この科の医師は――PCの前に座っている人・顔は知らない・でも名前はよく知っている。頭良さそう・まじめ・細い・高眼鏡率で、地味目⁉
イラスト:イケウチリリー
取材・文:マイナビRESIDENT編集部
このコーナーは元々、医学生と初期研修医に将来のことを考える材料にしてもらおうと、『マイナビRESIDENT』用に作りました。2018年に開始した新専門医制度で基本領域になった19診療科の専門医に、その科の魅力やイマイチなところ、どんな人が向いているのか、「あるある」、一日の仕事の流れ、典型的な医師像などを「ぶっちゃけ」で語ってもらった記事です。こういった他科の詳細な情報は、転科や診療領域の追加を考えている医師にとっても有益だと考え、『マイナビDOCTOR』にも掲載することにしました。
放射線科は、専門医の藤井佳美(ふじい・よしみ)さんに聞きました。
インタビューを受けていただいた医師
藤井佳美(ふじい・よしみ)医師 = 1974年生まれ
- ■所属
- 藤沢市民病院(536床)放射線診断科部長
- ■主な資格
- 日本放射線学会放射線診断専門医、IVR専門医
- ■卒業大学
- 東海大学
* 医師の所属、主な資格は取材当時(2023年10~12月)
インタビュー内容
- Q1.なぜ放射線科を専門に選んだのですか?
- Q2.放射線科の良いところを教えてください
- Q3.放射線科のイマイチなところはありますか?
- Q4.専門医としての技術や知識を磨くためにやっていることはありますか?
- Q5.放射線科は何年ぐらいで、自信を持って診療できるようになれますか?
- Q6.放射線科に向いている人を教えてください
- 病院勤務の一日の流れ
- Q7.放射線科は開業に向いていますか?
- Q8.もし放射線科がなかったら、何科を選びますか?
- Q9.他科の医師から一目置かれるのは何科ですか?
- Q10.放射線科の「あるある」を教えてください
- Q11.典型的な放射線科医とはどんな人ですか?
- 医学生・初期研修医へのメッセージ
Q1.なぜ放射線科を専門に選んだのですか?
専門をどうしようか迷っていた時に、放射線科に進んだ先輩から「何科になるにしても画像が読めて困ることはないから、とりあえずやってみなよ」と勧誘されたんです。それで、まずは画像を読めるようになってみようと思いました。実際にやってみたら画像診断が面白くて。自分は画像を見るのが好きだということに気づいたんです。最先端の技術を扱いながら仕事ができるというのも魅力に感じました。また一つの臓器ではなくて、頭のてっぺんから足の先まで全身を診る仕事なので、これは飽きないだろうなと思ったんです。
Q2.放射線科の良いところを教えてください
いろいろな診療科のいろいろな疾患を診断するので、勉強することが多く、日々学びがあります。幅広い診断を行うと同時に、自分の好きな分野を見つけて知識を深めていくこともできます。長年やっていても、初めてみる疾患は多くあります。新しいことを知る楽しさを常に感じながら仕事ができる点はよいと思います。
チームプレーというよりは個人プレーで仕事をする診療科です。一人前になれば仕事のペース配分もある程度、自分で決めることができます。他の診療科と同じように病院に勤務し画像診断を行う医師もいれば、自宅で遠隔画像診断医として働く医師もいます。ライフスタイルに合わせた働き方を選ぶことができるんです。
上下関係が厳しくないというのも私は気に入っています。放射線科では年次に関わらず、ある分野に詳しい医師がいたらその人に教えを乞うという文化があります。どこの病院でも一般的にはフラットな雰囲気で、居心地がいいです。
また、あまり知られていないことですが、放射線科医の仕事の中にはIVR(Interventional Radiology)という分野があります。X線やCT、超音波などの画像診断装置を使って体の中を見ながら、カテーテルなどを用いて治療を行う「画像下治療」です。患者の体への負担が少ない低侵襲治療で、患者の高齢化に伴って活躍の機会が増えています。IVRの技術を身に付ければ、救急の現場でカテーテルを使って外傷患者の出血を血管の中から止めたり、腫瘍の治療をしたりと診療の幅が広がります。IVRで直接患者の治療を行うことができるのは、読影とはまた違ったやりがいがあります。
Q3.放射線科のイマイチなところはありますか?
私にとっては本当に良いところしかないんですけど……(笑)。強いて言えば、放射線科医は数が少ないので、人手が足りていない施設があることです。そういう施設では少人数の医師が大量の画像診断を行う必要があり、負担が大きく、きついと思います。
Q4.専門医としての技術や知識を磨くためにやっていることはありますか?
自分の画像診断が実際の臨床にどのように反映されたか、病理診断と合っていたのかという、結果の振り返りは必ずやるようにしています。気になる症例は臨床医や病理医に直接聞いています。それをやらないと、例えばゴルフの練習で暗闇に向かってボールを打っているようなもので。自分の球筋がどうだったのかを確認して次のスイングを修正していかないと、上達しないと思います。
放射線科は勉強会とか症例検討会が多くあるので、できるだけ参加するようにしています。定期的に自分が経験した症例について発表したり、他施設の症例についての報告を聞いたり。もう十何年、ずっと続けています。
最近始めたことでは、珍しい症例が紹介されている海外の医療関係者向けのSNSや、放射線科のSNSに参加して、楽しみながら最新の知識を入れるようにもしています。
若い頃はIVR(Interventional Radiology:画像下治療)の上達のために、家にカテーテルやガイドワイヤーを持ち帰ってずっと触っていました。手先が器用な方ではなかったのでカテーテルをうまく扱えなくて。少しでも手になじむように練習していました。
Q5.放射線科は何年ぐらいで、自信を持って診療できるようになれますか?
