「2040年問題」とは、社会の担い手となる生産年齢人口が減少し、高齢者数がピークに達することで、さまざまな社会問題・経済問題が引き起こされることを指します。実際に2040年問題が起こることで、医師にはどのような影響が出るのでしょうか。この記事では、2040年問題の概要と医療業界への影響、来たる2040年問題に向けて医師に求められることについて解説します。
<この記事のまとめ>
- 2040年問題とは、少子高齢化が進むなかで、人口比率の変化によるさまざまな社会問題の総称。
- 高齢者の割合が増える2025年に問題が顕在化され、高齢者人口がピークに達するのが2040年である。
- 2040年問題によって、社会保障費の負担が増大、医療従事者の不足などといった医療への影響が考えられる。
目次
1.2040年問題とは
1-1.2040年問題が起きる背景
1-2.2040年問題の前に理解しておきたい「2025年問題」とは
2.2040年問題における医療への影響
2-1.社会保障費の負担が増大
2-2.医療従事者の不足
2-3.医師1人あたりの患者数が増加する
2-4.適切な医療サービスを提供できず、医療破綻が生じる可能性がある
3.2040年問題において医療分野に向けた国の取り組み
3-1.2040年を展望した社会保障・働き方改革本部の設置
3-2.医療提供体制の総合的な改革
4.2040年問題に向けて医師に求められること
4-1.プライマリ・ケアの力を養う
4-2.自身の専門性を高める
4-3.医療IT・ICT関連の知識を身につける
4-4.予防医療の知識を身につける
4-5.コミュニケーション能力・リーダーシップを高める
5.2040年問題に向けて今からできる準備を
1. 2040年問題とは

2040年問題とは、少子高齢化が進むなかで、人口比率の変化によるさまざまな社会問題を総じて称される言葉です。社会保障費の増大や、高齢患者の増加といった背景により、2040年問題は医療業界にも大きな影響を与えると考えられます。
1-1.2040年問題が起きる背景
2040年を迎えるとき、日本の総人口は1億1283万7千人になると予想されています。第二次ベビーブームに生まれた団塊ジュニア世代(1971年〜1974年)が65歳以上となり、国内全体の65歳以上の人口割合が34.8%になると予想されています。
一方で、生産年齢人口と呼ばれる、社会の生産活動の担い手である15歳〜64歳の人口は、2040年には6213万3千人となり、2025年と比較して約1千万人も減少する見込みです。
2025年 | 2040年 | 差異 (25年→40年) |
|
---|---|---|---|
総人口 | 1億2326万2千人 | 1億1283万7千人 | ↓1042万5千人減 |
生産年齢人口 (15歳〜64歳) |
7310万1千人 | 6213万3千人 | ↓1096万8千人減 |
高齢者人口 (65歳〜) |
3652万9千人 | 3928万5千人 | ↑275万6千人増 |
現在と比べて、2040年頃には世代人口の均衡が著しく崩れることにより、さまざまな社会問題、経済問題が生じると予想されています。
1-2.2040年問題の前に理解しておきたい「2025年問題」とは
2040年問題の理解を深めるには、2025年問題についても触れる必要があります。
2025年は、第一次ベビーブームに生まれた団塊の世代(1947~1949年)全員が、75歳以上になる年です。総務省の統計によると、2024年9月時点において、総人口の約3人に1人は65歳以上の高齢者とされています。75歳以上の後期高齢者に絞ると、全体の4〜5人に1人が後期高齢者であり、日本は超高齢社会を迎えています。
総人口 | 65歳以上の人口 | 75歳以上の人口 | |
---|---|---|---|
人数 (万人) |
1億2376万人 | 3625万人 | 2076万人 |
総人口に占める 割合(%) |
100% | 29.3% | 16.8% |
高齢化社会が進むと、下記のような問題が発生します。
●医療費・介護保険などの社会保障費が急増し、社会保障制度の維持が困難になる
●高齢者施設などの利用者が増加し、医療機関や介護施設などで労働人材の確保が困難になる
高齢者の割合が増える2025年にはこれらの問題が顕在化するとされ、さらに深刻化するタイミングが、高齢者人口がピークに達する2040年であるといわれています。
2.2040年問題における医療への影響

では、2040年問題によって、医療業界にはどのような影響があるのでしょうか。
2−1.社会保障費の負担が増大
