医師として、初めて臨床現場で経験を積む機会となる初期研修。研修医として慣れない環境でストレスを感じることがあるかもしれません。「このまま続けられるだろうか」という不安から「転職したい」と考える研修医もいることでしょう。しかし、初期研修は臨床医として必要な期間であり、中断すると、その先のキャリアにも影響します。本記事では、研修医が転職を考える原因を紹介するとともに、転職を考えたときの選択肢や、転職する前に研修医が考えておきたい点について解説します。
こんな方におすすめの記事です!
- 研修がつらく、「辞めたい」「このままでいいのか」と悩んでいる
- 転職や研修中断を考えているものの、リスクや注意点がわからず不安を感じている
- 医師としての将来に迷いがあり、落ち着いてキャリアを見直すきっかけがほしい
目次
研修医が転職を考える原因

まずは、研修医が転職を考える原因の代表例を紹介します。なお本記事では、研修医とは「医師免許取得後の2年間、医師法第十六条の二に基づく臨床研修をおこなっている医師」を指します。そのため、臨床研修終了後、自身のキャリアアップとして専門医資格の取得を目指す「専攻医」は含まれません。
[もっと知りたい! 続けてお読みください]
研修医とは?制度や期間、給料、研修先の選び方について詳しく解説
慣れない環境での心身の負担による
臨床研修では、2年間で行う必須項目が下記の通り定められており、研修医は激務になる傾向にあります。
●内科:24週
●救急科:12週(4週まで麻酔科に振替可)
●外科:4週
●小児科:4週
●産婦人科:4週
●精神科:4週
●地域医療:4週
必須項目だけで56週(約1年間)、さらに、上記は必修期間(下限)であり、診療科によっては延長される可能性もあります。また、残りの期間は、自身が希望した診療科で研修を行いながら、テクニックやスキルを身につけます。
学生から社会人へと立場が変わり、2年間という限られた期間で多くの経験を積むのは容易ではありません。加えて、慣れない当直やオンコール対応で生活リズムが崩れ、健康管理が難しくなることもあるでしょう。診療以外にも、医局の会議や勉強会などへの参加が求められることもあり、研修医のうちは十分な休息をとりにくいことも考えられます。なかには、人手不足による過度な労働を強いられる環境になっていることもあります。
そうしたなかで、仕事での疲労が続くと、「この働き方をいつまで続けられるか」と不安に感じてしまうこともあります。ストレスが蓄積されるうちに「研修医を辞めたい」「もっと働きやすい職場に転職したい」などと考えるかもしれません。
人間関係の悩み
研修医は、多くの先輩医師や指導医に囲まれて、日々の業務をこなす必要があります。また、看護師をはじめとしたスタッフとの連携が求められ、経験不足のうちは戸惑うこともあるでしょう。多職種とかかわる機会が増えるなかで、人間関係の悩みを抱える研修医は少なくありません。なかには、暴言や断れない残業といったパワハラを受けているケースや、相性の良くない指導医との人間関係に悩むことがあるかもしれません。
さらには、一定期間が過ぎると他の診療科に移らなければならず、ひとつの診療科で良好な人間関係を築けても、別の診療科に移れば、また新たな関係がスタートします。特に、コミュニケーション能力に自信がない研修医は、職場環境の変化に伴う人間関係の構築にストレスを感じてしまうでしょう。
加えて、患者やその家族とのコミュニケーションも求められます。「患者に上手く説明できなかった」「強い言葉を投げかけられた」「話を聞いてもらえない」など、患者との関係づくりに悩むことも少なくありません。これらの人間関係の悩みが重なることで、研修医が転職を考えるきっかけになります。
経験不足による自信の消失
医師の仕事は、積み重ねた経験や知識が現場の判断を左右します。研修医は学び始めたばかりの状態であり、学生時代に良い成績をとれたとしても、現場ではミスが起こることもあります。失敗や指摘を重ねるうちに、自信を失うことがあるかもしれません。
一方で、患者から見たら研修医も1人の医師であり、頼りにされます。患者の信頼や期待に応えきれない思いから、自身を追い込んでしまうこともあります。
研修医が「仕事を辞めたい」と思ったときの選択肢

