多くの医師が夢見る開業ですが、資金調達や患者獲得といった課題が立ちはだかります。
そんな中、効果的な解決策として「医院継承」が注目されています。医院継承は、既存の医院を引き継ぐことで、新規開業時のリスクや初期投資を大幅に軽減できる可能性があります。しかし、これには独自の課題やリスクも伴います。
本記事では、医院継承のメリットとデメリットを詳細に解説し、医師が開業の道を選ぶ際の重要なポイントを提供します。成功への道を模索する医師にとって、この記事はあなたのガイドラインとなるでしょう。
ぜひ最後までお読みいただき、あなたの開業計画に役立ててください。
〈本記事のまとめ〉
- 医院継承とは、閉院を検討している経営者から開業希望者へ医療機関を譲渡して経営を存続させること。後継者不足により、医院継承のニーズは拡大している。
- 開業したい医師にとって、医院継承は低コストで開業ができるうえ、医療スタッフ・患者さんを引き継ぐことができ経営が軌道に乗りやすいというメリットがある。
- 医院継承による開業を成功させるには、前任者と新任者による入念な条件交渉がポイント。仲介サービスを利用すると条件交渉や情報収集をスムーズに進めやすい。
- 分院を展開する場合、「多店舗展開型」「水平展開型」「垂直展開型」の3つの方法がある。
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目次
1.医院継承とは?
2.医院継承のメリット
2-1.メリット①低コストで開業できる
2-2.メリット②経営が軌道に乗りやすい
2-3.メリット③医療スタッフを引き継げる
3.医院継承のリスク
3-1.リスク①前経営者とのトラブル
3-2.リスク②医療スタッフや患者さんの反発
4.医院継承と通常の開業、どちらがおすすめ?
5.医院継承後に分院展開を行う際の3つの方法
5-1.多店舗展開型:同じサービスを別地域で展開
5-2.水平展開型:似た診療科を展開
5-3.垂直展開型:小規模の店舗で展開
6.医院継承に関するよくある質問
6-1.医院を継承する際にかかるコストや相場はどれくらい?
6-2.医院継承の手続きはどのようなものがある?
6-3.医院・クリニック継承で失敗することもあるって本当?
1.医院継承とは?
医院継承とは、閉院を検討している経営者が開業希望者に既存の医療機関を譲渡し、新たな経営体制で医療機関を存続させることです。譲り受けるのは、親族や第三者(個人または法人)などさまざまです。譲り受ける側は経営者に対価を支払いますが、コストをおさえて開業できるというメリットがあります。
昨今は少子高齢化の影響もあり、後継者不足に悩む企業や医療機関が増加傾向にあります。「医療機関の休廃業・解散動向調査」(帝国データバンク、2021年)によると、2021年に休廃業・解散した医療機関は567 件で、前年比10.3%増となり、2019年以降3年連続で500件を超えています。そのうち、診療所(クリニック)は全体の83.1%に及び、大部分を占めています。
また、上記の調査では、2021年時点で、医療機関の代表者は60歳以上の割合が多く、特に診療所では全体の82.5%に及びます。うち、70歳以上が42.0%と高齢化が進んでいます。診療所の代表者の年齢分布の経緯を見ると、2011年時点では56歳が最も多かったものの、2021年では66歳が最多となり、世代交代が進んでいない状況にあります。今後、代表者の高齢化がますます進むことが考えられ、今以上に休廃業を選択する医療施設が増加すると考えられます。
こうした背景から、医療機関を譲渡したい側と開業したい側、双方のニーズをかなえる「医院継承」が注目を集めています。医院継承は、地域医療が存続するためにも有効な方策であり、その土地で生活する患者さんにとってもメリットがあります。近年は医師のための開業支援サービスでも契約が成立するケースが増えています。
2.医院継承のメリット
医院継承のメリットとして以下の点があげられます。
- メリット① 低コストで開業できる
- メリット② 経営が軌道に乗りやすい
- メリット③ 医療スタッフを引き継げる
詳しく見ていきましょう。
2-1.メリット①低コストで開業できる
クリニックを新規開業する場合、準備することが盛りだくさんなうえ多額の費用がかかります。例えば、開業する土地や物件の調査、内装・外装の修繕や工事、医療機器や什器等の選定と購入、医療スタッフの採用、地域の患者さんを集めるための広告宣伝などです。このように多額の初期費用がかかることが開業の最大のハードルとなっています。
その点、医院継承であれば、土地や建物、医療設備をそのまま引き継げるため、開業の初期費用を大幅に抑えることができます。新規開業にこだわる場合、融資を受ける方法もありますがその返済額は先々の経営に重くのしかかってきます。医院継承でコストを抑えることによって心理的な負担を軽減でき、スムーズに開業を行ううえでもプラスにはたらくでしょう。
2-2.メリット②経営が軌道に乗りやすい
医院継承によって開業をすると、既存の患者さんを引き継ぐことができるため、経営が軌道に乗るまでの時間が早いことが期待されます。
患者さんにとっては、経営者が代わること以外は変化がなく、それまで通りの受診環境を維持できるため、大きな問題がなければそのまま通ってくれるはずです。また譲渡する側の医師との引き継ぎ交渉がスムーズに進めば、患者さんにそのまま通院してもらうよう案内をしてもらえるでしょう。いってみれば、「患者さんから集めていた信頼」を含めて引き継ぐことができるというわけです。
新規開業となれば、ゼロから集患するために多大な努力や広告宣伝費が必要になり、経営が軌道に乗るまでにも時間がかかります。
2-3.メリット③医療スタッフを引き継げる
医院継承による開業では、医療スタッフも引き継ぐことができます。当然ですが、医療機関は医師1人だけでは成り立たず、多くのスタッフの働きが重要です。優秀なスタッフの定着が、医療機関の命運を握っていると言っても過言ではありません。
