皮膚科は時間外労働やオンコール対応などが比較的少なく、女性医師から人気が高い診療科です。また、都市部では「美容」を掲げて自費診療に力を入れる皮膚科が増えており、高収入が期待できるといわれています。いいことばかりのようですが、実際はどうなのでしょうか。今回は、皮膚科医の働き方と年収事情について解説します。
- 皮膚科医の年収水準に関心がある方。
- ワークライフバランスを重視する方。
- 専門性の高い手技や美容系に注力したい方。
皮膚科医の年収事情

「医師・歯科医師・薬剤師統計」(厚生労働省、2018年)によれば、医療施設に従事する全医師数は31万1,963人であり、そのうち皮膚科医は3.0%(9,362人)を占めています。皮膚科は一般に「マイナー科」と呼ばれる診療科のひとつであり、医師数自体は決して多くありません。
女性医師の割合が高いことも皮膚科の特徴です。前出の調査によれば、皮膚科医に占める女性の割合は病院で54.8%、診療所で44.3%となっています(全体では病院勤務の女性医師は23%、診療所勤務の女性医師は19.6%)。一方で、女性が多いということは育児休業や時短勤務をする人も多いため、高度な手術や日当直業務などのある総合病院では慢性的な医師不足に陥っているケースもあります。
「必要医師数実態調査」(厚生労働省、2010年)によれば、皮膚科医の求人倍率は1.10倍であり、他の診療科と比べてやや低い水準です。ただし、皮膚科医は他の診療科の医師と同じく都市部に集中する傾向があり、地方では人材不足に陥っていることもあります。特に、勤務が多忙になりがちで女性医師に敬遠されることもある総合病院は皮膚科医の確保に苦慮して、外来や入院患者さんの受け入れをストップするところもあるようです。
そのため、転職や皮膚科への転科を希望する場合は、勤務地にこだわりがなければ比較的容易に職場を探すことができます。ただし人気のエリアや勤務条件にこだわるほど競争倍率が高くなるので、それをくぐり抜けるためのアピールポイントを用意しておくとよいでしょう。
「勤務医の就労実態と意識に関する調査」(労働政策研究・研修機構、2012年)によれば、「眼科・耳鼻咽喉科・泌尿器科・皮膚科」の平均年収は1,078.7万円となっています(4科をまとめて集計)。調査対象となった全診療科の医師の平均年収は1,261.1万円であるため、これらマイナー科の医師は決して恵まれた給与水準とはいえないことがわかります。
■診療科別・医師の平均年収
順位 | 診療科目 | 平均年収(万円) | (計n=2,876) |
---|---|---|---|
1 | 脳神経外科 | 1,480.3 | (n=103) |
2 | 産科・婦人科 | 1,466.3 | (n=130) |
3 | 外科 | 1,374.2 | (n=340) |
4 | 麻酔科 | 1,335.2 | (n=128) |
5 | 整形外科 | 1,289.9 | (n=236) |
6 | 呼吸器科・消化器科・循環器科 | 1,267.2 | (n=304) |
7 | 内科 | 1,247.4 | (n=705) |
8 | 精神科 | 1,230.2 | (n=218) |
9 | 小児科 | 1,220.5 | (n=169) |
10 | 救急科 | 1,215.3 | (n=32) |
11 | その他 | 1,171.5 | (n=103) |
12 | 放射線科 | 1,103.3 | (n=95) |
13 | 眼科・耳鼻咽喉科・泌尿器科・皮膚科 | 1,078.7 | (n=313) |
(独立行政法人 労働政策研究・研修機構「勤務医の就労実態と意識に関する調査」2012年をもとに作成)
年収帯別にみると、最も多いのは1,000~1,500万円未満(33.2%)ですが、500万円未満も10.9%を占めます。一方で、2,000万円以上は4.2%しかおらず、他の診療科に比べて極端な高収入を得ている医師は少ないといえます。その要因のひとつとして、皮膚科をはじめとしたマイナー科では女性医師が多く、育児など家庭の事情により時短勤務やパートタイム勤務の割合が高いことが挙げられるでしょう。
■皮膚科・眼科・耳鼻咽喉科・泌尿器科の年収階層別の分布
主たる勤務先の年収 | 割合(%) |
---|---|
300万円未満 | 2.6 |
300万円~500万円未満 | 8.3 |
500万円~700万円未満 | 12.5 |
700万円~1,000万円未満 | 17.3 |
1,000万円~1,500万円未満 | 33.2 |
1,500万円~2,000万円未満 | 22 |
2,000万円~ | 4.2 |
(独立行政法人 労働政策研究・研修機構「勤務医の就労実態と意識に関する調査」2012年をもとに作成)
ただし、これらのデータは皮膚科のみを対象としたものではないため、一概に皮膚科医の給与が低めであるとは言い切れないことに注意が必要です。近年では美容外科や美容皮膚科だけでなく一般的な皮膚科でも美容を目的とした治療が行われるようになってきており、特殊な治療経験があるなど集患力の高い医師を破格の待遇で迎える医療機関もみられます。
皮膚科医の働き方と給与の特徴

