この科の医師は――高眼鏡率・手先器用・「私ってこんなにしわ多かった?」「同年代より少ないですよ」という患者とのやりとり⁉
イラスト:イケウチリリー
取材・文:マイナビRESIDENT編集部
このコーナーは元々、医学生と初期研修医に将来のことを考える材料にしてもらおうと、『マイナビRESIDENT』用に作りました。2018年に開始した新専門医制度で基本領域になった19診療科の専門医に、その科の魅力やイマイチなところ、どんな人が向いているのか、「あるある」、一日の仕事の流れ、典型的な医師像などを「ぶっちゃけ」で語ってもらった記事です。こういった他科の詳細な情報は、転科や診療領域の追加を考えている医師にとっても有益だと考え、『マイナビDOCTOR』にも掲載することにしました。
眼科は、専門医の片井麻貴(かたい・まき)さんに聞きました。
インタビューを受けていただいた医師
片井麻貴(かたい・まき)医師 = 1969年生まれ
- ■所属
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NTT東日本札幌病院(301床)眼科部長
- ■主な資格
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眼科専門医・指導医、難病指定医
- ■卒業大学
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札幌医科大学
* 医師の所属、主な資格は取材当時(2023年10~12月)
インタビュー内容
Q1.なぜ眼科を専門に選んだのですか?
眼マイクロサージャリー(手術用顕微鏡を使って視野を拡大しながら行う手術)をやりたいと思ったんです。座ってできるし、老眼になってもできるので、息長く執刀医としてやっていけるかなと考えました。となると、脳外科と整形外科も顕微鏡をのぞきながら神経をつなぐ手術があるので選択肢には上がりますよね。でも、脳外科は一晩またいだ手術もあるので体力的にちょっと自分には厳しいなと。整形外科は、学生時代に外傷の手術の助手に入った時に、患者の足を持ち上げるなどの基本的な力仕事すらうまくできなかったんです。基本ができないのに、マイクロサージャリーにたどり着くのは無理だと感じました。その点で、若いうちから執刀医として入れる眼科を見て、やっぱり眼科だなと思いましたね。
Q2.眼科の良いところを教えてください



診断から治療まで、全て眼科でできることです。あと、目しか診られない眼科医ですが、眼底検査は臓器の中で唯一、血管を直接診ることができる検査なんですよね。眼底を診るだけで、糖尿病や膠原病など全身疾患からの所見が明らかになり、目から全身の状態が分かるということもあるんですよ。
職場によって違うかもしれませんが、子育てを支援してくれるところが多いと思います。眼科医は半分近くが女性なので、代々、先輩医師たちがそういう環境を作ってくれています。昔は仕事を休めずお子さんと一緒に当直をしていたという話も聞きましたが、どんどん改善されていて、今は子育ての部分でもすごく配慮してもらえますよ。そうしてもらった分、後輩にも返していきたいという気持ちが芽生えるのではないかなと思います。
Q3.眼科のイマイチなところはありますか?



器具を使わないとちゃんとした診察ができないところです。パッとペンライトで診ても分かることはわずかですし、細隙灯(さいげきとう)顕微鏡を使わないと診察ができません。視力検査すら正確にできないので、往診をするにも限界があります。持って運べるようなものもあるのですが、精度的には物足りません。機器は電化製品なので年数がある程度たつと壊れてしまいますし、すごい勢いでスペックが上がるので、どんどん価格は高くなります。新たに良いもの揃えようとすると、かなり費用がかかります。
それと、大きな病院は別ですが、一般的な病院は眼科医が1人か2人なので、月曜から金曜までのスケジュールが外来でびっしりになってしまい、フリーの時間がなくなることです。そうなると、臨時の手術など、予定外のことを入れづらくなるんですよね。3人いれば、1週間のうち半日くらいはそれぞれ外来を担当せずに、学会発表の準備などもできるし、フリーな時間を作れると思うのですが。
Q4.専門医としての技術や知識を磨くためにやっていることはありますか?



新しい機器を使う前には、「豚眼(とんがん)」を使って手術のトレーニングをします。そのトレーニングをウェットラボと呼びます。医療機器メーカーなどの協力で、新しいデバイスを使った手術が練習できるんです。手術を始める前の若手医師なんかも、豚眼を使って練習します。
あとは圧倒的に、「勉強すること」が大事です。コロナ禍でオンライン参加できるものが多くなったので、学会や研究会に出て、知識をブラッシュアップしています。日々の診療はその場で患者の悩みを解決するのが一番ですが、それができない場合はその日のうちに色々調べて答えを出し、次の受診日にはフィードバックできるよう意識しています。
Q5.眼科は何年ぐらいで、自信を持って診療できるようになれますか?



