この科の医師は――ちゃきちゃき系・瞬発力高め・優しさ濃いめ・やりがい大きめ⁉
イラスト:イケウチリリー
取材・文:マイナビRESIDENT編集部
このコーナーは元々、医学生と初期研修医に将来のことを考える材料にしてもらおうと、『マイナビRESIDENT』用に作りました。2018年に開始した新専門医制度で基本領域になった19診療科の専門医に、その科の魅力やイマイチなところ、どんな人が向いているのか、「あるある」、一日の仕事の流れ、典型的な医師像などを「ぶっちゃけ」で語ってもらった記事です。こういった他科の詳細な情報は、転科や診療領域の追加を考えている医師にとっても有益だと考え、『マイナビDOCTOR』にも掲載することにしました。
産婦人科は、専門医の稲葉可奈子(いなば・かなこ)さんに聞きました。
インタビューを受けていただいた医師
稲葉可奈子(いなば・かなこ)医師 = 年生まれ
- ■所属
- 関東中央病院(東京都、383床)産婦人科医長
- ■主な資格
- 産婦人科専門医
- ■卒業大学
- 京都大学
* 医師の所属、主な資格は取材当時(2023年10~12月)
インタビュー内容
- Q1.なぜ産婦人科を専門に選んだのですか?
- Q2.産婦人科の良いところを教えてください
- Q3.産婦人科のイマイチなところはありますか?
- Q4.専門医としての技術や知識を磨くためにやっていることはありますか?
- Q5.産婦人科は何年ぐらいで、自信を持って診療できるようになれますか?
- Q6.産婦人科に向いている人を教えてください
- 病院勤務の一日の流れ
- Q7.産婦人科は開業に向いていますか?
- Q8.もし産婦人科がなかったら、何科を選びますか?
- Q9.他科の医師から一目置かれるのは何科ですか?
- Q10.産婦人科の「あるある」を教えてください
- Q11.典型的な産婦人科医とはどんな人ですか?
- 医学生・初期研修医へのメッセージ
Q1.なぜ産婦人科を専門に選んだのですか?
一つの診療科としてスペクトラム(範囲)の広さが、産婦人科を選んだ理由です。産婦人科は、内科と外科の両方の側面があります。かつ、分娩という特有の分野もあり、診療科が包括するスペクトラムが広いんですよね。またサブスペシャルティは周産期、生殖医療、腫瘍、女性のヘルスケアと多様ですし、それを極める医師もいれば、一般外来で広く診ていく医師もいて、スタイルはさまざまです。一生のなりわいとなる診療科を選ぶに当たって、スペクトラムが広いというのは、モチベーションを保ち続けやすいのではないかなと、当時、学生なりに考えました。
Q2.産婦人科の良いところを教えてください
出産から思春期、そして、腫瘍の患者さんを看取る(みとる)ところまで――本当にゆりかごから墓場まで寄り添う診療科だと思います。あと、日本は女性の社会進出がいま一歩でジェンダーギャップがありますが、産婦人科医がそこに関わることで、ヘルスケアの観点から女性の社会での活躍やジェンダーギャップの解消に貢献できる部分があると思います。社会課題と密接に関連していて、その解決に取り組めることはやりがいの一つです。私が、ヒトパピロマーウイルス(HPV)についての情報を発信する「みんパピ!」という団体の代表を務めて、HPVワクチンの接種を呼び掛ける活動をしているのはその一環です。
ヘルスケアに関しての社会に対する発信を通じて、適切な医療を受ければ楽になるのに我慢している女性がたくさんいることが分かりました。それを解決する医療はすでに確立されていて、保険診療で大きな負担もなく誰もが受診できるにも関わらず、活用されていない状況です。それを解決したくて、病院で患者さんを待っているだけではなく、病院に来ていない人たちにもリーチしたいと思っています。
日々の診療だと例えば、重い生理の症状が20年以上続いているけれど仕方がないことだと我慢してきた患者さんが、治療によって症状がものすごく改善され、QOL(生活の質)が格段に上がり「本っ当に信じられない!」といった様子で喜ぶ姿を目の当たりにした時はとてもうれしいです。
Q3.産婦人科のイマイチなところはありますか?
