世界の医療ニュースの中から、マイナビDOCTOR編集部が「ぜひ読んでほしい」と思った記事を紹介します。今回はScienceDailyに掲載された『経鼻投与型コロナワクチンの利点と課題』を取り上げます。
ScienceDailyによると…
鼻の中にスプレーするタイプの新型コロナワクチン(経鼻ワクチン)の開発が進んでいるそうです。米国の研究者によると、臨床試験が現在行われている経鼻ワクチンは7種類。ウイルスが侵入する呼吸器粘膜に免疫をつけることができるため、感染を防ぐ効果も高いといいます。筋肉注射ワクチンにより全身の免疫をつけた後、経鼻ワクチンを接種する「2段構え」が推奨されるとのこと。
開発中の経鼻ワクチン、その種類と課題は?
新型コロナの発症や重症化を防ぐワクチンが、痛みを伴わずに接種できたらいいですよね。世界では、鼻にスプレーするだけで免疫を付けることができる「経鼻ワクチン」の開発が進んでいるそうです。
世界保健機関(WHO)によると、2021年10月15日現在、臨床試験中の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチン候補は126件あります。この中の7件は経鼻ワクチンです。作用機序によって、ウイルスベクターワクチン、生ワクチン、組み換えタンパクワクチンの3種類に分類できるといいます。
ウイルスベクターワクチンは、病原体(新型コロナウイルス)の特定部分のタンパク質を作る遺伝子を、害(病原性)のない別のウイルスに組み込んで投与するワクチンです。投与したウイルスが細胞に感染し、体内で病原体のタンパク質が作られ、それに対する免疫反応が起こります。ただし、投与したウイルスに対する抗体が作られてしまい、十分な効果が得られない可能性があるそうです。
病原体を構成するタンパク質を人工的に作り、投与するのが組み換えタンパクワクチンです。投与されたタンパク質に対する抗体が作られます。このワクチンの課題は、ターゲットにしていた病原体のタンパク質に変異が起きた場合、ワクチンの効果がなくなってしまう可能性があることです。
生ワクチンは、弱毒化した病原体を投与するタイプです。軽度の感染が実際に起こるので、免疫記憶ができます。しかし、弱毒化した病原体が感染力を取り戻すリスクがあります。そのため記事では、新型コロナの経鼻型の生ワクチンも「乳幼児、49歳以上の人、免疫力の低い人は使用できない可能性が高い」と指摘しています。
経鼻ワクチンと筋肉注射ワクチンの「2段構え」が理想的
経鼻ワクチンは筋肉注射ワクチンと比較して、どのようなメリットがあるのでしょうか。
鼻や気道の呼吸器粘膜上に免疫ができるため、ウイルスが体内に侵入するのを防ぐことができるようになるそうです。経鼻ワクチンによって呼吸器粘膜上に、
- 抗体(免疫グロブリンA)
- 一度戦った相手を記憶し即座に抗体を作るメモリーB細胞
- 一度戦った相手を記憶して攻撃の指令を出すメモリーT細胞
が作られるといいます。
記事中で専門家は、経鼻ワクチンと筋肉注射ワクチンとの併用が「理想的なワクチン接種戦略」だとしています。初めに筋肉注射ワクチンで全身の免疫機能を高め、次に経鼻ワクチンによってウイルスの侵入を防ぐ免疫を付けるという2段構えだそうです。
経鼻ワクチンが実用化されても、結局1回は痛みに耐えなくてはいけないようです。でも、新型コロナワクチンを今後も接種し続ける必要があるのならば、筋肉注射の回数が減り、より効果的な免疫が獲得できるのは、うれしいことです。
文/ジャーナリスト・村上和巳