近年、画像読影などの放射線診断や、がん治療に必要な放射線治療の需要が拡大しています。そうしたなかAIの導入により、放射線科医の仕事が代替されるのではないか、という不安の声もあるようです。今回は、放射線科医の将来性について、現状と医療分野のAI導入なども合わせて詳しく解説します。
こんな方におすすめの記事です!
- 放射線科医の仕事内容や専門分野ごとの違いを整理したい
- 放射線科医としての働き方や収入事情を知りたい
- AI導入によって放射線科医の仕事がどう変わるのか気になる
目次
放射線科医の主な業務

放射線科医は、X線写真をはじめ、CTやMRl、超音波検査(エコー)、核医学検査(PETを含む)などの画像診断や、画像誘導下での局所治療(lVR: Interventional Radiology/インターベンショナルラジオロジー)などを含む「放射線診断」と、X線やガンマ線などの放射線を用いた侵襲性の少ない「放射線治療」の2つに大別されます。
現在の医療は、「画像診断なくして成り立たない」と言及されるほど、放射線科医は重要な役割を担っています。また、画像診断は、「医療の質を保証する第1歩」ともいわれ、放射線科医は各診療科の診療に大きく貢献しています。放射線診断の一環として、IVRや化学療法を組み合わせた進行がんの治療も担当します。
さらに、放射線治療においては、放射線科医は臓器温存を目指すピンポイント治療をはじめ、近年では、粒子線治療(陽子線・重粒子線)などにも携わります。例えば、MR画像誘導放射線治療装置(MRIdian:メリディアン)のような、リアルタイム画像を用いた精密照射装置の導入も進み、テーラーメイドでの治療も提供できるようになりました。放射線治療は、侵襲性の低いがん治療法として、これまで以上に注目を集めています。
どちらの領域においても正確さと専門性が求められる業務であり、放射線科医の必要性と重要度は年々増しているのが現状です。
放射線科医の現状

続いて、放射線科医の現状について見てみましょう。
放射線科医は、全医師のうち、わずか2.2%程度
厚生労働省が発表した「2022年度 医師・歯科医師・薬剤師調査」によると、医療施設に従事する全医師数32万7444人のうち、放射線科医はわずか7,288人で、全体の2.2%でした。
前回調査では、7,112人(2020年度)であり、わずかに増加しているものの、医療施設に従事する全医師数の約2%と大きな変化はありません。
放射線科専門医の人数
放射線科の専門医には、画像読影を担う「放射線診断専門医」と、放射線治療に関わる「放射線治療専門医」の大きく2つがあります。
現在、放射線診断専門医は約5,600名、放射線治療専門医は約1,200名。総合内科専門医が約44,000名であることを考えると、かなり少ない状況です(2025年6月調べ)。
参照:放射線科専門医にお任せください|一般社団法人日本放射線科専門医会・医会
参照:総合内科専門医名簿|一般社団法人日本内科学会
日本の放射線科1人当たりの読影件数は世界一位ともいわれており、CTの検査数は過去15年間で約5倍に増加しています。また、日本は先進国のなかでも、CTやMRIなど放射線画像診断装置の保有台数が、対人口比で世界一位とされています。しかし、対応できる専門医が少なく、需要過多の状況にあります。
なお、日本専門医機構は、「放射線カテーテル治療専門医」の専門研修カリキュラムの開始(時期未定)に向けて準備を進めています。今後、放射線科医の需要はさらに高まることが考えられており、専門性の高い放射線科医の増加が期待されています。
参照:令和4(2022)年医師・歯科医師・薬剤師統計の概況|厚生労働省
参照:令和2(2020)年医師・歯科医師・薬剤師統計の概況|厚生労働省
参照:救急IVR認定医試験について|一般社団法人日本インターベンショナルラジオロジー学会
放射線科医の働き方と収入事情

