医師の偏在が起こる理由とは?4つの対策と今後の展望を解説|医師の現場と働き方

医師の偏在が起こる理由とは?4つの対策と今後の展望を解説

近年、医師数は増加傾向であるにもかかわらず、過疎地での医師不足や、診療科の偏りなどが問題視されています。医師の偏在が進むと、全国的な医療の質低下が生じることが考えられ、国主導でさまざまな施策が行われています。本記事では、医師の偏在が起こる理由やその対策を解説します。

〈本記事のまとめ〉

  • 医師の偏在とは、特定の場所や診療科に偏ってしまうことを指す。現状も地域や診療科によって医師偏在は起きている。
  • 医師の偏在が起きると、医師の不足による現場の負担増加や、患者さんも必要な治療を受けるために長距離移動をしなくてはならないといった問題が生じる。
  • 医師の偏在の対策としては、偏在を計る指標の導入による可視化や、医学部における医師の地域定着策の充実が挙げられる。

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1.医師の偏在の現状

医師の偏在とは、特定の場所や診療科に偏ってしまうことを指します。厚生労働省が発表している「令和2(2020)年 医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」を参考に、「地域偏在」と「診療科偏在」について現状を解説します。

1-1.地域における医師偏在の現状

「地域偏在」と聞くと、人口密度の高い都市部に属する医師が多く、郊外や首都圏から遠い地方で医師不足が起きているというイメージを持つ人も多いのではないでしょうか。しかし、そうとは限りません。

偏在を把握する際、単純に在住する医師の総数を見るのではなく、人口10万人当たりの医師数が指標となります。2020年時点で、人口10万対医師数が最も多いのが徳島県(338.4人)、次いで、京都府(332.6人)、高知県(332.0人)でした。

一方、人口10万対医師数が最も少ないのは埼玉県(177.8人)で、次いで茨城県(193.8人)、新潟県(204.3人)です。なお、47都道府県のなかで、最も人口が多い東京都は、ランキングで見ると(320.9人)、大阪府(285.7)と、徳島県を大きく下回る結果です。

あくまで全国平均であり、実際に過疎地では医療サービスの継続が難しい地域もあります。とはいえ、地域偏在は、都市部と地方というくくりでの差に限らず、あくまで地域差といえます。

1-2.診療科における医師偏在の現状

診療科による医師の偏在も指摘されています。資料によると、全40の診療科目のうち医師の割合が多かったのが内科で61,514 人(全体の19.0%)、次いで整形外科22,520人(7.0%)、小児科17,997人(5.6%)でした。

厚生労働省の資料「医師偏在対策について」によると、多くの診療科において医師は増加傾向にあり、以前より、医師不足が課題視されていた産婦人科や外科においても増加傾向にあるとされています。

とはいえ、医師全体の総数は増えているものの、その伸び率には大きな開きがあり、平成6年(1994年)を基準とした場合、平成26年(2014年)時点で麻酔科は1.84倍と大きく増加している一方で、外科は横ばいとなる0.99倍、また産科・産婦人科は0.97倍と減少しています。一時期の大きな減少から回復した程度にとどまり、大きく増加したとはいえません。

その後、令和2年(2020年)時点で、外科医の平均年齢は53.6歳、産婦人科は50.1歳となっており、若手医師が増加しなければ世代交代も難しく、今後も診療科偏在が続く可能性があります。

2.医師の偏在が起こる理由と背景

では、なぜ医師の偏在が起きてしまうのでしょうか。代表的な理由と背景について解説します。

2-1.若い医師の都市部志向による地域偏在

都市部だけに医師が集中しているとは限りませんが、人口密度が高く、利便性の良い地域に若い医師が集まりやすいのも事実です。30代以降でも、子どもの教育環境を考慮して都市部での生活を希望する医師も多く、医師の偏在に影響していると考えられます。

また、都市部では高度医療を提供する施設が多く、専門性の高い治療に携わることへの志向のある医師からも人気があります。

2-2.過疎化による患者不足で閉院が生じている地域の存在

過疎地域では医療機関を利用するそもそもの人口が少ないため患者数自体が少なく、医師や医療スタッフの確保が難しくなり、医療施設の運営が維持できないケースがあります。医師自身も高齢化する傾向にあり、場合によっては閉院に至ったり病院の統合が行われたりしています。なかには地域の文化に馴染めない、地域色が濃い人間関係にギャップを感じるといった要因で、勤務医が退職してしまうというケースもあります。

2-3.大学医局からの地域派遣が縮小されたことによる偏在

2004年に導入された「新医師臨床研修制度」により、地域の医師が不足しやすくなったという背景もあります。この制度が導入される前は、医学部を卒業後、大学病院で研修を受けるのが一般的でした。しかし、導入後は、研修先となる市中病院の選択肢が増え、若手医師が全国に広がりました。

実際に、2003年は医師の72.5%が大学病院で研修を受けていましたが、2018年には38.9%まで低下しています。一見すると、医師が自由に勤務先を選べるうえ、地方に医師が配属されるようになり、地域偏在の解消につながるものです。

