「形成外科」のリアル 現役の専門医に直撃!|新専門医制度 19基本領域まるごと図鑑

「形成外科」のリアル 現役の専門医に直撃!

この科の医師は――整形?・いや形成・カメラ必須・ご褒美のセルフボトックス⁉

イラスト:イケウチリリー
取材・文:マイナビRESIDENT編集部

このコーナーは元々、医学生と初期研修医に将来のことを考える材料にしてもらおうと、『マイナビRESIDENT』用に作りました。2018年に開始した新専門医制度で基本領域になった19診療科の専門医に、その科の魅力やイマイチなところ、どんな人が向いているのか、「あるある」、一日の仕事の流れ、典型的な医師像などを「ぶっちゃけ」で語ってもらった記事です。こういった他科の詳細な情報は、転科や診療領域の追加を考えている医師にとっても有益だと考え、『マイナビDOCTOR』にも掲載することにしました。
形成外科は、専門医の金沢雄一郎(かなざわ・ゆういちろう)さんに聞きました。

インタビューを受けていただいた医師

沢雄一郎(かなざわ・ゆういちろう)医師 = 1974年生まれ

■所属
フリーランス。酒井形成外科(東京都)、ヴェリテクリニック銀座院(同)、静岡厚生病院などを拠点に勤務
■主な資格
形成外科専門医
■卒業大学
新潟大学

* 医師の所属、主な資格は取材当時(2023年10~12月)

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インタビュー内容

Q1.なぜ形成外科を専門に選んだのですか?

クリエイティブだと思ったんです。形成外科の治療には「スタンダード」がなく、医師が10人いたら10通りの方針があります。例えば、指の移植手術だと、再建の仕方がさまざまですし、そもそも、再建しないという選択肢もあります。顔の骨が折れた患者に対しては、まぶたの中から切るか、表を切るか、どこから骨にアプローチするかなど、それぞれの医師にこだわりがあります。

大学6年生の時に、形成外科の道に進もうと決めました。体の一部を別の場所に移植したり、皮膚を切ったり貼ったりして、見た目に結果が表れるので分かりやすく、インパクトがある仕事だなと思いましたね。生まれつきの奇形(先天奇形)がある子を、赤ちゃんのうちに治してあげられることなんかは、すごくやりがいがありそうだと感じたんです。

Q2.形成外科の良いところを教えてください

自分のオリジナリティを発揮し、手術した箇所を「映え」させられることですかね。非常に自由度が高いと思います。見た目で「うまくいったな」とすごく分かるのが良いことです。経過が良ければそれがベストですし、患者さんの喜ぶ表情が見られれば、それが一番の報酬です。

私の専門はまぶたです。まぶたの手術が得意な指導医に出会い、面白みに気づきました。上のまぶたが垂れ下がる「眼瞼下垂(がんけんかすい)」は、今は美容形成ではすごく人気のジャンルですが、当時はあまり人気がありませんでした。しかし、加齢現象で誰にでも起こることなので、市場がすごく大きいぞと思ったんです。かつ、一朝一夕で手術ができる分野ではない。長期間のトレーニングが必要なので、「今がチャンス」とクールに分析して決めました。ここ数年は学会に参加すると、部屋がいくつかある中で、「目元」のセッションは立ち見になります。昔はガラガラだったんですよ。私の仕事場にも、ありがたいことに月に2、3人は専門医を取った後くらいの若手の形成外科医が見学に来ます。

Q3.形成外科のイマイチなところはありますか?