先にもお伝えしたとおり、少子高齢化社会が進むことで、医療や介護に関わる社会保障費の負担が増大します。その一方で、生産年齢人口の減少に伴い、納税者が減少し、国民一人当たりの社会保障費の負担は大きくなると考えられます。
厚生労働省の「令和5年度 医療費の動向」によると、2023年(令和5年)度の医療費は47.3兆円で、前年度に比べて1.3兆円の増加となりました。同資料によると、2019年から2020年にかけては医療費が一時減少したものの、以後は医療費が年々増加傾向にあります。
参照:令和5年度 医療費の動向│厚生労働省(PDF)
また、やや古い情報にはなりますが、内閣府が2018年5月21日発表した「2040年を見据えた社会保障の将来見通し」のなかでは、2040年における医療費の見通しは約67兆円とされていました。
参照:2040年を見据えた社会保障の将来見通し│内閣府
2023年度の医療費が47.3兆円であったことを踏まえると、今後15年間で医療費の負担は約20兆円も増加すると考えられます。高齢者人口がピークとなる2040年には、医療費をはじめとした社会保障費の負担が、ますます問題視されるでしょう。医療費削減を目指すために、医療機関ではさらなる生産性の向上、マネジメント体制の改革などが求められると考えられます。
2−2.医療従事者の不足
医療や介護の需要が高まれば、医療従事者の需要も高まります。しかし、働き手となる生産年齢人口は減少することから、医療従事者が不足する事態が予想されます。
厚生労働省の「令和4年(2022年)版 厚生労働白書-社会保障を支える人材の確保-」によると、2040年には、医療・福祉分野の就業者数が約96万人も不足する見込みとされています。
参照:令和4年版厚生労働白書-社会保障を支える人材の確保-│厚生労働省(PDF)
少子化に伴い、人口全体の就業数が減るなかで、医療従事者をどのように確保していくのかが大きな課題となります。医師においても、日々の医療機関の経営や多職種連携などで、限りある医療従事者をより効率的に動かす必要があり、さらにはAIの活用など人材不足を解消するためのスキルが求められるようになるでしょう。
2−3.医師1人あたりの患者数が増加する
医療従事者として、医師のなり手が不足することも考えられます。医療の需要が増加するなかで、医師不足が継続すれば、医師1人あたりで担当する患者数も増加することになるでしょう。医師の働き方改革が進んでいるものの、需要に対する医療サービスの提供を続けるためには、医師の確保が急務です。今後の患者数増加に対応できる、医師の増加・確保に向けた取り組みが求められています。
[医師業界で注目の動向をチェック]
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2−4.適切な医療サービスを提供できず、医療破綻が生じる可能性がある
社会保障費の増大、医療従事者の需要・供給の不均衡、患者数の増加などから、国民1人ひとりが適切な医療サービスを受けられなくなる可能性もあります。例えば、「医師や医療従事者の不足により、診察時間が短縮される」「休診になる」といったリスクもあるでしょう。場合によっては、受診していた医療施設が閉鎖されることがあるかもしれません。このように医療施設を利用する者にとって、適切な医療サービスが受けられない状況が続けば、健康を害する人が増えると同時に、医療崩壊や、国民皆保険の制度の見直しなどが行われる可能性があります。
3.2040年問題において医療分野に向けた国の取り組み

2040年問題のなかでも、医療分野に対して、国がさまざまな取り組みを行っています。具体的にどのような施策が実施されるのか、チェックしておきましょう。
3−1.2040年を展望した社会保障・働き方改革本部の設置
2018年10月、厚生労働省に「2040年を展望した社会保障・働き方改革本部」 が設置され、2040年を見据えた施策の検討が進められました。翌年5月には、本部とりまとめにおいて、主に、以下の4つの取り組みを進めることとなりました。
1.多様な就労・社会参加の環境整備
2.健康寿命の延伸
3.医療・福祉サービスの改革による生産性の向上
4.給付と負担の見直し等による社会保障の持続可能性の確保
なかでも、「医療・福祉サービスの改革による生産性の向上」の項目においては、下記の4つの改革を中心としてサービスの提供量を増やす(効率的にサービス提供を行う)こととされています。
●ロボット・AI ICT等の実用化推進、データヘルス改革
●タスクシフティング、シニア人材の活用推進
●組織マネジメント改革
●経営の大規模化・協働化
参照:2040年を展望した社会保障・働き方改革本部のとりまとめについて│厚生労働省(PDF)