専門医を取ったら一通りできるかなという感じなので、卒後7年目くらいでしょうか。症例の種類や数などが違うので研修を受ける施設によりますが、だいたいそのくらいで皆さん自信を持っているんじゃないかなあ。一番はじめに、眼科医としてできるようになったかなと感じるのは、白内障の手術を完遂できるようになった時だと思います。でも、私個人としてはそれだけじゃ全然だめだと感じました。白内障の手術は、新しい壁が見えるようになるスタートラインに過ぎないんですよね。
私のサブスペシャルティは緑内障です。研修で専門外来を回って、もっと勉強しなくてはいけない苦手な分野だと思ったので選びました。緑内障は治らない病気なので、同じ患者を長く診ることになります。私の勤務先が変わっても訪れてくれ、26年間くらい診ている患者さんから「先生、昔は若かったよねえ」とか言われます(笑)。おどおどしていた新人の頃から全部知られているんです。医師として育ててもらったなあという患者さんが、1人、2人ではなくて、結構います。
Q6.眼科に向いている人を教えてください



眼球を「うわ、目玉だ」と気持ち悪く思う人って当然いると思うんですよね。医学生や看護学生が、顕微鏡を使った手術の見学に来ることがあります。モニターに手術の様子を拡大した映像が映し出されるので、気分が悪くなって倒れる人もいるんです。そういう人は向いていないのかなと思います。逆にいうと、そうでなければ向いていると言っていいくらい、門戸は広いですよ。
病院勤務の一日の流れ


Q7.眼科は開業に向いていますか?



開業する眼科医で、成功しない人はまずいないと思います。診療点数つまり単価が高いんです。だから開業医は軌道に乗れば、機器を新しいモデルに買い替えていけるのでうらやましいですよ。総合病院は全診療科に優先順位をつけて、予算が割り当てられるので、全てが思うようにいくわけではありませんから。圧倒的に開業志向が高い科だと思いますが、開業したら診療は夜7時までとか遅くまでする日もありますし、クリニックは土曜も開けておいたほうがいいですよね。そうすると、家族との時間を優先することが難しい場合もあります。自分のことだけではなく、職員や経営のことも考えられないといけません。
Q8.もし眼科がなかったら、何科を選びますか?



頑張って体力をつけて、整形外科か脳外科ですかね。眼科と同じように、顕微鏡を使って手術ができるので、老眼になってきても関係ないんですよね。それがすごく良いんですよ。若い時はそのメリットをあまり想像できなかったんですけど、ある時から、「これが老眼かあ。確かにマイクロサージャリーなら長いこと一線でできるな」と実感しました。手術の時は、顕微鏡をはじめ、ほかの機器のフットスイッチもあるので、両手両足をフルに使って操作するんです。だから、たぶん認知症予防にもなるんだろうなあと勝手に思っています(笑)。
Q9.他科の医師から一目置かれるのは何科ですか?



診療科というよりは、個人が見られる時代ですよね。どの科にも素晴らしい医師はいます。あえていうなら、全身をしっかり管理できるという意味では麻酔科ですね。例えば飛行機内で「医療関係者の方はいらっしゃいますか」とアナウンスされて、一番自信を持って手を上げられるのは麻酔科医なんじゃないかと思うくらいです。知人の麻酔科医は街中でも急病の人がいるとちゃんと名乗り出て行きますもんね。さすがだなと思います。
あとは、病気だけではなく患者の背景全てを引っくるめて診ている医師は尊敬します。「本当はこの治療の効果が大きいのだけど、生活状況や家族背景を含めるとそこまで負担のかかる治療はしない方がいい」とか、そういうところまで考えて診療している医師は素晴らしいなと思います。
Q10.眼科の「あるある」を教えてください



家族や親せき、知り合いを絶対に一度は診察することになります。まずは親世代が老眼になり、今度は同級生が老眼になってきますね。また老眼の話題ですが(笑)。その時に真っ先に相談されるんです。白内障もそうです。小学生時代の恩師とか、知り合いがたまたま診察に来る場合もあって、お互いびっくりですよ。
白内障の手術が終わった患者に多いのですが、よく見えるようになったということで結構な確率で言われるのが、「私ってこんなにしわが多かったですか?」。必ず「同年代の方より全然少ないですよ」と答えるようにしています(笑)。「家の中が思っていたよりもほこりだらけだったので、よく掃除をするようになりました」とか聞くこともあります。
Q11.典型的な眼科医とはどんな人ですか?



男女共に眼鏡をかけている医師が多いかな。角膜の障害についてももちろん知識があるので、コンタクトよりも眼鏡にした方がいいタイプの目なのかどうか、自分ですぐに察することができるんですよね。ドライアイやアレルギー性結膜炎などで、コンタクトから眼鏡に変える人が多いです。
あと眼科医は聴診器を掛けていませんが、代わりに対光反応を見るためのペンライトが必須になるので、携帯している人が多いです。ほか、男性も女性も手先が器用な人は多いかもしれません。
医学生・初期研修医へのメッセージ
どの診療科を選んでも絶対に嫌なことやつらいことは少なからずあるので、それを乗り越えられるくらいに興味を持てる科を選ぶといいですよ。診療科や研修先の病院を楽かどうかというような基準で選ぶと、たいていはどこかでひずみが出てきてしまいます。得意かつ好きなことを選ぶのが一番だと思いますが、たとえ得意じゃなくても、つらいことがあったときに続けていきたいと思えるくらい好きな科を選べたらいいんじゃないかなと思います。
