PHR(パーソナル・ヘルス・レコード)とは? EMRやEHRとの違い、導入のメリット・デメリットも解説|医師の現場と働き方

PHR(パーソナル・ヘルス・レコード)とは? EMRやEHRとの違い、導入のメリット・デメリットも解説

PHR(パーソナル・ヘルス・レコード)とは、「個人の健康・医療・介護に関する情報」のことですが、具体的にはどのように活用されるのでしょうか。 今回はPHR について、EMRやEHRとの違いやPHRの導入のメリット・デメリットに加え、課題点や医師が準備しておくべきことについて解説します。

<この記事のまとめ>

  • PHR(パーソナル・ヘルス・レコード)とは、複数の医療機関・施設で記録された個人の健康・医療・介護に関する総合的な情報を、個人レベルで管理する仕組み。現在導入に向け体制の整備が進められている。
  • PHRを導入すると、診療時に患者さんの総合的な健康データを確認できるというメリットがある。またデータの集積によって、将来の医療の発展に活用が期待される。
  • PHR導入の課題として、デジタル機器を利用する患者さんと利用しない患者さんの医療格差が生じる可能性や、システム標準化の難しさなどが指摘されている。

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1.PHR(パーソナル・ヘルス・レコード)とは

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PHR(パーソナル・ヘルス・レコード)は、「Personal Health Record」の頭文字を取った略語で、「個人の健康・医療・介護に関する情報」を意味します。具体的には、異なる医療機関や施設などで記録された個人の健康・医療・介護に関する総合的な情報を、個人レベルで管理する仕組みのことです。

1-1.PHRが求められる背景

現在の日本において、個人の健康や医療に関する情報は、個々に保管する手帳や医療機関が管理するカルテなど、複数の媒体に記録されています。例えば、出産の際には「母子健康手帳」に、在学時は「学校健康診断の結果」、就労中は「定期健康診断の結果」など、それぞれ個別の情報が記録されています。また、体調に応じて「疾病管理手帳」や「お薬手帳」などを利用して各自の健康管理を行っており、さらに、高齢者では「介護予防手帳」「かかりつけ連携手帳」などを活用することもあります。

このように、バラバラに記録された個人の健康に関わる情報を一元的にまとめ、生涯にわたって時系列的に自身が情報を管理・活用できるようになることを目的として検討されているのがPHRの導入です。情報を集約することで、個々の健康状態に適した優良なサービスが利用できる体制づくりを目指し、整備が進められています。

1-2.PHRの活用

実際の活用方法としては、これまで個々で管理していたデータを集約し、デジタルデータとしてスマートフォンのアプリなどに蓄積する仕組みが考えられています。その上で、自身の健康管理や疾病予防に役立てることが期待されます。

例えば、母子手帳アプリや体調管理アプリなどに健診結果などを記録し、オンライン上で医師からアドバイスを受けるといった仕組みです。個々がPHRデータを保有することで、緊急時に医療機関と共有したり、在宅医療時の情報提供ツールとして役立てたりすることが可能です。

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2.PHRとEMR、EHRとの違い

PHRを理解する上で、覚えておきたいのがEMR、EHRとの違いです。それぞれの違いや特徴を見てみましょう。

2-1.EMR(Electronic Medical Record)とは

EMRとは「電子カルテ」のことで、各医療機関内での運用を意図して設計されています。そのため、基本的には外部の医療機関、健診機関などとの情報連携は想定されていません。つまり、EMRは個人が管理・閲覧できるものではなく、医療従事者のみが扱うという点で、PHRと大きく異なります。

2-2.EHR(Electronic Health Record)とは

EHRは「電子健康記録」のことで、地域医療連携ネットワークで活用されることを意図して設計された、共有型の電子カルテネットワークのようなものです。医療・健康情報を一元化して共有するという点では、PHRと類似する仕組みですが、あくまで医療機関や医療ネットワークで活用されることが想定されているため、個人が管理できるものではないのが現状です。

先述したとおり、PHRは「個人の健康・医療・介護に関する情報」を意味します。各医療機関との連携により、個人レベルで情報を管理できるのが大きな特徴であり、さらに、蓄積された情報を、新たに利用する医療機関に共有するといった連携も想定されています。個人が利用できるかどうかという点で、EMR、HERとの違いがあります

3.PHR導入のメリット・デメリット

では、PHR導入により、どのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか。医療従事者側の立場で見てみましょう。

3-1.導入のメリット

PHR導入により、診療時に患者さんの総合的な医療・健康データが確認できるのは大きなメリットです。既往歴や薬歴、アレルギー情報、直近の健診結果などが把握できるため、緊急時の処置に役立ちます。また、転出入の際にも、これまでの診療情報を踏まえた診察・治療ができるでしょう。

