医師の働き方にはさまざまな形がありますが、企業や施設から委託を受けて働く「嘱託医」もその一つです。では、嘱託医はどのような職場で、どのような働き方をするのでしょうか。今回は、嘱託医の働き方に注目し、勤務先や嘱託医になるメリットやデメリット、年収事情などについて解説します。
- 定年後も医師として柔軟に働き続けたい方。
- 介護施設や企業など多様な職場での働き方に興味がある方。
- 嘱託医としてのメリットや収入事情を詳しく知りたい方。
目次
嘱託医とは?

嘱託医とは、「医療機関や企業、行政などから委託を受けて一定期間、働く医師」を指します。ただし、厚生労働省などの規定として明確にされた定義はなく、業務委託を受けて働く医師全般といえます。例えば、生命保険会社から委託を受けて診療や治療を行う場合や、企業に決められた曜日に訪問する産業医などが代表的です。また、定年退職後に、同じ施設で再雇用として一定期間働く場合も、嘱託医と称される場合があります。
嘱託医は、一般的な勤務医とは異なり、非常勤に近い立場で、委託を受けた施設に定期的に訪問します。訪問先となるのは、介護現場をはじめ、障害者支援施設や企業内の医療施設などさまざまです。なかでも、超高齢社会を迎えた日本では、介護施設における嘱託医の需要が高まっています。
医師が嘱託で働く職場と仕事内容

改めて、嘱託医として働く職場や仕事内容について、詳しく見てみましょう。代表的なものをいくつか紹介します。
2-1.企業や教育機関
嘱託医の代表的な職場として挙げられるのが、企業です。労働安全衛生法により50人~999人規模の事業場には、嘱託産業医の設置が義務付けられています。毎週決まった曜日に企業に訪問し、社員の健康管理に携わります。そのほか、企業や教育機関などで健康診断を行うこともあります。ただし、嘱託産業医として働くためには、医師免許のほかに「日本医師会認定産業医の研修を修了していること」、「労働衛生コンサルタント(保健衛生区分)に合格していること」などいずれかの条件を満たす必要があります。
嘱託医の代表的な職場として挙げられるのが、企業です。労働安全衛生法により50人~999人規模の事業場には、嘱託産業医の設置が義務付けられています。毎週決まった曜日に企業に訪問し、社員の健康管理に携わります。そのほか、企業や教育機関などで健康診断を行うこともあります。ただし、嘱託産業医として働くためには、医師免許のほかに「日本医師会認定産業医の研修を修了していること」、「労働衛生コンサルタント(保健衛生区分)に合格していること」などいずれかの条件を満たす必要があります。
(参考:厚生労働省|労働安全衛生法に規定する産業医制度)
2-2.高齢者向け介護施設
高齢者を対象とする介護施設では、利用者のかかりつけ医として健康管理を担ったり、看取りに携わったりします。社会福祉法人若竹大寿会(神奈川県)の調査では、嘱託医が高齢者施設においてかかりつけ医機能を十分に発揮できれば、医療費の抑制につながると報告されています。高齢者向け施設における嘱託医のさらなる活躍が期待されています。
2-3.助産所
平成18年の医療法改正において、分娩を取り扱う助産所の開設者は、分娩時等の異常に対応するため、病院または診療所において「産科又は産婦人科を担当する医師嘱託医」と、連携医療機関を定めることとなっています(法第19条)。嘱託医は、助産所と連携しながら妊婦健診や新生児の保健指導を行ったり、母子の健康管理に向けた相談などを受けたりします。
2-4.保育園
保育園の嘱託医は、園児の健康診断をはじめ、食中毒や感冒などの感染症対策、慢性疾患やアレルギー性疾患などの相談に対応します。そのほか予防接種の推進といった役割もあり、園児の健やかな成長と健康管理を担います。
2-5.医療機関
勤めていた医療機関などで、定年退職後の再雇用として嘱託医となる場合、「有期契約」として1年ごとに更新しながら働くことが多いでしょう。先にもお伝えしたように、「嘱託医」の明確な定義はなく、委託元との契約内容によって仕事内容や待遇などが異なります。再雇用の場合でも、契約内容を十分に確認することが大切です。
2-6. 障害者支援施設
障害者支援施設において、嘱託医は利用者のもつ障害に応じ、健康管理や療養上の指導を担います。生活介護を行う障害者支援施設には、施設規模や条件に応じて、配置医として必要な数の医師を配置する義務があります。配置医は「嘱託医でも可」と明記されており、常勤である必要はありません。
(参考:厚生労働省|生活介護を実施する施設の医師配置)
嘱託医として働くメリット・デメリットは?

