世界の医療ニュースから、マイナビDOCTOR編集部が「ぜひ読んでほしい」と思った記事を紹介します。今回はMedical Xpressに掲載された「精度はほぼ100% アルツハイマー型認知症を予測するアルゴリズム」を取り上げます。
Medical Xpressによると…
アルツハイマー病を確実に早期発見できるようになるかもしれません。リトアニアの研究チームが、アルツハイマー病による軽度認知障害(MCI)をほぼ100%の精度で検出するAIの開発に成功したそうです。チームは数万枚の機能的磁気共鳴画像化装置(fMRI)の画像を使ってAIに学習させたといいます。その上で、138人の被験者のfMRI画像を使った試験を実施。その結果、99.5~99.9%の精度でアルツハイマー病によるMCIの特徴を識別したとのことです。
注目が集まる軽度認知障害「MCI」段階でのアルツハイマー病検出
WHO(世界保健機関)によると、世界には5500万人の認知症患者がおり、毎年約1000万人が新たに発症しているといいます。認知症患者の60~70%はアルツハイマー型認知症(アルツハイマー病)とみられるそうです。
アルツハイマー病の原因は明らかになっていません。根本的な治療法もありません。厚生労働省や国立精神・神経医療研究センターなどによると、タンパク質・アミロイドβが脳内に蓄積し、神経細胞が破壊されるという説が有力視されています。アミロイドβは発病の20年ほど前からたまり始めていると考えられており、症状が進んだ時には既に多くの神経細胞が破壊され、手遅れの段階だといいます。
そこで注目されているのが、軽度認知障害(MCI)と呼ばれるアルツハイマー病の手前の状態での患者検出です。この段階でアミロイドβを除去できたら、病気の進行を食い止められるのではないかとの期待があるわけです。今のところMCIの段階で発見されたとしても、根本的な治療法はありません。しかし、将来的に治療法が開発された時には、早期発見の方法も確立されていなくてはなりません。
Medical Xpressの記事には、リトアニアのカウナス工科大などの研究チームが、ほぼ100%の精度でアルツハイマー病によるMCIを検出する技術の開発に成功したことが紹介されています。
数万枚の画像を使ってAIが学習 診断の精度はほぼ100%
MCIは記憶力や判断力などの認知機能が低下した状態です。アルツハイマー病特有のものではないため、症状だけではアルツハイマー病の前段階かどうかは判断できません。
研究チームの研究者によると、これまでの研究成果から、機能的磁気共鳴画像化装置(fMRI)で撮影した画像を使えば、アルツハイマー病発症に関連する脳の変化を特定することができるといいます。しかしそれには、特殊な知識が必要で、かなり手間もかかるのだそうです。
そこでチームは、アルツハイマー病によるMCIを高精度に、かつ手間をかけずに検出する技術の開発に乗り出しました。まず、数万枚のfMRI画像を使ってAIに学習させたといいます。その上で、被験者138人のfMRI画像を使って試験をしたところ、99.5~99.9%の精度でアルツハイマー病によるMCIの特徴を識別したそうです。
同様の手法でアルツハイマー病の早期発見を目指す試みは、過去にも行われていたといいます。しかし、これほどまでに高い精度を達成したのは初めてとのことです。
2021年6月、アルツハイマー病の進行を抑える新薬「アデュカヌマブ」が、米食品医薬品局(FDA)に条件付きで承認されました。対象はMCIの人たちだといいます。この薬を巡っては、専門家の中でもさまざまな意見があるものの、アルツハイマー病治療の照準はMCIの段階に定められているようです。さらに治療薬の開発が進み、今回の早期発見技術と合わせて、アルツハイマー病が治る病気になる日が来るといいですね。
文/ジャーナリスト・村上和巳