卒後7年ですね。放射線科の専門医(放射線診断専門医、放射線治療専門医)は、初期研修2年間の後、専門研修を5年行い取得できます。それが一つの目安だと思います。卒後7年目ぐらいになると、全体の8割ぐらいの症例は診断に迷うことはなくなり、臨床医とのカンファレンスでも自信をもって発言できるようになります。しかし個人的には、専門医資格は運転免許の「仮免許」のようなものだと思っています。8割の症例を診断できても、残りの2割の症例を診断できるようになるまでには、まだまだ時間がかかりますから。
IVR(Interventional Radiology:画像下治療)の場合は、症例の多い施設でトレーニングを積めば、一般的なものについては3~4年でできるようになると思います。ただし高度な技術を身につけようとするとさらに年数がかかります。またIVRは画像診断をもとにした技術ですので、前提としてある程度の画像の知識は必須です。どの血管からアプローチすれば侵襲が少なく合併症が起こりづらいか、画像をみて判断できなくてはなりません。画像診断ができる人ほど、IVRの上達も早いように思います。
Q6.放射線科に向いている人を教えてください
一日中、机の前に座っていられる人、そして集中力のある人。画像診断は情報処理です。正確な情報処理を長時間し続けるには、集中力は必要です。
幅広い分野に興味が持てて、勉強が好きな人が向いています。それぞれの臨床科で疾患の概念が変わったり、ガイドラインに変更があったりするので、放射線科はそういった情報をアップデートし続けなくてはなりません。
一方で、仕事に華やかさを求める人には向いていないかもしれません。
病院勤務の一日の流れ

Q7.放射線科は開業に向いていますか?
実は、すごく向いています。いわゆる「開業」とは違いますが、専門医資格を取った後にフリーの放射線診断医として独立し、複数の医療機関で読影を行う人が増えているんです。今は医療安全の観点から、専門医が読影を行うということが重視されていて、診断医の需要は増えています。自宅に読影ができる端末があれば、普通のインターネット環境で仕事ができる時代です。子育てや介護で病院勤務が難しいため、遠隔読影の仕事をしている医師は多いです。
Q8.もし放射線科がなかったら、何科を選びますか?
放射線科がなかったら、転職していたと思います(笑)。初期研修でローテートして(いろいろな診療科を回って)、大いに迷いました。一つの臓器にとらわれず診療を行う総合内科がよいと思ったこともあります。また学生時代の実習の経験から、乳腺外科も魅力に感じていました。指導医から「乳腺外科は一人の患者を長く診て、手術もケモ(化学療法:chemotherapy)もできるし、治療も効く。患者さんと一緒に治療を進めていくことができて、やりがいがあるよ」と聞き、心が動いたのを覚えています。
放射線科医としても乳腺の診断は好きです。乳腺はCTもMRIも撮るし、超音波も使うので、さまざまな画像を見ることができます。画像所見と病理所見がよく対応するので、自分が行った画像診断が正しかったのか、詳細に検討できる点もいいですね。
Q9.他科の医師から一目置かれるのは何科ですか?
そもそも一目置かれたいと思っていたら放射線科は絶対に選ばないので、こういう視点で診療科を見たことはないですね(笑)。個人的には病理診断科の医師は尊敬しています。病理医は20年目でようやく一人前になるかどうか、という話を聞いたことがあります。全ての診療科の最終診断を行う病理診断は、やはり厳しい世界だなと驚きました。放射線科医にとっての病理医は、自分の診断が正しかったかどうか、答えを教えてくれる人ですので、別格だと思っています。
Q10.放射線科の「あるある」を教えてください
日常生活において、右と左を間違えます。画像だと、目で見た「左」が患者の「右」になるんですよ。画像診断では左右を普通の人と逆に使うので、それが癖になっています。タクシーに乗って左折してほしい時に「そこを右折してください」と運転手さんに言ってしまって、「あ!違った」というのはよくやります(笑)。
Q11.典型的な放射線科医とはどんな人ですか?
一日中パソコンの前に座っている人。読影レポートには診断をした医師の名前が記載されるため、名前は知られていますが、顔とは一致していないと思います。白衣を着ることはほとんどなくて、仕事中は私服。みんな勉強が好きです。
男性は、細くて眼鏡をかけている人が多い印象です。みんな頭が良さそうでまじめ。女性もまじめです。ド派手な人はいませんね。
医学生・初期研修医へのメッセージ
実は私、学生の頃は放射線科に医師がいることを知らなかったんです(笑)。私は学士入学で医学部に入ったため、学生実習で放射線科の実習はありませんでした。授業はありましたが、放射線科医が具体的にどんな仕事をしているかはイメージできていなかったんです。初期研修の最初に外科を回ったとき、紙の読影レポートにサインがしてあって、それを放射線技師のサインだと思ったぐらいです。放射線技師ってこんなことまで分かるのか、すごいなと感心したことを覚えています。
そんな私が放射線科医になっているわけですから。研修医になっていろいろ経験してみないと分からないことがたくさんあります。若い頃は、何科が格好良いとか、何科の方が偉いとか、そういうことを考えてしまうかもしれませんが、自分に合った診療科が見つかれば、何科を選んでも充実した仕事ができると思います。
一度診療科を選んでも、別に興味ができたら科を移ることもできます。放射線科には眼科や小児科から放射線科に転科した医師もいますし、しばらく放射線科の研修をした後で外科医や小児科医になった医師もいます。最初に選んだ診療科が「変更の利かない人生最後の選択」ではありません。進路に悩んでいる人は「ひとまずやってみる」というスタンスでいるのがいいと思います。