開業のための資金形成にあたり、親が援助をしてくれる場合もあるでしょう。ところが、資金面の問題さえクリアになればうまくいく、というわけではないようです。医療経営コンサルタントの平田二朗氏が、親に資金援助をしてもらう場合の注意点について解説します。
親の援助で開業したものの……

親が資産家や開業医などで、開業資金を援助してくれたり、場合によっては資金を全額出してくれたりするケースがあります。税務上の問題はありますが、どちらにしても開業する本人にはリスクがかからないよう親が援助するパターンに出くわすことがあります。ここでは典型的な事例を紹介します。
開業していて資産の蓄積がある父親を持つ先生の開業事例です。父親がまだ元気で診療をしていることと、本人の専門診療科が違うこともあり、隣の土地にMRやCTなどの大病院と見まがうほどの医療機器と設備及び建物の広さを持った、事業資金おおよそ5億円級の診療所が建設されました。父親の開業している場所は田舎なので、『都会地に住む息子が帰ってきてくれるなら』という思いで、贅沢すぎる施設を用意したのです。
しかし、開業して数年後、本人が患者さんの家族と深刻なトラブルに遭遇。
「自分はここで開業したいと思って開業したわけではない。父親が頼むから帰ってきてくれと言うからここで開業した。しかしトラブルも抱え、ここで事業を継続することはできない」
と、事業継続を断念し、数カ月後にはあっさり閉院してしまいました。
リスクも覚悟もない開業はキケン

閉院後、事業に関わる資金は親の負担のまま、本人は都会地に引っ越して、勤務医をしています。もし事業資金が本人負担で金融機関からの借り入れだったら、当然ですが破産状態です。
開業にあたり事業主としての覚悟も、社会人としての覚悟もないまま「自分が望んだ開業じゃない」ということで、あっさり立ち去られては、残された親も、5億円という資産も立つ瀬がありません。親は息子が自分のあとを継いでくれることを望み、もしくは息子が社会的に成功してくれることを望んで、援助をしたわけですが、親の援助といえども所詮は他人の金です。自分が借金をし、その事業に失敗したら破産という覚悟がない状況でのスタートは問題です。
よかれという思いでの親の行動ですが、客観的には事業主として、経営者として息子を社会的に自立させてゆく機会を奪います。息子が開業したい、親のあとを継ぎたいという意思があるのなら、親はほかの子どもに対しても配慮しつつ、財産の振り分けなどで成り立つようにし、開業はあくまでも本人の責任で開業させるほうがよいでしょう。子どもの事を思うなら、独り立ちできるように促すのが親の役目であり、安易に援助することは、その目的から外れてしまいかねません。親の援助や資金提供をあてにして開業計画を組むという考えは、やめた方がいいでしょう。
記事の監修者
医療経営コンサルタント
平田 二朗(ひらた じろう)
元病院を経営する公益財団法人の専務理事。
保険調剤薬局経営を経験し、医師開業支援を多数実施。病院法務セミナーや医療安全フォーラムなどを多数主催。スウェーデン医療福祉視察を7回実施。「病院経営のしくみ」「クリニック開業ガイド」「スウェーデン精神科医療改革」(マイナビ出版)など著書多数。現在、一般社団法人医療法務研究協会副理事長、医療法人・社会福祉法人などの理事、(株)コメディカル代表取締役。