特に古参のスタッフは、地域の事情に通じていたり、患者さんとの信頼関係ができていたりするので頼りになる存在であり、経営していくにあたり大きな助けとなるでしょう。既存のスタッフを引き継ぐことで、診療上・経営上のリスクをかなり下げることができます。
もしも新規開業をする場合はゼロから医療スタッフを募集・採用することになるため、時間も費用もかかります。そのうえ定着してもらうようになるには、数年単位での関係構築が必要になります。
3.医院継承のリスク
費用面や集客面など、開業で重要となるポイントでメリットが大きい医院継承ですが、リスクはあるのでしょうか。想定されるリスクは以下の通りです。
- リスク① 前経営者とのトラブル
- リスク② 医療スタッフや患者さんの反発
詳しく解説します。
3-1.リスク①前経営者とのトラブル
特に中小規模の医療機関などでは、経営理念や診療スタイルのこだわりが強い場合があります。医院継承をするからといって、必ずしもすべてを引き継がなければならないということはありませんが、前任者によっては経営理念や診療スタイルまでも継承することを希望する場合もあります。
譲渡する側と引き継ぐ側の理念や診療スタイルが合わない場合、経営に口を出されてしまったりトラブルに発展してしまったりするおそれがあります。経営理念や診療スタイルを刷新した場合、既存の患者さんやスタッフとの軋轢が起こる可能性もあります。
3-2.リスク②医療スタッフや患者さんの反発
医療スタッフや患者さんを引き継げるとはいえ、コミュニケーションを積み上げ信頼関係を構築する努力は欠かせません。
特に既存の医療機関の経営者が信望を集めていた場合、関係構築をおろそかにしてしまうと「こんなはずではなかった」「前のほうがよかった」などと反発を招いてしまうおそれがあります。さらに関係が悪化した場合、患者さんが通院をやめてしまったりスタッフが退職してしまったりするリスクがあります。
4.医院継承と通常の開業、どちらがおすすめ?
医院継承はさまざまなメリットのある開業の方法です。初期費用を抑えられる、開業にかかる労力を削減できる、経営が軌道に乗りやすい等のメリットがあるため、なるべく少ないリスクで開業をしたい医師におすすめです。「早く開業したいけれど資金力に不安がある」「診療には自信があるけれど経営力に不安がある」など開業にあたって不安のある医師は、ぜひ検討してみてはいかがでしょうか。
一方、コストや労力はかかっても自分の思い描いた通りのクリニックを開業したい医師やゼロから経営をスタートしてみたい医師は、通常の開業がおすすめです。
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5.医院継承後に分院展開を行う際の3つの方法
医院継承後、経営が安定してきたら新たに分院展開を考えることもあるでしょう。分院を展開する場合、以下の3つの方法があります。
- 多店舗展開型:同じサービスを別地域で展開
- 水平展開型:似た診療科を展開
- 垂直展開型:小規模の店舗で展開
それぞれの特徴を紹介します。
5-1.多店舗展開型:同じサービスを別地域で展開
多店舗展開型とは、別の地域で元のクリニックと同じ診療科のサービスを提供する方法です。医療継承したクリニックと同じコンセプトで展開するのが特徴で、需要が見込めそうな地域に展開します。例えば、飲食のチェーン店やコンビニのフランチャイズ展開をイメージすると分かりやすいでしょう。多店舗展開型を成功させるためには、地域ごとの人口統計を調査したり、健康ニーズを把握したりすることが重要です。
例えば、小児科の場合には、比較的競合が少なく、新興住宅が多い郊外でのニーズが見られます。また、夜間営業を予定するのであれば、会社員がいつでも通院できるような駅前に開設すると需要が高いかもしれません。そのほか、花粉症専門のクリニックは都心部よりも、地方に需要が高い可能性があるなど、地域性にも影響します。周辺の地域住民がどのような医療サービスを求めているのか把握することが大切です。地域住民のニーズを押さえられると、集患につながり運営が成功しやすいでしょう。
5-2.水平展開型:似た診療科を展開
医院継承したクリニックと紐づく診療科を展開するパターンを水平展開型と言います。例えば、以下のような展開方法が考えられます。
- 産婦人科医の本院が赤ちゃんの診療を引き継ぐために小児科を開設
- 脳卒中の治療を行っている本院がリハビリテーションをメインとした分院を開業
- 歯科クリニックの本院が、分院では訪問歯科を行う
水平展開型の展開方法では、従来の患者さんを引導できる可能性が高く、既存のシステムやマニュアルを活用しやすいのが特徴です。また、関連性が高いこともあり、クリニック間での連携もスムーズでしょう。さらに、培ったノウハウを互いに共有できるため、クリニックの運営に役立てられます。
長期サポートが叶うクリニック経営として、患者さんにとっては安心できるシステムであり、親子三代にわたって利用してもらえるような流れにすると、運営を軌道に乗せやすくなります。
5-3.垂直展開型:小規模の店舗で展開
垂直展開型とは、本院のクリニックと比べて小規模のクリニックを展開する方法です。本院では担えない機能や役割を分院で担います。実際には、以下のような例があります。
- 地方にある大規模な病院が、交通の便に優れた駅前に小規模のクリニックを開設
- 循環器内科の分院に来院し、手術や入院が必要と判断された患者さんに本院の心臓血管外科を紹介
- 本院で手術後に、分院の外来で診療を引き継ぐ
本院に通うのが難しい患者さんが来院しやすくなり、患者さんのニーズに沿った医療サービスを提供できるため、集客アップが期待できるでしょう。
6.医院継承に関するよくある質問
ここでは、医院継承に関してよくある質問として以下の3つを紹介します。
- 医院を継承する際にかかるコストや相場はどれくらい?