放射線科医は、メインとする領域によって働き方が異なります。主な働き方として、放射線診断専門医と放射線治療専門医の例を見てみましょう。
画像読影をメインとする放射線科医(放射線診断専門医)の働き方
放射線診断専門医は、病院に所属するケースだけでなく、読影専門の企業やクリニックに勤務する場合や、フリーランスとして在宅ワークを行う場合など、働き方が多岐にわたります。
病院に所属している場合、院内にある複数の診療科から読影依頼を受け、優先順位を加味しながら対応します。画像診断を専門に担う企業やクリニックに所属する場合、遠隔での対応が多く、全国の医療施設からの依頼を受けて読影を行います。さらに、そうした読影専門の企業やクリニックから業務委託を受け、在宅で読影を行う働き方もあります。
基本的にはデスクワークで、患者さんと直接関わる機会は少なく、時間外勤務も少ないのが特徴です。そのため、子育てや介護、趣味の時間などプライベートな時間を確保したい場合のようにワークライフバランスを重視する医師にとって、大きなメリットがある働き方といえるでしょう。
しかし、読影結果は診断に大きな影響を与えるものであり、決して「楽な仕事」ではありません。常に正しい判断が求められ、緊張の連続です。1人当たりの読影枚数が多く、多忙になることもあるでしょう。また、近年では検査に用いる医療機器やツールなどにおいて、新たな技術が次々と導入されています。こうした機器類を理解し、効果的に活用するために、最新情報の収集や、読影技術の研鑽に努める必要があります。
収入面においては、働き方によって異なるものの、比較的安定した収入を得られるでしょう。病院勤務の場合、他の臨床医とは異なり、時間外勤務やオンコール、日直、宿直などがほとんどないため、手当による収入アップは見込みにくいでしょう。
読影専門の企業やクリニックでは、契約によって、一件あたりの単価が決まります。基本的には、年俸制もしくは定額報酬となりますが、契約先によっては読影枚数によってインセンティブが発生する場合もあります。
加えて、在宅ワークが可能なため、常勤医の副業として収入アップを目指す方法もあります。ただし、こうした収入アップを目指す場合、「放射線診断専門医」の資格は必須です。
放射線治療をメインとする放射線科医(放射線治療専門医)の働き方
放射線治療専門医は、がん治療を行う医療施設に所属して働くケースがほとんどです。他の臨床医と同様に、外来を受け持ったり、主治医として患者さんを担当したりするため、緊急対応を行うこともあります。そのため、時間外勤務や日当直を担当することもあるでしょう。
また、がん領域ではチーム医療として、さまざまな診療科と関わりながら業務を進めます。治療計画の立案や経過観察などの業務もあり、読影を専門とする放射線科医の働き方とは大きく異なります。日当直やオンコール対応などを含め、多忙な勤務となりますが、時間外労働や当直などの手当てが含まれる分、画像読影を専門として働く放射線科医と比べて、給与水準は高くなる傾向にあります。
放射線科でキャリアを築く価値や意義

放射線科医の仕事は、他の診療科との連携が欠かせません。画像読影では、複数の診療科から依頼があり、それぞれの疾患に対して知識や経験を深めておく必要があります。がん治療に携わる場合でも、チーム医療として他職種との連携を行いながら、放射線治療を担います。放射線科医は、病院全体の診療レベル向上に寄与する重要な役割を担っており、大きなやりがいを感じられる仕事です。
また、放射線科は「最先端のAI技術に最も近い診療科」ともいわれています。放射線科領域は、医療機器や技術の開発などにおいて、目覚ましい進歩が見られ、日々の業務のなかで、最新知識や技術に触れられるのも魅力の1つです。一方で、放射線科医の業務は、「全てAIに代替されるため仕事がなくなる」ということを懸念する声も見られます。
しかし、実際のところ、北米放射線学会(世界で最も大規模な放射線学会)において、「放射線科こそが医療へのAI導入の先進的・中心的役割を果たす」という見解も発表されており、医療分野全体のAI活用をけん引する診療科ともいえます。AIに興味がある人ほど、放射線科での活躍が期待できるのかもしれません。
とはいえ、現状では、AIはあくまで支援の一部です。AIは、データを蓄積することによって精度があがるものであり、情報の積み重ねが求められます。現時点では、比較的単純な画像判別であれば、AIでも対応可能とされていますが、患者さんごとの臨床的素因を考慮しつつ、患者さん本位の臨床医療のプロセスを検討することは、まだAIにはできません。また、新たな撮影方法を開発したり、新たな画像評価の方法を検討したりすることも、現在のAIには困難でしょう。
将来的な業務効率化のために、AIの強化を行うとしても、現時点においては、放射線科医がデータを蓄積し、幅広い知見や経験を反映させるための過程にあるといえます。同時に、現時点でのAI技術で初期診断を行い、より細かい部分を放射線科医が判断していくという業務効率化が可能で、AI技術と親和性が高いと考えられます。今後、ますます医療分野へのAI導入が進められるなかで、放射線科医はその有用性と妥当性を評価する中心的な役割を担うことになるのではないでしょうか。
AI導入により放射線科医の仕事はどう変わる?

