マイナビDOCTOR 編集部からのコメント
「救急・災害医療提供体制等の在り方に関する検討会」(4月25日)において、厚労省が検討を提案したことで、あらためて救急医療に関するデータを統合した全国規模のデータベースが構築される機運が高まっています。言うは簡単な「情報連携」ですが、国主導で推進したものの運営費不足で休止に追い込まれた苦い経験もあるため、データベース運用の継続性担保も含め、慎重さを求められること必至です。
医療機関や消防機関、都道府県、国が収集している救急医療に関するデータを統合した全国規模のデータベースが構築される可能性が高まってきた。25日に開かれた「救急・災害医療提供体制等の在り方に関する検討会」で、厚生労働省が「新たなデータベースの在り方」「必要とされるシステム」の検討を提案したからだ。ただ、過去には国主導で進めた情報連携が運営費不足で休止に追い込まれたケースもあるため、データベース運用の継続性を担保することも求められそうだ。【新井哉】
救急医療に関するデータベースの構築によって得られる成果として、厚労省が期待しているのが、疾病の予防や治療の結果として生じる「健康アウトカム」の評価への活用だ。救急医療機関については、数年間、受け入れ実績がない場合、都道府県が指定の見直しを検討することになっているが、受け入れ実績や関連する要因などを考慮した「客観的・定量的な指標」を策定している都道府県はほとんどないため、指標設定への活用も見込まれそうだ。
救急医療の指標については、患者個人、医療機関、消防機関に関する各種データベースが存在し、それぞれの機関が情報を収集している。例えば、地域(自治体など)は、ドクターヘリ・ドクターカーの出動件数、受け入れ困難事例の件数、医療機関は、転帰(外来帰宅、入院など)や緊急入院患者における退院調整・支援の実施件数、消防機関は、救急要請(覚知)から救急医療機関への搬送までに要した平均時間といった情報をそれぞれ持っているが、厚労省は「その多くは連結していない」と指摘。収集された情報が「健康アウトカム」の評価に活用されていない実態がある。
救急医療に関する情報システムについては、「非常に費用がかかるため、国が画一的な指針を示すべきではないか」といった意見も出ている。また、国主導の事業で「失敗例」があったため、システムの構築に懐疑的な見方を示す関係者も少なくない。2000年代の前半に経済産業省が実施した事業では、各地で電子カルテ共有システムが導入されたが、同省が支援を継続しなかったため、運営費などが捻出できずに運用を休止する地域が続出したからだ。
こうした「失敗例」を考慮してか、厚労省は、▽ユーザーごとの活用目的▽収集が必要とされる情報の項目▽情報共有や連結の方法―などを整理し、まずは既存のシステムを活用する方向性を示しており、新たな統合データベース・システムに関しては「将来的な検討」と慎重だ。
25日の検討会の会合では、既存のシステムの活用を視野に入れた議論が始まった。モデルケースとして取り上げられたのが「大阪府救急医療搬送支援・情報収集・集計分析システム(ORION)」だ。大阪府では、15年から救急要請段階から退院時転帰までのデータについて、個別の事例単位で収集を始めた。集約された情報は、さまざまな観点から集計・分析することが可能で、大都市圏での先駆的な取り組みとして注目されている。
ただし、他の府県や救急告示医療機関以外の医療機関に搬送された事例のデータは収集できず、既往歴や内服歴などの情報が取り込めていないといった課題もある。入力者の手間を考えると、入力データの範囲を限定せざるを得ないからだ。今後検討していく統合データベース・システムについては、こうした課題を検証した上で、開発・構築を進めていく必要がありそうだ。
出典:医療介護CBニュース