専門医の資格は保有していなくても医師として働けます。しかし、資格があると転職や開業に有利です。専門医資格を保有していることによるメリットを知り、転職や転科に活かしてください。本記事では専門医資格の基本やメリットを解説します。
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1.専門医・専門医制度とは
専門医制度は2018年に新専門医制度が開始され、認定基準が大きく変わりました(※)。専門医と専門医制度について、まずは現在の状況を正しく知っておきましょう。
1-1.専門医は標準的な医療を提供できる医師
一般社団法人日本専門医機構が定める専門医とは、各診療領域で教育を受け、患者さんから信頼される標準的な医療が提供できる医師です。十分な知識や経験を持っていることが認められ、それを診療に活かせる医師が専門医であるため、高度な医療技術を保有している医師のみが専門医と呼ばれるわけではありません。
専門医になるには、一定期間専門研修を受けて審査や試験に合格する必要があります。また、一度取得すれば更新が必要ない医師免許に対し、専門医の資格は更新が必須です。更新のたびに知識や活動内容が審査されるため、専門医であり続けるには常に研鑽を積むことが求められます。
1-2.2018年に新専門医制度が開始
専門医制度は、専門医の質の向上を目的とした教育制度です。2018年に新専門医制度が開始され、これまでの専門医制度にあった認定基準のばらつきや、曖昧な専門医指標の問題が解決されやすくなりました。
医療業界の内情を知らない一般の患者さんは、専門医と聞くとスーパードクターのような印象を持ちやすいです。しかし、これまでの専門医制度では、学会によって認定資格取得の難易度に差があり、医師の質もさまざまでした。こうした認識の違いを埋め、患者さんが良質な医療を受けられる環境を作ることが新専門医制度の目的です。
新専門医制度は始まったばかりの制度であるため、改正が繰り返されることが予想されます。しかし、今後は専門医の肩書がより重視されるようになる可能性があります。将来を見据えた資格の選択が、医師としてのキャリアアップにつながるでしょう。
2.専門医の資格を取得するメリット
専門医の資格を取得すると、医師としてのキャリアアップが見込めます。専門性や信頼性の証明にもなり、それによってさまざまなメリットが発生します。主な5つのメリットをみていきましょう。
2-1.スキルアップができる
専門医の資格を取得するためには、決められた研修を受け、能力を認められなければいけません。その研修によって診療科目ごとのスキルや知識が身につくため、専門医資格取得までの過程が自らのスキルアップにつながることが大きなメリットです。
また、専門医であり続けるためには一定期間ごとに認定を受けて、資格の更新が必要です。そのために常にある程度の緊張感を持ち、勉強や診療内容の見直しをし続けられる点もメリットになるでしょう。
2-2.専門性が証明できる
さまざまな病院で見かける内科、泌尿器科、循環器科のような表記は、標榜診療科と呼ばれるものです。標榜診療科は専門医が在籍していない場合でも、医療法を遵守した上で自由に掲げられ、医師や病院の得意分野を伝えられます。一方で専門医の資格は、実際に資格を保有していないと表記できません。
厚生労働省が提供する医療機能情報提供制度(医療情報ネット)では、専門医の在籍状況から病院の検索が可能です(※)。また、開業医は専門医資格の広告掲載が2002年より認められています(※)。患者さんも専門医の在籍状況を見て病院を選ぶ時代になりつつあり、専門性の証明ができる専門医の資格はより重視される傾向にあります。
※出典:厚生労働省「医療機能情報提供制度(医療情報ネット)について」
※出典:厚生労働省「医療に関する広告が可能となった医師等の専門性に関する資格名等について」
2-3.信頼を得やすくなる
専門医の資格は、その診療分野において一定水準以上の医療を提供できる証明になります。患者さんも専門医の存在を十分に認知している現代では、専門医の資格を保有している医師は信頼を得やすいです。標榜診療科に加えて専門医の在籍が確認できれば、安心して病院を選ぶ患者さんも増えるでしょう。
また、同じ現場で勤務する医療従事者からの信頼感も、専門医資格を持っている方が高まりやすいです。実際に働いてみないと分からない部分は多いものの、専門医資格の保有によって印象が良くなる可能性はあるでしょう。
2-4.転職・開業で有利になりやすい
専門医の資格は患者さんや医師、医療従事者からの信頼感につながります。自分のスキルや知識の証明にもなるため、転職で有利になりやすいです。
さらに専門医は売り手市場の現状があり、資格を保有していると転職先の選択肢が広くなります。専門医は在籍しているだけでも患者さんの信頼感を得られ、一定の能力も保障されています。医療施設側が採用基準のひとつとするのも自然な流れといえるでしょう。
