小児科医は対象とする疾患が幅広いため、十分な知識や診療技術を身に付けるためには相応の鍛錬を要します。また小児医療を担う医師不足が深刻なことから多忙なイメージがある一方、その診療報酬が低水準に抑えられています。今回は、小児科医の年収事情と働き方の実態について紹介します。
- 小児科医の年収水準に興味がある方。
- 女性医師の勤務環境や働き方に関心がある方。
- 小児科の給与満足度について知りたい方。
小児科医の年収事情

「医師・歯科医師・薬剤師調査」(厚生労働省、2016年)によれば、医療施設に従事する全医師数30万4,759人の中で、小児科医は1万6,937人です。病院では1万355人、診療所では6,582人の小児科医が勤務しています。他の診療科と比較すると、総数自体は多い部類に入ると言えるでしょう。
特徴的なのは、女性医師の割合が大きいことです。病院勤務の小児科医のうち、男性は64.4%、女性は35.6%となっており、女性医師の割合は全科の平均(22.2%)を大きく上回る水準となっています。ちなみに、小児科以外の女性医師の割合が大きい診療科は、皮膚科(54.3%)、眼科(41.5%)、産科(40.9%)、産婦人科(42.9%)、麻酔科(39.6%)などが挙げられます。
「必要医師数実態調査」(厚生労働省、2010年)によれば、増員が必要な小児科医数は、全国で常勤・非常勤を合わせて1,331.1人です。2019年の出生数が90万人割れとなるなど少子化が進む現在も、小児科医のニーズは依然として高いことがわかります。
「勤務医の就労実態と意識に関する調査」(労働政策研究・研修機構、2012年)によれば、小児科医の平均年収は1,220.5万円です。調査対象となった全診療科の医師の平均年収1,261.1万円をやや下回る水準となっています。
■診療科別・医師の平均年収
順位 | 診療科目 | 平均年収(万円) | (計n=2,876) |
---|---|---|---|
1 | 脳神経外科 | 1,480.3 | (n=103) |
2 | 産科・婦人科 | 1,466.3 | (n=130) |
3 | 外科 | 1,374.2 | (n=340) |
4 | 麻酔科 | 1,335.2 | (n=128) |
5 | 整形外科 | 1,289.9 | (n=236) |
6 | 呼吸器科・消化器科・循環器科 | 1,267.2 | (n=304) |
7 | 内科 | 1,247.4 | (n=705) |
8 | 精神科 | 1,230.2 | (n=218) |
9 | 小児科 | 1,220.5 | (n=169) |
10 | 救急科 | 1,215.3 | (n=32) |
11 | その他 | 1,171.5 | (n=103) |
12 | 放射線科 | 1,103.3 | (n=95) |
13 | 眼科・耳鼻咽喉科・泌尿器科・皮膚科 | 1,078.7 | (n=313) |
(独立行政法人 労働政策研究・研修機構「勤務医の就労実態と意識に関する調査」2012年をもとに作成)
年収価格帯の分布を見ると、最も多い年収帯は「1,000~1,500万円未満」(33.1%)で、次いで「1,500~2,000万円未満」(28.4%)が多くなっています。一方で、「300~500万円未満」は7.7%と他科と比べて高水準の割合となっており、低い年収帯の医師も少なからずいることがわかる調査結果でした。この傾向は、眼科や皮膚科、放射線科などのいわゆるマイナー科にも共通して見られます。前述のように女性医師が多く、非常勤で勤務する医師の割合が多いことが影響していると考えられます。
■小児科医の年収階層別の分布
主たる勤務先の年収 | 割合(%) |
---|---|
300万円未満 | 2.4 |
300万円~500万円未満 | 7.7 |
500万円~700万円未満 | 5.9 |
700万円~1,000万円未満 | 14.8 |
1,000万円~1,500万円未満 | 33.1 |
1,500万円~2,000万円未満 | 28.4 |
2,000万円~ | 7.7 |
(独立行政法人 労働政策研究・研修機構「勤務医の就労実態と意識に関する調査」2012年をもとに作成)
また同調査における自身の給与額に対する満足度に関する質問について、「満足」「まあ満足」と回答した小児科医は51.2%、「少し不満」「不満」と回答した小児科医は32.2%でした。満足寄りの回答の割合は調査対象となった全診療科の中で最も高いという、特筆すべき結果です。
少々古いデータになりますが、「第2回全国小児科医師現状調査」(日本小児科学会、2011年)においても49.5%(男性45.7%、女性54.6%)の小児科医が自身の年収に関して満足していると回答しており、「特に、女性は男性に比べ収入は低く、常勤勤務医の役職が上がりにくい傾向が示されたにも関わらず、収入・地位に対する満足度は男性よりも高かった。ここに、男女間の感覚の違いが示されている」と考察されています。女性の小児科医の場合は、年収以外の要素が仕事の満足度に影響している割合が高く、しかもワークライフバランス重視の傾向が強いことの表れなのかもしれません。
小児科医の働き方と給与の特徴
小児科では他の診療科に比べて女性医師の割合が高いだけに、働き方も多様です。「常勤」と「短時間勤務または非常勤」に分けて、小児科医の働き方の実態をみていきましょう。
2-1.常勤の小児科医の場合

小児科は、病院・診療所ともに標榜数が多い診療科です。病院勤務の場合は、入院患者さんの有無により働き方が大きく異なります。入院患者さんがいて、夜間・休日の急患を受け入れている病院の小児科医は、多忙な勤務にならざるを得ません。
「勤務医の就労実態と意識に関する調査」(労働政策研究・研修機構、2012年)によれば、小児科医のうち、主たる勤務先で日直が必要とされている割合は73.6%、宿直が必要とされている割合は71.7%といずれも高水準です(全診療科の平均は日直が61.8%、宿直が67.4%)。また、1回の宿直中に10人以上の患者さんの診療に対応する割合は33.3%で、救急科(35.3%)に次いで高くなっています。さらに宿直1回当たりの睡眠時間が4時間以下の医師は61.2%にのぼります。総合病院などで地域の中核として小児医療を担う医師は、過酷な勤務状況にあるといえるでしょう。
一方、入院施設のない診療所などでは、時間外労働やオンコール、日当直のないケースが多くワークライフバランスは保たれやくなります。ただし、入院施設のある病院勤務の医師に比べて業務の負担が少ないぶん、給与水準も低めとなる傾向があります。
2-2.短時間勤務または非常勤の小児科医の場合

女性医師が出産・育児をする場合、男性医師と同じように仕事に全力を注ぐことは現実問題として難しく、短時間勤務や非常勤として復帰するケースが多数です。医師に限った話ではありませんが、女性がキャリアを築くうえでよりいっそう社会の理解やサポートが望まれるところです。
短時間勤務または非常勤の小児科医の場合、総合病院やクリニックの外来、自治体の健診業務など様々な分野で求人を探すことが可能です。総合病院の常勤と比較すると給与水準は大幅に下がりますが、ワークライフバランスを重視して家庭を大切にしながら医師としても活躍できるというメリットもあります。