疾病予防・介護予防という観点においても、メリットがあります。バイタルデータや健診・検診結果を統合し、それぞれ個人の健康状態に合わせた良質な健康増進プログラムや予防プログラムを提供することが可能です。さらに、蓄積されたデータが、臨床研究機関などで分析・活用され、今後の医療の発展に役立てられる点もメリットといえるでしょう。

3-2.導入のデメリット

一方で、基本的に個人の管理となるPHRは、情報の取り扱いにおいて不安な点があります。セキュリティー対策や個人情報保護の問題など、情報漏えいを防ぐ必要があるでしょう。また、導入には、医療機関内でのシステム整備を進めなければいけません。デジタルデータを活用・連携するには、EMR(電子カルテ)の導入が不可欠です。医療機関側の準備に加え、医師はそうしたシステムに慣れるなど、活用スキルを身に付ける必要があります。

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4.PHR導入の課題点

実際にPHR導入をするとなると、さまざまな課題が残っています。

4-1.医療格差が生まれやすい

1つ目の課題として考えられるのは、デジタル機器の利用を難しいと感じる人や世代への対応が必要になることです。スマートフォンなどの扱いが苦手な人にとって、情報の入力や管理は難しいものです。また、利用者がスマホを持っていない、PHRに入力していない場合には、そもそも活用できません。PHRが普及する過程において、PHRを持つ患者さんと、そうでない患者さんに医療格差が発生する可能性が考えられます。

4-2.フォーマットやシステムの標準化が難しい

近年普及しているEMR(電子カルテ)ですが、各医療機関によって重視される入力項目や情報の質に差があることが考えられます。また、全ての医療機関で、同じシステムを使うといった標準化も難しいでしょう。PHRによって情報を一元化させるには、基本となる情報のフォーマット化が必要ですが、そうした仕組みをつくるまでに大きなハードルがあります。

4-3.有事の際や緊急時に通信障害があると活用できない

PHRは救急時の医療情報入手先として大きなメリットがあります。しかし、スマートフォンのアプリなど、インターネットを通じた活用が前提になっているため、通信障害があると期待する情報が得られません。有事の際、通信が切断された状態が続けば、情報があっても活用できない事態に陥ります。

4-4.ITなどに関する専門家が必要

デメリットとしても挙げたように、PHRは非常にデリケートな情報であり、インターネットを介する情報のやりとりが前提になるため、個人情報保護やセキュリティーの確保が不可欠です。そうしたデジタルデータを扱うには、ITの専門知識が必要になる可能性があり、場合によっては、専門的な人材を確保する必要があります。

5.PHR導入に向けて、医師が準備しておくべきこと

最後に、将来的なPHR導入を見据えて、医師が準備しておくべきことについて考えてみましょう。

5-1.患者さんに応じて適切な情報を提供できるようにする

PHRの仕組みや活用法を理解するには、専門的な知識が必要です。そのため、医師が情報の必要性の有無や重要性が判断できないまま情報を提供すれば、誤解や混乱を招く可能性があると危惧されています。PHRの導入が進められる中で、患者さん個々に合わせて、どの情報が必要で、どのレベルの情報を渡すべきなのか、提供する情報の取捨選択を適切にできるように備えることが大切です。

5-2.患者さんに寄り添いながらPHRを利活用する姿勢を持つ

基本的に、PHRの利活用は、利用者一人ひとりに委ねられます。そのため、日常の中で上手に活用してもらうための情報提供や指導が必要になるでしょう。生活習慣の見直しなどを提案するとしても、本人のライフスタイルや考え方を把握した上で実施することが大切です。そのためPHRの利活用には、かかりつけ医が患者さんに寄り添うことが重要だと考えられています。

6.PHRを正しく理解して診療に生かせるように備えよう

PHRの導入により、予防医療から3次医療まで、さまざまな場面で情報を有効活用できることが期待されています。現時点では課題が残るものの、今後の医療現場のIT化推進により、近い将来、PHRへの対応が求められるかもしれません。PHR導入に備え、その目的や活用法などの理解を深めておきましょう。

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PROFILE

監修/小池 雅美(こいけ・まさみ)

医師。こいけ診療所院長。1994年、東海大学医学部卒業。日本医学放射線学会・放射線診断専門医・検診マンモグラフィ読影認定医・漢方専門医。放射線の読影を元にした望診術および漢方を中心に、栄養、食事の指導を重視した診療を行っている。女性特有の疾患や小児・児童に対する具体的な実践方法をアドバイスし、多くの医療関係者や患者さんから人気を集めている。

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