- 医院継承の手続きはどんなものがある?
- 医院・クリニック継承で失敗することもあるって本当?
将来、医院継承することを検討し、不安を感じている方は疑問や不安の解消にお役立てください。
6-1.医院を継承する際にかかるコストや相場はどれくらい?
医院を継承する際にかかるコストの相場は、誰から、どういった形で医院を継承するのかによって大きく異なります。
例えば、親族から継承する場合は、売却ではなく贈与という形で引き継がれるケースが多いため、かかる費用が比較的少なくなります。そのまま施設を利用すれば、必要に応じて追加する医療機器や広告費などが発生する程度でしょう。ただし、医院継承に伴い、内装を大きくリニューアルする場合には、内装費がかかります。加えて、診療科の変更や追加などがあれば、看板の変更や周知・広告にかかるコストを考えておく必要があります。
第三者から継承する場合は、施設や土地の譲受にかかる費用が必要です。また、診療科を変更する場合や、新たな施設設備を整えたい場合には、内装工事や医療機器費用、設備整備などに追加費用がかかります。
いずれの場合でも、医院継承の際にかかるコストはどのように継承するかによって変動します。詳しく知りたい方は、マイナビDOCTORの開業医支援サポートにご相談ください。
6-2.医院継承の手続きはどのようなものがある?
医院継承の手続きは、なにかと複雑です。状況によって異なりますが、例えば、第三者からの譲受の場合には、一般的には以下のような手続きが必要です。
- 候補の医院を選定
- クリニックの院長との面談
- 条件を調整したうえで基本合意書を締結
- デューデリジェンス(買収監査)を実施
- 最終譲渡契約書の締結
- 行政手続き(保健所・法務局・税務署など)
医院継承には、その他さまざまな手続きが必要となり、労務や税務に詳しい専門家でなければ理解が難しい内容もあります。場合によっては、お互いの理解不足でトラブルを起こす可能性もあるため、注意が必要です。
また、手続きが完了し、独立するまでの期間を勤務医として働き続ける場合、医院継承に関わる事務作業に、ゆっくり時間を割けない可能性もあります。安心して医院の継承を進めたいと考えている方は、専門家に依頼するのがおすすめです。
6-3.医院・クリニック継承で失敗することもあるって本当?
医院継承にはコスト面のメリットがありますが、成功が約束されているわけではありません。手続きの途中でトラブルが発生した場合や条件の折り合いがつかない場合など、医院継承自体が頓挫してしまうこともあります。また、手続きが無事に完了し、医院運営を始めたものの、経営が安定せず短期間で廃業することになるかもしれません。
そのほか、経営者兼院長が変わったことで方針が変更となり、以前と異なる環境に不安を感じたスタッフが離れたり、継承した物件に高額の修繕費が必要になったりするなど、多くのコストが発生することも少なくありません。また、追加の医療機器を導入するために多額の費用がかかってしまい、利益を出しにくくなるケースもあるでしょう。
加えて、患者さん離れによる利益の低下も考えられます。「〇〇先生だから通っていた」「〇〇先生の方が親切で安心できた」などの理由で、患者さんが定着しなければ、想定していた利益が出せず、経営不振に陥る可能性があります。医院継承時にかかったコストを回収できず、融資返済の負担が重くなってしまうかもしれません。
親族間での医院継承においても、診療方針の違いや医療サービスの導入の意見の相違によりトラブルが起こるケースも見られます。こうしたトラブルを未然に防ぐためにも、事前の情報収集や条件のすり合わせを行っておくことが大切です。
医院継承でも通常の開業でも、クリニック開業を実現するには情報収集が欠かせません。まずはマイナビDOCTORの開業支援サービスなどを利用して、医院継承の案件や物件情報、開業の進め方などについて相談し理解を深めてみてはいかがでしょうか。
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