こうした取り組みにより、より少ない人手でも医療提供が実現できることを目指しており、国を挙げて、医療現場に浸透させていく流れが予想されます。医療現場でのAI活用や医療ロボットの導入など、すでに着手している医療機関もあります。今後は、医師にもこうした最新機器を活用するためのスキルや技術が求められると考えられます。
3−2.医療提供体制の総合的な改革
厚生労働省が2024年12月25日に発表した「2040年頃に向けた医療提供体制の総合的な改革に関する意見」において、2040年問題に向けて以下の5つの改革を通じて、医療提供体制を整えることが提案されました。
●2040年頃を見据えた新たな地域医療構想
●医師の偏在対策
●医療DXの推進
●オンライン診療の推進
●美容医療への対応
参照:2040年頃に向けた医療提供体制の総合的な改革に関する意見│厚生労働省(PDF)
医療体制の改革は、医師の働き方にも影響するものであり、新たな医療サービス実現に向けた柔軟な対応が期待されます。
4.2040年問題に向けて医師に求められること

さまざまな課題を抱える2040年問題ですが、来たる時に向けて、これからの医師はどのようなスキルを身につけるべきでしょうか。医師に求められるスキル・知識について解説します。
4−1.プライマリ・ケアの力を養う
今後ますます高齢患者の増加が見込まれるなかで、「プライマリ・ケア」の知見を持つ医師は重宝される存在となるでしょう。プライマリ・ケアとは、疾患の診察・診断以外に、患者さんの日常的な健康状態や生活状況までを総合的に診ることを指します。
プライマリ・ケアの実践により、病気の早期発見や軽度の治療を、重症であれば高度な医療を提供できる病院へ紹介するといった対応がスムーズになります。また、プライマリ・ケアを通して、地域の保健所や地域包括支援センターなどと連携する機会が増えると考えられます。地域のかかりつけ医として患者さんを総合的に診るスキルは、これからの医療において需要が高いと考えられます。
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プライマリ・ケアとは? 医師の役割と課題とは?【日本プライマリ・ケア連合学会丸山泉理事長インタビュー
4−2.自身の専門性を高める
専門的で高度な知識があれば、患者さんの症状が自身の専門領域に該当するのかどうか、該当しない場合はどの診療科に紹介すればいいのかといった適切な初期対応ができます。
高い専門性を持ちつつも、総合的な診療が行えるスキルがあれば、高齢者をはじめとしたさまざまな患者さんへの対処に役立ちます。
4−3.医療IT・ICT関連の知識を身につける
医療現場では、今後ますますDX(デジタルトランスフォーメーション:ビジネス現場でデジタル技術を活用すること)が推進されると考えられます。医師として、以下のようなITに関する技術を身につけることで、診療の幅を広げて、業務効率化につながるといえます。
●電子カルテの活用
●オンライン診療・ビデオ通話の導入
●AIによる診断
●モバイルヘルスケア(電子デバイスを使って医療行為や診療をサポートすること)の活用
[医療ICTについて、詳しくはこちらもお読みください]
医療現場のICTとは?必要とされる理由や活用の具体例を解説
4−4.予防医療の知識を身につける
患者さんの生活習慣の改善に取り組むことは、生活習慣の悪化から引き起こされる重篤な疾患の予防になり、プライマリ・ケアの観点からも活用できます。
今後、高齢者数が増加しても、予防医療を普及することで病気を未然に防止すれば、患者数増加の抑制にも効果が期待できます。
4−5.コミュニケーション能力・リーダーシップを高める
高齢化社会では、ますます地域医療、地域連携の重要さが増し、同じ組織内でのチーム医療はもちろん、外部機関との連携も欠かせません。そのようななかで、医師が高いコミュニケーション能力やリーダーシップを発揮できると、連携や情報共有もスムーズに進み、事故やトラブルなどの未然防止にもなります。
円滑で効率的な働き方が実現できれば、医師の負担削減にも効果が期待できるのではないでしょうか。
5.2040年問題に向けて今からできる準備を
今後ますます少子高齢化が進む日本において、2040年問題は避けられない事態と考えられます。これからの医師は、自らの専門性に加えて、プライマリ・ケアや予防医療といった総合診療の知識や、オンライン診療・電子デバイスを用いた治療に関連した幅広い知識が必要です。高齢化社会で活躍するためにも、先の未来を見据えたキャリア形成を考えてみてはいかがでしょうか。
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