起業する医師は近年増加傾向にあります。しかし、全ての医師が起業後成功しているわけではありません。十分な知識と準備を整えて、起業に臨みましょう。
本記事では医師の起業内容や問題点、成功するためのポイントを中心に解説します。
- 医師として起業を考えている方。
- 医院・クリニックの開業を目指している方。
- 医療ビジネスで新しい挑戦をしたい方。
目次
医師にとっての起業とは

医師には大学病院や総合病院、クリニックなどの勤務医として働く以外にも、起業して医師のスキルを活かす道があります。
医師にとっての起業とは、どのようなものがあるのか解説します。
1-1.医師の起業には2種類ある
医師の起業として考えられるのは、まずは医院やクリニックなどの開業です。独立して地域医療に携われるため、勤務医よりも時間の融通がききやすくなり、収入も増える傾向にあります。
一方で、経営者としての仕事や責任も求められるようになります。開院までのさまざまな手続きや、開院後も煩雑な業務が増えるでしょう。
少し前までは、医師の起業といえばこうした開業が一般的でしたが、近年は臨床フィールド以外で起業する医師が増えています。ビジネスパーソンとして、医師の資格や経験、スキルなどを活かした事業を展開する事例もあります。
例えばオンラインの医療辞典や医師の検索サービス、依存症治療アプリなど、オンラインやアプリを活用して医療に関連するサービスを提供する事業などです。パソコンやスマートフォンの普及によって、医師が臨床以外のフィールドでも起業を考えられるようになりました。
1-2.起業する医師は増加傾向にある
昔は起業する医師は、医局からドロップアウトしたイメージが強かったようです。しかし、近年は医師の起業に対するマイナスのイメージは薄れ、起業する医師は増加傾向にあります。
起業を決めた理由は、正しい医療の知識を提供したい、医療界内でのコミュニケーションを取りやすくしたい、地域医療に貢献したいなどが挙げられます。多くの医師がよりよい医療を目指すために起業を決めているようです。
しかし、必ずしも起業した医師の全てが成功しているわけではありません。次の項目からはふたつの起業タイプに分けて問題点や起業のポイントを解説します。
医院・クリニックを開業する医師

医院やクリニックの開業を選ぶ場合はさまざまな準備と多くの資金が必要です。開業を選ぶ理由や、選んだあとの問題点、失敗しないためのポイントを解説します。
2-1.医院・クリニックを開業する理由
まずはどのような理由で医院やクリニックの開業を選ぶのか、知っておきましょう。
なお、こちらでは社団法人 日本医師会『開業動機と開業医(開設者)の 実情に関するアンケート調査』のデータを元に解説します。
●理想の医療を追求したい
日本医師会のデータによると、開業動機で最も多かったのが「理想の医療を追求したい」という理由で42.4%です。(※)自分の病院であれば、診療方針や患者さんへの接し方などの理想を叶えやすくなります。
勤務医の場合は、どうしても医局や病院の方針に従う必要があります。その中で抱えた違和感や問題意識を、開業という形で解決しようと考える医師が多いようです。
※出典:日本医師会「開業動機と開業医(開設者)の 実情に関するアンケート調査」
●将来性に限界を感じた
次に多かったのが「将来性に限界を感じた」という理由で35.1%です。勤務医は収入やキャリアが安定しやすい反面、医局の上層部との折り合いが悪いとなかなか出世ができないケースがあります。
また、勤務医は当直を始めとした肉体的な負担も大きいため、このままでよいのかと考えて、開業の道を選ぶ医師もいるでしょう。
精神的なストレスによる疲弊を理由に開業を考えた医師と合わせると、将来に不安を感じて開業した医師は56.1%にも上ります。
●経営を含めたやり甲斐がほしい
開業動機で3番目に多かったのは「経営を含めたやり甲斐」で、26.3%でした。自分の病院を持ち、診療だけでなく経営者としても活躍することに魅力ややりがいを感じる人も多いです。
勤務医時代にはなかった、トップとしての責任や地位に魅力を感じて開業に踏み切る医師も少なくありません。
2-2.医院・クリニックを開業する医師が抱える問題

開業医になると、収入が増えたり自由な時間が取りやすくなったりするといわれている反面、開業医ならではの問題も抱えることになります。
●都市部は医院やクリニックが飽和気味になっている
離島や一部の地方では医師不足が深刻化する一方、都市部では医師が溢れて医院やクリニックも飽和気味の状況です。そのため、開業しても患者さんが増えないケースや、そもそも開業できる場所を探すことが困難なケースもあります。
●医師としての能力に加えて経営スキルが求められる
勤務医時代は医師としての能力があれば、患者さんに医療を提供できていました。しかし、開業医になった場合は医師としてだけでなく、経営者としてのスキルが求められます。
経理や税務だけでなく、マーケティングやリーダーシップなどの経営スキルがないと順調な運営は難しいかもしれません。
●トラブルを自分で対処しなくてはいけない
開業後は金銭や人間関係の管理も行う必要があります。患者さんが少なくて経営が厳しくなったり、スタッフとの労使問題が発生したり、さまざまなトラブルが起こる可能性があります。経営者はいずれの問題に対しても、解決のために尽力しなくてはいけません。
2-3.医院・クリニック開業のポイント
医院やクリニックを開業し、経営を軌道に乗せるには勤務医時代とは違う意識が必要です。ここでは主な3つのポイントを紹介します。
●事前準備を徹底的にする
開業には多くの資金や準備、手続きが必要です。開業資金の調達からはじまり、開業予定地の調査や医療機器の導入、スタッフの確保など、開業に至るまでの道のりは長いです。
準備期間は年単位で考えて経営プランを立て、後悔しない準備をしましょう。必要に応じて開業の支援サービスや、先輩開業医の助けを借りることも考えると確実性が増します。
●地域のニーズに応える
開業しても患者さんが来なければ、すぐに資金繰りが苦しくなります。安定した経営をするには、開業予定地のニーズと自分の病院がマッチしているか、徹底的に確認することが重要です。
エリアによっては、特定の診療科だけが多くなっていたり、既に人気のクリニックがあったりする場合があり開業時点で不利なケースも考えられます。
●経営者としての意識を持つ
どれだけ優秀な医師でも、経営者としては未熟である可能性があります。病院の経営には確実な会計管理が求められるため、経営者としての意識を持って必要なスキルを高めましょう。
またヒューマンスキルを磨いて、好かれる人間になることも大切です。
ビジネスパーソンとして起業する医師

