呼吸器科は、気管支喘息やCOPDといった慢性疾患のほか、日本での死因第5位(2018年人口動態調査より)である肺炎など扱う疾患が幅広く、ニーズの高い診療科です。しかし、現状では呼吸器科医の人数は少なく、地方では深刻な呼吸器科医不足に陥っている医療機関もあります。「需要が高く供給が足りない」のであれば給与水準は高いことが予測されますが、実際はどうなのでしょうか。呼吸器科医の年収事情と働き方について解説します。
- 呼吸器科医の年収水準に関心がある方。
- 急性期病院でのハードな勤務環境に興味がある方。
- ワークライフバランスを重視する方。
目次
呼吸器科医の年収事情

「医師・歯科医師・薬剤師統計」(厚生労働省、2018年)によれば、医療施設に従事する全医師数は31万1,963人であり、そのうち呼吸器科医(呼吸器内科医)はわずか2.0%(6,349人)にすぎません。一方で高齢化が進む日本では、呼吸器系の慢性疾患を抱える患者さんや肺炎などの急性疾患を患う患者さんが増えており、今後さらなる増加が予測されることから全国的に呼吸器科医の求人ニーズが拡大していくでしょう。
「必要医師数実態調査」(厚生労働省、2010年)によれば、呼吸器科医(呼吸器内科医)は全国で801.3人の増員が必要とされています。求人倍率は1.20倍であり、調査対象となった全診療科の中でリハビリテーション科、救急科、産科に次いで高い水準となっています。都道府県の二次医療圏別にみても、呼吸器科医の需要は軒並み高い傾向にありますが、特に地方では呼吸器科医不足に陥っていることがうかがえます。
「勤務医の就労実態と意識に関する調査」(労働政策研究・研修機構、2012年)によれば、「呼吸器科・消化器科・循環器科」の平均年収は1,267.2万円となっています(3科をまとめて集計)。調査対象となった全診療科の医師の平均年収は1,261.1万円であるため、ほぼ平均レベルの年収水準だといえるでしょう。ただし、これら3科の中で消化器科と循環器科は内視鏡治療やカテーテル治療などで急患対応が頻繁にあるため、時間外労働やオンコール業務が多く、給与水準は高めになる傾向にあります。したがって、呼吸器科の年収水準は平均よりもやや低めである可能性も考えられます。
■診療科別・医師の平均年収
順位 | 診療科目 | 平均年収(万円) | (計n=2,876) |
---|---|---|---|
1 | 脳神経外科 | 1,480.3 | (n=103) |
2 | 産科・婦人科 | 1,466.3 | (n=130) |
3 | 外科 | 1,374.2 | (n=340) |
4 | 麻酔科 | 1,335.2 | (n=128) |
5 | 整形外科 | 1,289.9 | (n=236) |
6 | 呼吸器科・消化器科・循環器科 | 1,267.2 | (n=304) |
7 | 内科 | 1,247.4 | (n=705) |
8 | 精神科 | 1,230.2 | (n=218) |
9 | 小児科 | 1,220.5 | (n=169) |
10 | 救急科 | 1,215.3 | (n=32) |
11 | その他 | 1,171.5 | (n=103) |
12 | 放射線科 | 1,103.3 | (n=95) |
13 | 眼科・耳鼻咽喉科・泌尿器科・皮膚科 | 1,078.7 | (n=313) |
(独立行政法人 労働政策研究・研修機構「勤務医の就労実態と意識に関する調査」2012年をもとに作成)
年収帯別にみると、最も割合が高いのは1,000~1,500万円未満(39.8%)です。年収1,000万円以上を得ている医師は76.6%で、調査対象となった全診療科の中でも高いほうだといえます。なお、年収1,500~2,000万円未満は29.6%、年収2,000万円以上は7.2%となっています。
■呼吸器科・消化器科・循環器科の年収階層別の分布
主たる勤務先の年収 | 割合(%) |
---|---|
300万円未満 | 2.6 |
300万円~500万円未満 | 3.3 |
500万円~700万円未満 | 6.6 |
700万円~1,000万円未満 | 10.9 |
1,000万円~1,500万円未満 | 39.8 |
1,500万円~2,000万円未満 | 29.6 |
2,000万円~ | 7.2 |
(独立行政法人 労働政策研究・研修機構「勤務医の就労実態と意識に関する調査」2012年をもとに作成)
同調査における自身の給与に対する満足度に関する質問項目では、「満足している」「まあ満足」と回答した「呼吸器科・消化器科・循環器科」の医師は33.5%でした。一方、「不満」「少し不満」との回答は46.1%と半数に迫っており、「医師の中では平均的な年収だけれど、もう少しもらってもいいのではないか」という声が聞こえてきそうです。
呼吸器科医の働き方と給与の特徴