前出の「勤務医の就労実態と意識に関する調査」によれば、「眼科・耳鼻咽喉科・泌尿器科・皮膚科」の自身の給与に対する満足度については、「満足している」「まあ満足」との回答は34.8%であり、満足寄りの回答が他の診療科と比べてかなり少なめでした。「どちらとも言えない」と回答した割合が24.0%と多めであることも特徴的です。
「眼科・耳鼻咽喉科・泌尿器科・皮膚科」の1週間当たりの労働時間は平均44.3時間であり、調査対象となった全診療科の平均(46.6時間)を下回っています。緊急オペなどで多忙を極める外科医とは約10時間の隔たりがあります。ただし、1週間の労働時間が40時間未満の医師が23.3%を占める一方、70時間以上働いている医師も8.4%にのぼっているのが現状です。また、日当直をしていない医師がほぼ半数(47.8%)ですが、5回以上行っている医師も1.8%と少数ながら存在しています。
こうしたデータからは、皮膚科ではワークライフバランスを確保しながら働く医師が多い反面、男性をはじめとして家庭の事情に大きくとらわれることなくフル稼働できる医師にとっては必ずしも余裕ある勤務環境ではない可能性が考えられます。入院病床を持たないクリニック勤務や日当直・時間外労働免除の条件で病院勤務する場合はワークライフバランスの確保は比較的容易ながら、高度な手術、熱傷などの急患対応などを担う医療機関では「フル稼働できる皮膚科医」にしわ寄せがいきがちなのです。したがって、転職や転科を考えるときは勤務条件をしっかり確認するとともに、その条件にふさわしい給与が提示されているかどうかよく検討してください。
皮膚科医が年収を上げるには?

以上見てきたように、皮膚科医は当直や時間外労働が少ない環境で勤務するケースが多いぶん、年収水準が上昇しづらい傾向があることがわかります。そんな皮膚科医が年収を上げるためには、いくつか方法があります。
もしも体力に自信があり、勤務環境が少々ハードであっても問題がないと考える医師の場合は、医師不足が深刻である高度な手術も受け持つ総合病院を選ぶと、時間外労働や日当直、オンコールの頻度が増えるにつれて年収水準も上昇します。医師を確保するために破格の待遇を提示する医療機関もありますので、都市圏をはじめ地方求人にも目を向けることをおすすめします。
一方、ワークライフバランスをある程度確保したい場合は、専門性の高い手技を研鑽し、アピールポイントとなるスキルや実績を積み重ねることが将来的な年収アップにつながります。また、自由診療である「美容系」に注力する医療機関を選択することで給与水準を上げるという方法もあります。美容系医療機関での働き方の特徴について詳しく知りたい方は、コラム「美容皮膚科と美容外科、転職するならどっち?【働き方を徹底比較】」をお読みください。
ワークライフバランスをどれほど重視するのか、また皮膚科医としてどのような分野でキャリアを磨いていくのかをじっくり検討したうえで、希望に合った医療機関を見つけましょう。