形成外科医は全身管理が苦手ですね。血糖値のコントロールとか、この感染症にはどの抗菌薬を使えばいいか、などについては疎いです。極端な話、「生きる/死ぬ」の世界が苦手なんですよ。形成外科では、1人亡くなったら大事件です。まあつまり、基本的には健康な人が対象なので全身管理の必要があまりない、ということになります。

あとは、あまり学術的な世界と密接ではないところですかね。アカデミックに評価するには、類似の症例を一人で何例も集めないといけません。形成外科の世界では、一人の医師が似たような症状の患者を10人も経験するなんてことはありません。血管をつなぐとか皮膚移植をするなどの基本的な技術は存在しますが、それを駆使して、患部をどうデザインするかはケースバイケースのため、なかなか論文にもしづらいんです。

Q4.専門医としての技術や知識を磨くためにやっていることはありますか?

患者の「ビフォー・アフター」の写真は何万枚と保存してあり、それを眺めているだけで、次々に新しい発見があります。それでレベルアップしている実感はありますね。例えば、二重まぶたの高さの幅をこのくらいにしていたらちょうど良かったな、とか反省をするんです。私が専門にしている眼瞼下垂の治療は、PDCA(「Plan(計画)」「Do(実行)」「Check(評価)」「Action(改善)」)サイクルが1回転するのが6カ月周期なんですよ。診察して、施術をして、しばらく腫れて、形がなじむまでに6カ月。つまり、チャレンジをして、その評価が下るのは6カ月後です。さらに、それを基に新しいプランを立てると、それだけで1年たちます。上達にはすごく時間がかかりますが、積み重ねることでしか進歩はしません。

また、10年以上前からWebサイトで情報発信をしています。思いのほか反響があり、北海道や九州から私のもとに来てくれる患者さんがいるほどです。ニーズがあることが分かり、独学でWebサイトを育ててきました。ブログには正確な情報を書かないといけないので、すごく調べて文章を書くんです。その結果、知識のアップデートにもなりますし、私に診てもらいたいという方が増えるんです。それがモチベーションにもなっています。

Q5.形成外科は何年ぐらいで、自信を持って診療できるようになれますか?

10年が一つの節目だと思います。専門医を取れるのが卒後6年目くらいなので、それからある程度の自由が利く中で5年ほど経験を積むと、だいぶ自信が付くはず。そのうちに、自分の好きな領域が見つかってくると思います。例えば、子どもの先天奇形であったり、やけどであったり、美容形成であったり。がんセンターで働く人もいて、乳がんや頭頸部(とうけいぶ)がんの治療では、肉を切除した部分にお腹や脚の肉や、腸を移動して持ってくるような大がかりな手術もありますよ。

Q6.形成外科に向いている人を教えてください

独りが好きな人は多いですね。治療に関して、1人で完結できるのが形成外科の特徴だと思います。総合病院でも、形成外科医はせいぜい1人か2人しかいないので、どうしても1人でやる仕事が多いです。ただ、がんセンターなどでは、みんなで「わっしょいわっしょい」と仕事をしていて、チームプレーが好きな人もいます。

病院に勤務していた時の一日の流れ

Q7.形成外科は開業に向いていますか?

形成外科は売り上げを上げるネタがないので、開業には向かないです。手術して終わりですから、基本的にリピーターがいません。診療報酬は、問診が70点、つまり700円です。それじゃ全然やっていけないですね。だから可能性があるとしたら、美容外科としての開業です。でも美容形成もレッドオーシャンなので、厳しいですよ。

美容で開業する皮膚科医と形成外科医の割合は半々くらいです。これまでは専門医を取ってから美容の道に進む人が多かったのですが、最近は取らずにそっちへ行く人もいます。美容で開業を目指す女性は、皮膚科を通る人が多いです。皮膚美容・シミ取り脱毛、肝斑(かんぱん)治療のレーザートーニング、注射(ヒアルロン酸、ボトックス)などの施術は、皮膚科出身の女医さんが好きでよくやっています。手術の方が好きという人には形成外科をお勧めします。

Q8.もし形成外科がなかったら、何科を選びますか?