呼吸器科医は、緊急性の高い診療科に比べれば急患対応も少なく、比較的ゆとりを持って働けるイメージがありますが、実際は勤務する医療機関の性格により働き方は大きく異なります。
2-1.急性期病院の働き方と給与の特徴
肺炎や気管支喘息増悪などの急性期患者さんを多く受け入れる医療機関では、呼吸器科医も急患対応が多く多忙な勤務になることが予想されます。また、急性期病院では全科当直が義務とされるケースも多く、呼吸器領域以外の疾患にも対応できる知識やスキルを求められることがあります。
さらに、他科の肺炎患者さんの治療依頼をされることも多く、当直だけでなく通常の業務時間内でも多忙な毎日を過ごすこととなるでしょう。一方で、時間外労働や当直業務が多くなるため、給与水準は高い傾向にあります。
2-2.慢性期病院、介護老人保健施設などの働き方と給与の特徴
療養型病床や介護老人保健施設(老健)などで働く場合は、寝たきり患者さんの誤嚥性肺炎などの治療を行うこともありますが、一般的には呼吸器疾患を含めて「全身」を診る力が求められます。急患対応などは急性期病院に比べて少なくなるため、比較的ゆとりある勤務ができるでしょう。しかし、人工呼吸器管理などを任されることもあるので、常に緊張感をともなう仕事であることは急性期病院と変わりありません。
給与面については、一般的に老健では高い水準になります。ただし、少ない人数の医師で当直業務を回さなければならないケースが多いため、いわゆる「寝当直」になる確率は高いものの、当直回数は多いかもしれません。また、看取りのためのオンコール対応が必須になるケースもあります。
2-3.無床クリニックの働き方と給与の特徴
呼吸器科を標榜する無床クリニックが担うのは、症状が安定した気管支喘息やCOPD(慢性閉塞性肺疾患)などの慢性疾患管理であることが多く、急患対応などは限られているので、ゆとりある勤務が可能です。時間外労働や当直業務もないので、ワークライフバランスを確保しやすいでしょう。
そのため、子育て中の女性医師などから人気があるので、競争倍率は高めです。専門医資格や経験年数などのアピールポイントを持っておくと有利でしょう。なお、都市部では豊富な治療実績があり、集患力が高い医師を高額の報酬で募集するクリニックもあるので、医師としてのスキルに自信がある方は、そのようなクリニックに目を向けてもいいのではないでしょうか。
呼吸器科医が年収を上げるには?

呼吸器科医が年収を上げるためには、年収水準の高い地域や業態の勤務先に転職するという方法があります。たとえば、医師不足の深刻な地方では医師を集めるために高額な報酬を提示するケースがありますから、地方の求人に目を向けることもひとつの手です。あるいは、比較的給与水準が高い介護老人保健施設も狙い目です。
また前項でみてきたように、呼吸器科医は医療機関の性格によって勤務環境が大きく異なりますから、年収とワークライフバランスの妥協点をさぐることが重要です。多少肉体的にハードな勤務環境もいとわない医師や比較的体力がある若手医師の場合は、急性期病院で経験を積み、時間外労働やオンコール対応にともなう給与を得る方法もあります。
高齢化が進む日本では今後も呼吸器科医のニーズは拡大していくことが予測されますが、人気の高い医療機関への転職は現在と変わらず激戦になるでしょう。将来的に人気のある医療機関へ転職するために、専門医資格取得や実績などのアピールポイントを作るなど、長期的な視点で年収アップを目指す方法も検討してみてください。