地域や診療科目による差はあるものの、専門医の資格を保有している医師と保有していない医師とでは、理想的な転職先を見つけられる確率にも違いがあります。
また、開業する際も専門医資格は有利と言えます。患者さんは新しい病院への通院を決める際、標榜診療科や専門医資格、医師の経歴、病院の雰囲気などの限られた情報から判断するためです。
2-5.給与や待遇が向上する
専門医資格によるインセンティブや診療報酬の加算は、現状ではありません。しかし、独自に専門医資格に応じた段階別の評価や年俸制を導入する病院も出てきています。
専門医は知識とスキルが高い医師である証明です。専門医資格を持たない医師と待遇が同等だと、専門医が不満を抱き、転職を選ぶ可能性もあるでしょう。そのため、医師が不足している地域や診療科では、独自に給与や待遇に差をつけて専門医の確保に動く可能性も考えられます。
大きな病院や急性期病院では、特に専門性の高いより的確な治療が求められます。そうした背景から専門医の重要性も高くなり、そうした病院を選べばより好待遇が期待できるかもしれません。反対に小さなクリニックや介護施設などでは、専門性の重要度が低い傾向があるため、専門医資格による待遇の違いは少ないと考えられます。
3.専門医のキャリアプラン
専門医になる場合は、どのようなキャリアプランが考えられるのでしょうか。専門医資格を持つ一般的な勤務医のキャリアプランと変化する立場を知って、キャリア形成の参考にしてください。
3-1.20代~30代中盤頃
医大を卒業したばかりの20代は、まずは初期臨床研修で臨床能力の基礎を身につけます。その後、専門性を身につけるための後期研修を経て専攻医になります。専攻医は専門医の資格を取得する前段階のような立場で、各病院の専門医プログラムに参加して経験を積む時期です。専攻医として医療に携わる期間は3~5年程度で、年齢的には20代後半です。博士号の取得や専門医としての方向性を決める時期に加え、結婚や出産などのプライベートの変化もある目まぐるしい時期でしょう。
30代になると専門医の資格を取得し、経験も積んで公私ともに落ち着き始めます。しかし、専門医取得までに考えていたキャリアプランを見直す時期でもあります。現状のまま専門性を高めるか、転科や転職するのかを決め、不足している能力を補い、新しいスキルを身につける時期です。専門医の取得を保有していれば、選択肢は多いでしょう。
3-2.30代後半~40代
30代後半~40代頃になると、医師の基礎や経験も十分になります。複数の専門医資格を保有する人も多くなります。専門医として勤務している場合は、患者さんの診察だけでなく若手の育成やマネジメントなども行うようになり、リーダーシップを取るシーンも増えてくるでしょう。
プライベートでは子どもの独立や両親の介護の必要など、年齢を重ねたことによるライフスタイルの変化が表れ始めます。その変化に合わせて医局にとどまるか、開業するかを選ぶ医師も少なくありません。
転科や転職を検討している場合は決断をした方がよい時期です。50代に入ってからの環境の変化は、精神的にも肉体的にも負担になるかもしれません。専門医の資格を保有していれば、開業も有利です。医局にとどまる場合でも、より専門性を高めて活躍できます。
3-3.50代以降
50代になると責任のあるポジションにつく場合があります。積み重ねた知識と経験を持つ専門医として、周囲の信頼を集める人も多いでしょう。しかし、加齢による衰えが出始め、外科や救急など一部の診療科では思うように能力を発揮できなくなってくる可能性もあります。定年までのキャリアプランを見直す必要があるかもしれません。
この時期に開業を考える医師も少なくありません。子どもや若手に現場は任せて経営者になる道もありますが、専門医の場合は診療科目によっては定年まで活躍を続けられる可能性があります。診療科目による違いはあるものの、専門医は定年まで専門とする診療を続けやすいでしょう。
4.専門医の資格は重要!転職にも有利
専門医制度は2018年に新しくなり、専門医が一定水準以上のスキルや知識を保有していることが保障されるようになりました。そのため専門医の資格は医師としての信頼性を判断するひとつの材料になっています。患者さんが専門医を探すことも容易になりつつあり、専門医の資格は今後より重要性を増していくでしょう。
特に転職をする際は、専門医資格の有無で選択肢の幅や採用後の待遇に変化が現れます。スキルアップやキャリアアップをするためにも欠かせない資格であるため、ぜひ取得を目指し、保有している場合は活用しましょう。
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