研修医が「仕事を辞めたい」「転職したい」と思ったとき、どのような選択肢があるのでしょうか。無理を続けて心や体を壊すよりも、一度立ち止まって自身のキャリアを見つめ直すことも、必要な選択といえます。自身の将来性を考えるための選択肢を検討してみましょう。
臨床研修を中断・休止を検討する
仕事を辞める前に、研修を中断する方法があります。臨床研修は中断・休止が可能であり、それぞれ以下のように定義されています。
●中断:90日以上の期間で臨床研修を止める場合
●休止:90日以内に復帰できる場合
臨床研修を中断する手順としては、研修医自身が研修先に中断したい旨を伝えます。それが認められたら、研修先の指示に従って中断の手続きに移ります。あくまで研修主管者(病院側施設)の許可が必要であり、個人の意思ですぐに中断・休止できるわけではない点を理解しておくことが大切です。
とはいえ、疲労やストレスに限界を感じている場合や、明らかに心身の不調が現れている場合は、まずは無理をせずに、臨床研修の中断や休止を申し出ることを検討しましょう。
なお、臨床研修を中断するケースは、例年、一定数存在します。厚生労働省の資料では、臨床研修を中断する研修医の割合として、2006年~2009年の平均は「1.3%」、2015年~2017年7月までの平均は「1.2%」でした。
なお、本資料は10年以上前のデータであり、現在の状況を正確に反映しているわけではありませんが、過去の傾向として参考にしてください。
[もっと知りたい! 続けてお読みください]
臨床研修は中断できる?「休止」との違いや中断前後で考えるべきことを解説
研修先を変更する(転職)
「今の職場では臨床研修を続けるのが難しい」と感じたら、研修先を変更する方法もあります。ただし、初期研修中の転籍・転職は、原則として認められていません。そのため、一旦、臨床研修の中断・休止の手続きを行ったうえで、他の医療機関で再開することになります。
ただし、研修を中断した医師を受け入れる医療機関はあるものの、その数は限られています。また、研修医と医療機関のマッチングシステムは利用できないため、研修先は自身で探さなければなりません。
研修再開には、前の職場が発行する「臨床研修中断証明書」が必要です。研修先探しと並行して手続きを進めましょう。
医師以外のキャリアを検討する(他業種への転職)
初めての臨床現場で、仕事の難しさや、向き・不向きを感じるかもしれません。臨床研修を通して、「自分は医師に向いていない」と強く感じたのであれば、医師以外のキャリアに進むことも選択肢のひとつです。
原則、臨床研修を修了しないと、医師として診療業務を行えません。研修修了前のキャリアチェンジは、人生を大きく変える可能性があるため、今一度、自分自身の今後のキャリアを考え、後悔のない選択をしましょう。
なお、研修医は原則、アルバイト(診療行為を行うもの)が禁止されています。初期研修が終了しなければ「他の医療機関でアルバイトをする」「フリーランス医師になる」などのキャリアも閉ざされることも理解しておきましょう。
初期研修中に転職を考える際のリスクと注意点

初期研修は「医師としての基礎づくり」の期間です。転職を前提とする中断や休止は、自身のキャリアを大きく左右することを理解しておく必要があります。
まず、初期研修を修了しないと、臨床医として働けません。研修を再開するか、医師とは異なる職種を目指すのかを慎重に考えて判断しなければいけません。
新しい職場で研修を再開する場合は、指導体制や研修内容などが前の職場とは異なります。また、転職先での人間関係が、必ずしも良好になるとも限りません。サポート体制などを良く確認したうえで、研修先を選びましょう。
とはいえ、心身の無理をしてまで、今の環境に留まる必要もありません。心身に不調をきたすほどのストレスがあるなら、転職は「逃げ」ではなく「再スタート」と考えて前向きに検討してみてはいかがでしょうか。重要なのは、「何から逃げるか」ではなく「何を得たいか」です。自分なりに考え抜いた転職は、キャリア形成の第一歩となるでしょう。
転職をする前に研修医がやるべきこと