産婦人科としてのイマイチなところはないです。産婦人科に進んでから今日まで、1秒たりとも後悔したことはなくて、本当に天職だと思いながら、産婦人科医をしています。
Q4.専門医としての技術や知識を磨くためにやっていることはありますか?
論文を読むとかの学術的なインプットは、世の中の医師が当たり前にやっていることではありますが、当然やっています。あと、オペの件数をちゃんと真面目にこなしたり、学会で発表したり、そんなところですかね。特別な何かではなく、一般的なことを地道に着実に、です。
Q5.産婦人科は何年ぐらいで、自信を持って診療できるようになれますか?
本人の努力だけでなく、勤務する病院や地域によって同じ期間で経験できる症例に差があるので、ケースバイケースで一概には言えないですね。私自身は、まだまだ若輩者だという謙虚さを忘れずに日々診療に当たっています。
Q6.産婦人科に向いている人を教えてください
どちらかというと、フットワークの軽い、機動性の高い人が向いているかなと思います。
病院勤務の一日の流れ

Q7.産婦人科は開業に向いていますか?
街の開業医さんと、手術を請け負う大きい病院との連携で成り立っているので、開業医の存在意義は大きい科だと思います。これは、どの診療科も同じかもしれませんが。
Q8.もし産婦人科がなかったら、何科を選びますか?
その質問には答えられないですね(笑)。私は産婦人科が大好きです。産婦人科がないということは、女性が一人もいなくて、子どもも生まれない世界なので、すでに滅亡しています。だから、産婦人科のない世界はありえないですね。学生の時には他の科にも興味を持っていましたが、医師になってから、他科へ転科したいと思ったことはないです。
Q9.他科の医師から一目置かれるのは何科ですか?
全ての診療科です。どの科もその分野についてはその科の医師が専門家なので、個人的にも全ての科をリスペクトしています。
Q10.産婦人科の「あるある」を教えてください
女性の産婦人科医は、妊娠中に自分でエコー検査をしがちです。あと、自分の子どもの夜中の授乳が全く苦痛じゃない……というのは私だけかもしれないです。4人の子を育てていますが、当直で夜中にお産があるという生活に慣れていたので、苦ではなかったんです。でも当直は毎日ではないですし、授乳や夜泣きは365日「連直」状態なので、もちろん大変ですが(笑)。それでも赤ちゃんは可愛いですから!
Q11.典型的な産婦人科医とはどんな人ですか?
女性は「ちゃきちゃき系」が多いですかね。外来の診察をしていても、お産があったら合間にパッとそっちに行くとか、とにかく素早いです。お産は何があるか分からないので、何かあったらすぐに動く、みたいな。瞬発力の高い人種ではあるかなと思います。
男性は、他科を含めた男性医師の中でも、特に優しい医師が多い気がします(もちろん女性医師も優しいです)。
医学生・初期研修医へのメッセージ
産婦人科はお産のイメージが強いと思いますが、病院で産婦人科医をするだけではなくて、さまざまな活躍の場があります。たとえば、医薬品医療機器総合機構(PMDA)で妊婦が使う薬の審査に関わるとか、厚生労働省で周産期関連の課題を行政の立場から改善することなどが挙げられます。それらの機関に、産婦人科のスキルと知識、臨床経験がある医師がいることはとても大事なので、それもキャリアの選択肢として知ってもらえるとうれしいです。
ポリクリでいろいろな科を回る時に各科の魅力を見て、自分に合った科を見つけてください。私は産婦人科が天職だと思って毎日診療に当たったり、産婦人科に関する社会課題を解決するために動いたりしています。仕事に対するモチベーションがあることはすごく幸せなことだと思うので、皆さんにも天職と思えるような診療科を見つけてほしいと思います。