専門医を選ぶ上で2番手の候補は眼科でした。「見る」という分かりやすい機能を改善するので、良くなった時の実感がはっきりしているのが魅力だと思います。眼科は治療法も検査機器も年々進化していて、面白そうです。

ちなみに、眼科を諦めたのには大きなきっかけが一つあります。実は、新潟大学医学部付属病院の眼科に入局希望を出していたんですけど、100人いた同級生のうち眼科を志望した人が11人もいたんです。3人集まれば十分な眼科で、ですよ。これはレッドオーシャンだぞ……と思い、すぐさま「一抜けた」です(笑)。医師たちの間ではその頃から、今に続く「メジャー科回避」のトレンドが始まっていたのだと思います。

Q9.他科の医師から一目置かれるのは何科ですか?

小児科、素敵です。子どもの点滴は大人よりも断然難しいんですけど、バシッと針を入れるテクニックが素晴らしいですよね。あれは、一度見るとほれますよ。それから、優しい先生が多いですね。僕も子どもが好きなので、実は小児科も候補だったんです。ただ、あの時代から訴訟問題が話題になり始め、保護者の見る目が厳しくなってきて、これは小児科は厳しいなと候補から外したんですよ。保護者は子どもを愛していますから、ちょっとでも気になることがあれば医師は詰め寄られます。それを乗り越えて小児科の医師をやっているんですから、尊敬しています。

Q10.形成外科の「あるある」を教えてください

全形成外科医の悩みは、認知度が低いことです。認知度は肌感覚として、2割5分ですね。形成外科医だと自己紹介すると「最近、腰が痛くてね」「骨折したかもしれないんですけどどうすれば」と返ってきます。半分以上の人が整形外科と勘違いしていて「あ、僕の専門は違って……(苦笑)」みたいなやりとりが発生します。それでも昔に比べれば知られてきていると信じています。「美容外科医です」と言えばまだ通じるでしょうね。

「形成の先生はみんな、病院内でカメラを持ち歩いてるよね」と言われたことがあります。ビフォー・アフターが全てなのでカメラはマストなんです。趣味でもやる人が多いですね。一眼レフ派と高級コンデジ派に分かれますが、最近の若い人だと高級コンデジが多いです。ちなみに私はキヤノンの一眼レフを愛用しています。

Q11.典型的な形成外科医とはどんな人ですか?

独りが好きな人、ストイックな人が多いですね。形成外科の学会でメタボな人はめったに見ません。だいたい総合病院に勤めていると、メタボなドクターはどの診療科にもいるんですけど、形成外科にはいないです。見た目に関する意識が高い人が自然と集まっているんですかね。私は全然です(笑)。

女性はキラキラしていますが、男性はあえて言うなら、根暗なイメージ。ずっとプラモデルを作っているみたいな。手術で深いところを見るために使うヘッドランプが好きな医師がいるんですけど、それを着けて細かい作業をしているみたいなね。

あとは強いて言うなら、本流がなくて、みんなが亜流ということでしょうか。出産をしてお母さんになっても仕事をしている人はたくさんいるし、大学に残って研究を続けている人もいるし、私みたいにフリーランスで働いている人もいます。

医学生・初期研修医へのメッセージ

非常に厳しい言い方になりますが、形成外科は「消滅可能性ナンバーワン」の診療科だと思います。実は、形成外科の仕事はどんどん減っています。いわゆる、パイが小さくなり始めたので、他の診療科が、これまで敬遠していた疾患を取り戻し始めたんです。手の外傷の治療は整形外科に、やけどは救急科に、口と顔は耳鼻咽喉科に――といったように、形成外科の仕事が他科に移っているんですよ。そういう意味で、将来的に消滅の可能性があると思っています。

もし形成外科に興味があるなら大歓迎です。ただ、5年後、10年後は分からない状況なので、適宜、軌道修正をするというマインドセットを持っておいた方がいいでしょう。美容の世界はレッドオーシャンですしね。ただ、クリエイティブで刺激的な世界なので、仕事は楽しいですよ。

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