検討した結果、やはり転職をすることを決めたなら、その前に準備をしておくことが大切です。転職前に研修医がやるべきことを解説します。
転職の理由を明確にして、現状を見直す
「なぜ転職をしたいのか」という理由を明確にすることで、問題解決につながる方法が見つかるかもしれません。例えば、「人間関係の問題」であれば、ローテーションで次の診療科に行けば、改善される可能性が考えられます。経験・知識不足に悩んでいるなら、さらなる自己学習に励み、先輩医師や上司に相談して、スキルを磨いていくことで、モチベーションにつながるともいえるでしょう。
まずは、転職したいと考えた理由を整理し、現状をどう改善できるかを考えてみましょう。そのうえで転職を決断するのであれば、その理由が改善される職場や、手段を選ぶことが大切です。
周囲の人に相談する
現状の問題点を、周囲の人に相談し、整理しましょう。同僚や先輩医師、研修指導医など、信頼できる人に相談することで、問題解決の道が見える可能性があります。研修内容や職場環境が問題である場合は、研修指導医に伝えて、可能な範囲で処遇を改善してもらうよう相談できるかもしれません。
もし、身近に相談できる人がいない場合には、卒業した大学のキャリア支援窓口や、自治体・地域医師会の相談窓口を活用してみましょう。地域によっては、若手医師のキャリア相談窓口を設けている場合もあります。匿名で相談できるケースもあるため、外部の支援も積極的に活用するとよいでしょう。
リフレッシュする
心身の疲れから、冷静な判断ができなくなっている可能性があります。転職を決断する前に、まずはしっかりと休息をとり、仕事から距離を置くことが必要です。状況によっては、研修の中断・休止の手続きを行ったうえで、しっかりと休みましょう。
気持ちをリフレッシュすれば、自分を客観的に見つめ直すことができます。心身の健康を守り、落ち着いた環境で今後のキャリアを考えてみましょう。
落ち着いて、今後のキャリアを考える
最終的に「医師としてのキャリアを諦める」ことを決断したのであれば、本格的に新たなキャリアを考える必要があります。中断した状況では、医師として診療業務に携わることはできないため、転職先は民間企業か、あるいは自身で起業するといったキャリアの可能性が考えられます。
医師免許そのものが剥奪されない限り、今後、再び医師を志すことは可能です。しかし、臨床医として働きたいなら、初期研修の再参加を検討しなければいけません。時間がかかっても、再開は可能です。焦らず、「本当に医師のキャリアを諦めるべきか」をじっくり考えてみましょう。
研修医の転職は、将来のキャリアに大きく影響する

研修医は、心身ともに疲労やストレスを感じやすい環境にあります。「研修医を辞めたい」「転職したい」と考えた場合、一旦は臨床研修を中断・休止するという選択肢もあります。まずは、転職したい理由を明確にし、自身の考えの整理をすることで、理想とする働き方を見つめ直す転機につながります。自身の心身を守ることを優先したうえで、焦らず、信頼できる人に相談しながら、自分のペースで本当に納得のいく道を見つけましょう。
合わせて読みたい


記事の監修者

小池 雅美(こいけ・まさみ)
小池 雅美(こいけ・まさみ)
医師。こいけ診療所院長。1994年、東海大学医学部卒業。日本医学放射線学会・放射線診断専門医・検診マンモグラフィ読影認定医・漢方専門医。放射線の読影を元にした望診術および漢方を中心に、栄養、食事の指導を重視した診療を行っている。女性特有の疾患や小児・児童に対する具体的な実践方法をアドバイスし、多くの医療関係者や患者さんから人気を集めている。
