。このような場合、各専門医が各疾患のガイドラインに沿った適切な医療を提供していても、患者さんの他院での治療状況を正確に把握できず、過剰な医療を提供しているケースも少なくありません。複数の薬を服用したり、さまざまな診療科を受診したりすることが、患者さんの負担になるケースもあります。

老年科専門医は、こうした患者さんの疾患や症状を包括的に把握し、優先順位を見極めた上で、適切な診療アプローチを行います。また複数疾患の治療による身体的・心理的な負担に配慮し、患者さん本人とそのご家族の生活に寄り添ったケアを提供することも、老年科専門医の重要な役割です。

高齢者のポリファーマシー対策

老年科専門医は、高齢者におけるポリファーマシーの対策も重視しています。ポリファーマシーとは、複数の薬剤を服用することにより、副作用などの薬物有害事象のリスクが高まる他、飲み間違いや飲み忘れ、薬を用いた治療への患者さんの参加意欲が低下するなどの問題を引き起こす状態のことです。

老年科専門医には、高齢者にとって薬物有害事象のリスクが高い薬剤を把握し、慎重に処方を行うことが求められます。また、患者さんやそのご家族の希望を尊重しながら、薬剤の処方に優先順位を付け、必要に応じて優先度の低い薬の処方の中止を検討することも必要です。加えて、代替となる非薬物療法の活用やお薬手帳を活用した情報の確認を通じて、適切な処方管理を行います。

老年科専門医になるには?

ここからは、老年科専門医になるためのプロセスや資格について解説します。

資格取得までの大まかな流れ

老年科専門医になるための大まかな流れは、以下の通りです。

1. 医師国家試験に合格する
2. 2年間の初期臨床研修を受ける
3. 内科専門医研修プログラム(3年間)に参加し3年以上の内科専門研修を受ける
4. 内科専門医資格認定試験を受験し、内科専門医日本内科学会認定内科医資格を取得する
5. 2年以上の老年科専門研修を受ける
6. 老年科専門医認定試験を受け、合格する

参考:厚生労働省「新たな専門医制度の背景と現状(改)」
参考:一般社団法人 日本老年医学会「老年科専門医認定試験」

受験資格

受験資格は、従来制度が対象か2018年に開始された新専門医制度が対象かによって異なります。

従来制度が対象の場合の受験資格は以下の通りです。

●日本内科学会認定内科医資格を取得している
●日本内科学会認定内科医資格取得後、2年以上の老年科専門研修を受けている(※2)

新専門医制度第1〜4期生の場合の受験資格は以下の通りです。

●新制度での内科専門医資格を取得している
●新制度での内科専門研修プログラムを修了した後、老年科専門研修施設で2年以上の老年科専門研修を受け、修了している

なお、老年科は新専門医制度における整備が遅れています。そのため、まず日本老年医学会の認定制度で老年科専門医を取得し、その後、5年後の更新時に機構認定の更新基準を満たすことで正式に移行するという形で進められています(2025年7月現在)。

参考:厚生労働省「新たな専門医制度の背景と現状(改)」
参考:一般社団法人 日本老年医学会「老年科専門医認定試験」

専門医認定試験の内容と形式

老年科専門医認定試験は、CBT(Computer Based Testing)方式で実施されます。

試験形式は多肢選択式問題で、出題数は115問で、試験時間は120分です。全国100カ所程度のCBTテストセンターで実施され、試験会場のコンピューターを使って回答します。

参考:CBTS 受験者専用サイト「老年科専門医認定試験」
参考:一般社団法人 日本老年医学会「老年科専門医認定試験」

資格の更新について

老年科専門医の認定期間は5年間です。

資格の更新を希望する場合は、5年ごとに所定の更新手続きが必要になります。更新には以下の要件を満たすことが求められます。

●年次学術集会や地方会などに参加し、50単位以上を取得していること
●そのうち25単位以上は、本会企画で取得していること

上記を満たした上で更新手続きを行うと、資格の更新が認められます。

参考:一般社団法人 日本老年医学会「老年科専門医:更新」

老年科専門医としてのキャリアと今後の需要

超高齢化社会に突入している今、老年科専門医の需要は高まっています。

しかし、一般社団法人 日本専門医機構が公表した「日本専門医制度概報【令和4年(2022年)度版】」によると、同じサブスペシャルティ領域である消化器病専門医が23,330名、循環器専門医が16,358名いるのに対し、老年科専門医は1,631名しかいません。

このように、老年医療のニーズに対して専門医の数が大きく不足しているのが現状です。そのため、老年科専門医になれば、多くの医療機関から求められる存在となるでしょう。

また高齢者に特化した医療はまだ発展の途上にあり、老年科専門医としての知見を生かすことで、これからの医療に大きく貢献できる可能性を大いに秘めています。患者さん本人だけではなく、家族や介護現場との連携も含めた全人的医療に取り組むことで、社会的にも意義のあるキャリアを構築できるでしょう。

参考:一般社団法人 日本専門医機構「日本専門医制度概報【令和4年(2022年)度版】」

高齢者医療のエキスパートとして自分らしいキャリアを

老年科専門医になり、高齢者医療のエキスパートとして活躍したいなら、環境の整備された医療機関への転職を検討するのも方法のひとつです。老年科領域の経験を深めたい方や、専門医取得を視野に入れている方は、医師専門の医療求人サービス「マイナビDOCTOR」をご活用ください。

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記事の監修者

眞鍋 憲正(まなべ かずまさ)

眞鍋 憲正(まなべ かずまさ)

信州大学医学部卒業 / 信州大学大学院疾患予防医科学専攻スポーツ医科学講座 博士課程修了 / UT Southwestern Medical Center, Internal Medicine, Visiting Senior Scholar / Institute for Exercise and Environmental Medicine, Visiting Senior Scholar / UT Austin, Faculty of Education and Kinesiology, Cardiovascular aging research lab, Visiting Scholar

【監修者コメント】

老年科専門医は複数の慢性疾患や機能低下、認知症対応などを含む高齢者医療を引き受け、在宅医療から急性期、回復期まで患者の生活背景を踏まえた統合的ケアを提供します。
取得には内科や総合診療で基礎を固めた上で、専門プログラムで多様な症例経験を積む必要があります。超高齢社会で高齢者のQOL向上に直結する、今後ますます求められる専門領域です。

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