しかし、大学病院の医師が減少したため、人手の足りない地域の病院に医師の派遣をすることが難しくなり、かえって医師不足が続いてしまった地域も発生しています。こうした変化も、地域偏在に拍車をかけた一因となっていると考えられます。

3.医師の偏在によって生じている問題

医師の偏在は、医師自身だけではなく患者さんにも影響します。偏在によって起こり得る問題をそれぞれ解説します。

3-1.医師に生じる問題

特定の分野や地域で医師の偏在が起こると、その地域や分野に携わっている医師の負担は大きくなります。過疎地で勤務する医師はもちろん、そもそもの人数が少ない外科や産科・産婦人科などに属する医師1人当たりの負担が大きくなる一方です。

また、医師不足の地域や診療科では、交代できる人員が少ないため、1人当たりの労働時間も長くなりがちです。休日が十分に確保できず、ストレスや疲労が蓄積することで体調を崩してしまう可能性があります。後継者や医療スタッフが不足していれば、その地域での医療を存続できなくなるという問題もあります。

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3-2.患者に生じる問題

医師不足によって特定の診療科が十分ではない地域では、患者さんに必要な医療を提供できなくなる可能性があります。必要な治療を受けるために、長距離を移動して医療施設を訪れなければならないなど、時間的・肉体的・経済的負担が生じる患者さんもいるでしょう。

加えて、緊急時に対応できる専門的な施設がない、対応できる医師がいない状況であれば、疾患が重症化した際、スピーディに必要な医療にアクセスできなくなるという問題もあります。

4.医師の偏在に対する対策

医師の偏在をできるだけ緩和するには、どうすればよいのでしょうか。今後検討されている施策について紹介します。

4-1.医師の地域偏在・診療科偏在を計る指標の導入による可視化

上述したように、現在、医師の偏在を表す指標として「人口10万人対医師数」が用いられています。ただし、この指標は以下の6つの要素を反映していません。

 

  • 医師の年齢区分や性別
  • 医療ニーズ
  • 将来の人口や人口構成の変化
  • 医師の偏在の単位(区域・診療科・入院/外来など)
  • 患者の流出入
  • へき地や離島などの地理的な条件

 

 

特に年齢区分については、世代交代に大きく影響するものであり、今後の医師偏在を解消するためには欠かせないデータです。また、将来の人口を踏まえた医療ニーズに基づき、地域や診療科ごとの偏在の度合いを示すべく、新たな指標の導入が進められています。

新たな指標が定着すれば、医師偏在がより具体的に可視化され、医師の確保に向けた、地域や診療科ごとの施策が実施できるとされています。

4-2.都道府県での医師確保の体制を整備

医師の偏在に対する取り組みとして、厚生労働省が主導する「都道府県での医師確保の体制を整備」が注目されています。政府主導の施策だけでなく、都道府県が大学や医療機関などの関係者と連携し、医師確保計画や地域医療支援事務を見直すといった医師の偏在対策を進められるような体制の構築が求められています。

4-3.医学部における医師の地域定着策の充実

医学部における医師の地域定着策を充実させることで、地域の偏在を解消できる可能性があります。具体的には以下2つの取り組みが重要です。

 

  • 医師が少ない都道府県の医学部での地域枠の拡大
  • 医師不足の地域での、臨床研修医の拡大

 

 

地域偏在の対策として設けられた「地域枠」や「地元枠」は一定の成果を挙げており、実際に、大学卒業後もその地域で定着する傾向にあります。しかし、地域枠があっても、利用者が少ない状況であれば、目標数を満たすことができません。都道府県からの働きかけはもちろん、業界全体で地域枠の入学を促したり、地域枠を拡大したりする必要があるでしょう。

さらに、研修医は都市部に集中している傾向があるため、医師不足の地域でも臨床研修を充実させるため指導者の育成や基盤作りが求められます。

5.地域偏在と診療科偏在には体制の整備が必要

医師の偏在は、「地域偏在」と「診療科偏在」があり、それぞれの対策が進められています。医師の偏在が進むと、医療の質が低下するだけでなく、地域や疾患により、受けられる医療に差が生じてしまいます。医師がどの地域、どの診療科で働くかは個人の裁量であり、選択の自由があって当然です。しかし、業界全体として、医師偏在が起きている実情を理解しておくことも大切かもしれません。

今後、転科や転職を検討している方は、不足している診療科や地域を検討してみてはいかがでしょうか。

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PROFILE

監修/小池 雅美(こいけ・まさみ)

医師。こいけ診療所院長。1994年、東海大学医学部卒業。日本医学放射線学会・放射線診断専門医・検診マンモグラフィ読影認定医・漢方専門医。放射線の読影を元にした望診術および漢方を中心に、栄養、食事の指導を重視した診療を行っている。女性特有の疾患や小児・児童に対する具体的な実践方法をアドバイスし、多くの医療関係者や患者さんから人気を集めている。

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