続いて、嘱託医として働くメリットとデメリットについて確認しておきましょう。
3-1.嘱託医として働くメリット
嘱託医のメリットの代表的なものとして、以下の4つが挙げられます。
1.ワークライフバランスが整いやすい
嘱託医は、常勤医とは異なり、契約した曜日や時間帯で働くことができます。当直やオンコール対応などの機会は少なく、短時間勤務のケースもあるため、心身にかかる負担が軽減されるでしょう。プライベート時間も充実しやすく、ワークライフバランスが整った働き方が可能です。無理なく働けるため、定年後や子育て中の働き方としてもおすすめです。
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2.医師としてスキルアップできる
嘱託医は、医療機関だけでなく、企業や福祉現場などさまざまな場所で活躍できます。それまでとは異なる環境で求められる役割や業務を担いながら、新たな知識や技術を身につけられるため、医師としてのスキルアップにつながります。
3.年齢を問わず働きやすい
嘱託医は、契約内容に沿って定期的に企業や施設に出向き、決められた時間のみ働くため、ワークライフバランスを維持しやすい働き方です。そのため、年齢を問わずにそれぞれが働きやすい労働条件で医師として活躍できるのも大きなメリットです。また、嘱託医の勤務先を選ぶ際に、自分の専門性やこれまでの経験を活かせる職場を選べば、働きやすく、やりがいにもつなげられるでしょう。定年後の働き方として、検討するのも一案です。
4.複数の勤務地で働くことも可能
ある施設で常勤医として働きながら、別の施設で嘱託医として働いたり、嘱託医として複数の施設で働いたりするなど、兼業しやすい点もメリットといえます。労働時間や職種、勤務日数などの条件にもよりますが、嘱託医としての仕事を複数組み合わせることで、常勤のみで働く場合より高収入になる可能性もあります。
3-2.嘱託医として働くデメリット
1.収入が減ってしまう可能性がある
嘱託医は、契約によって業務日数や時間が決められます。契約内容や契約数によって異なりますが、常勤医と比べて、以前より収入が減ってしまう可能性もあります。また、常勤医とは異なり、福利厚生が利用できない、健康保険の自己負担分が増えるといった待遇面での負担が大きくなる場合もあります。
2.社会保険や確定申告などの手続きが必要になる
嘱託医の収入は、給与所得ではなく、事業所得として取り扱われることがあります。契約内容によっても異なりますが、給与と判断されない場合、自身で確定申告を行う必要があります。
そのため、パートや非常勤などで兼業していれば、本来は確定申告が必要になるケースがほとんどです。常勤医と嘱託医を兼業している場合でも、忘れずに確定申告しましょう。また、労働時間が短くなると、パートタイム扱いになり、社会保険の手続きが変更になるケースもあります。条件を確認したうえで、適切な手続きを行うことが大切です。
嘱託医の収入事情

嘱託医は、働く場所だけでなく仕事内容も幅広いのが特徴です。そのため、嘱託医の収入も、働き方によって異なります。「勤務地域、専門領域、臨床経験とスキルなど」によって年収は変動するため、契約前に確認することが大切です。ここでは、嘱託医の年収例として、産業医勤務(非常勤)と、高齢者施設で働く場合の相場を紹介します。
4-1.産業医の収入相場(非常勤)
嘱託医として企業に訪問する産業医の収入相場は非常勤とほぼ同様で、時給制と単価制があります。マイナビDOCTORの産業医非常勤(アルバイト)求人を参照すると、時給は8,000円~15,000円程度が相場といえます(2024年2月時点)。金額に幅があるのは、勤務地域や業務内容によって条件が変動するためです。
一方、単価制の場合では、「毎月1度の出勤」「2カ月に1度の出勤」などの条件が提示され、平均単価は2時間勤務で4万円~5万円ほど(2024年2月時点)。なかには、移動時間も時給換算される好条件の案件もあります。
4-2.高齢者施設での収入相場
高齢者施設における嘱託医の契約料金は、2017年では週1回の診察で5万~10万円程度、月額にすれば20万~40万円程度が相場といえます。
高齢者施設において、嘱託医は利用者の健康管理に加え、看取りを担う場合もあり、契約内容によっては業務量に見合わない収入と捉えられる場合も少なくありません。
社会福祉法人若竹大寿会の調査によると「嘱託医への委託費が高い施設ほど施設内看取り率が高く、入院に伴う減収も少ない」ということが明らかになっており、嘱託医が受け取る契約費(委託費)の増加が期待されています。
嘱託医は、ワークライフバランスの維持や定年後の働き方としておすすめ
嘱託医は、活躍できる職場も幅広く、仕事内容もさまざまです。ワークライフバランスを維持して働きたい場合や、定年後に医師として働き続けたいときの選択肢の1つとして考えてみてはいかがでしょうか。これまでの経験を活かして働くだけでなく、新たに研修を受けて嘱託産業医として活躍することもできます。それぞれの目指す働き方を実現できるように、準備を進めましょう。嘱託医として働くために効率的に必要な準備を進めたい場合は、医師専門のエージェントに相談するのもおすすめです。