近年、政府主導でのAI導入が進められています。そのうち、放射線科医が関わる領域としては、ゲノム医療(がん治療最適化)や画像診断支援、診断・治療支援(AI問診サービス、医療ビッグデータなど)などが挙げられます。放射線診断と放射線治療、それぞれのケースで考えてみましょう。
放射線診断において、読影に関わるAIの役割
画像診断を補助するAIツールでは、読影時間の短縮や精度の向上が期待されています。具体的には、AIが読み込んだ画像から、疾患と推定される場所をマーキングで通知したり、悪性度を数値で示したりします。
そのほか、現在、AIが読影を補助できる機能は主に次の5点です。
・異常所見の抽出
・病変の識別
・疾患名候補の提示
・各臓器・部位のセグメンテーション
・レポーティング支援 など
こうした補助ツールの活用で、読影業務の効率化が進み、人手不足の解消やスムーズな診断につながります。
とはいえ、最終的な判断は、放射線科医が担うものであり、現時点において、AIはあくまで補助にすぎません。放射線科医は、AIをコントロールする立場となり、将来的には他科と連携しながら、AI技術と臨床医療をつなぐ役割を果たすものと期待されています。
放射線治療におけるAIの役割
放射線治療においても、AIの活用が進んでいます。
例えば、がん治療で使うCTやMRIの画像をもとに、AIは腫瘍の位置や守るべき臓器などの輪郭を、自動で正確に描き出すことができるようになりました。さらに、過去の治療データをもとに、放射線を当てる時間や強さなどを提案するAIも開発されています。こうしたAI技術を取り入れることで、治療がスムーズになり、医師の負担軽減が期待されています。
人手不足が続く放射線科領域において、AIの導入は、医師一人当たりの負担を軽減してくれる大きな助けとなると考えられます。AIを活用しながら、医師はより患者さんに寄り添う時間が確保でき、質の高い医療を提供できるようになるでしょう。とはいえ、AIはあくまで補助であり、安全に使うための知識が求められます。
AIによる読影、診断の精度が高まったとしても、その診断責任を負うのは医師です。法的な責任は医師にあることを踏まえて、AIを活用できるスキルが問われます。
最新技術を活用できる放射線科医として幅広く活躍しよう
今回は、放射線科医の将来性について解説しました。同じ放射線科医であっても、専門領域によって働き方が異なるものの、今後も放射線科医の需要は大きいと考えられます。ライフステージの変化があっても、働き方や勤務先などを調整しながら、安定してキャリアを積むことができるでしょう。放射線科医は、今後のAI時代にも活躍できる専門性の高い診療科といえます。将来性の高い転職先・転科先として考えてみてはいかがでしょうか。
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記事の監修者

小池 雅美(こいけ・まさみ)
小池 雅美(こいけ・まさみ)
医師。こいけ診療所院長。1994年、東海大学医学部卒業。日本医学放射線学会・放射線診断専門医・検診マンモグラフィ読影認定医・漢方専門医。放射線の読影を元にした望診術および漢方を中心に、栄養、食事の指導を重視した診療を行っている。女性特有の疾患や小児・児童に対する具体的な実践方法をアドバイスし、多くの医療関係者や患者さんから人気を集めている。