臨床フィールド以外での起業の場合、医院やクリニックを開業するよりも自由度が高い反面、成功には工夫やスキルが求められます。ビジネスパーソンとして起業する医師が抱えやすい問題点や、成功するためのポイントを知っておきましょう。
3-1.ビジネスパーソンとして起業する理由
臨床から離れてビジネスパーソンとして起業する医師の多くは、医療現場や医療情報に対する問題意識を持っていることが多いです。収入ももちろん重要ですが、起業する理由にはそうした問題を解決したいという思いも表れています。
●医療現場の問題を解決したい
医療現場は個人情報の保護が徹底されているため、どうしても閉鎖的な環境になりやすいです。また上下関係や派閥の問題もあり、なかなか悩みを相談できません。そのような環境では医師が精神的な問題を抱えるリスクが高くなります。
医療現場ならではの問題を解決するために、医師の経験を活かしてアプローチしたいと考え起業する人がいます。
●正しい医療情報を発信したい
インターネットやスマートフォンが普及し、知りたいことはすぐに調べられる時代になりました。しかし、誤った情報が正しい情報のように定着してしまうことも増え、それは医療情報にも及んでいます。
医師や医療に対する歪んだ認識にもつながるため、そうした事態は危険だと考え、臨床とは違う現場で医療の大切さを普及しようとする医師も多いです。
●仕事とプライベートを両立したい
医局に所属して大学病院や関連病院で勤務する医師は、激務になりやすいです。拘束時間が長いだけでなく、転勤によって生活環境が大きく変化してしまうこともあるでしょう。
そうしたプライベートを犠牲にするような働き方ではなく、家族や自分の時間も取れる働き方をしたいと考え、医療ビジネスで活躍する道を選ぶ医師もいます。
3-2.ビジネスパーソンとして起業する医師が抱える問題
医師がビジネスの世界に入る場合は、医療業界との視点の違いを知り、ビジネスパーソンとして必要な知識やスキルを身につける必要があります。よくある問題を知っておきましょう。
●医療以外のスキルが必要になる
ビジネスパーソンとして起業する場合、医療ビジネスを展開するとしても医療以外のスキルが必要です。例えばマーケティングやコンサルティングなどの専門的な知識や、ヒューマンスキル、リーダーシップ、決断力など勤務医時代は意識しなかったスキルもあるでしょう。
●年収が下がる可能性がある
勤務医であっても一般的にみると、医師は収入が高いです。そのため、ビジネスを始めたばかりで収入が十分でないと、大幅に年収が下がる恐れがあります。一般的なビジネスパーソンの収入や生活を知り、収入の低下を見越しておかないと生活水準を落とす必要がでてくるかもしれません。
●理想が先行しすぎてしまう
ビジネスパーソンとして起業する医師は、医療をより良くしたいという素晴らしい理想を掲げている人が多くみられます。しかし、理想や理念が先行しすぎて、利益を度外視してしまうと事業を継続できなくなります。理想を追求しつつ、経営も安定化させるスキルが求められます。
3-3.ビジネスパーソンとして起業する際のポイント

医師がビジネスパーソンとして成功するには、自分のスキルや立場を正しく認識し、急ぎすぎないことが重要です。ここでは主な3つのポイントを紹介します。
●週末起業から始める
経験がない状態で起業し成功できるのはほんの一握りといえます。リスクも高いため、まずは医師を続けながら資格を取ったり、スキルを身につけたりしましょう。
同時に週末起業、いわゆる副業でビジネスの経験を積むことも重要です。医療機関によっては副業が禁止されているケースもありますが、可能であれば週末起業を足掛かりにしましょう。
●自分の価値を正しく認識する
医師免許を保有していること以外に、自分にはどのような価値があるか正しく認識することも重要です。得意分野や医師免許以外の資格、これまでの経験、人脈など、さまざまな視点から自分の価値を見出しましょう。それをビジネスに活かせれば、成功しやすくなります。
●起業を急ぎすぎない
起業はあくまでも最終目標にし、急ぎすぎないようにしましょう。起業をしなくても、転職して医師免許や身につけたスキルや経験を活かして働くことはできます。医療ビジネスを展開している会社への就職や、コンサルタントの資格を取って医療系のコンサルタントをすればビジネスの現場での経験が積めます。起業に年齢制限はないため十分に準備を整えることを検討しましょう。
医師の起業は医療業界が抱える問題を改善できる
医師の起業は昔よりもハードルが低くなりました。特にビジネスパーソンとして活躍する元医師の数は増えています。その背景には、医療現場や医療情報が抱える問題があり、危機感を持った医師が起業して成功する事例が多くあります。
しかし、医師が必ずしも医療ビジネスで成功できるとは限りません。医師が起業して成功するには、ビジネススキルを身につけて経営者として魅力的な人間になる必要があります。そのためには長い準備が必要です。転職も視野に入れて、急がずに経験を積むことは成功への近道になるでしょう。
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