マイナビDOCTOR 編集部からのコメント
臨床薬理学を牽引するキーパーソンの1人である渡邉裕司氏(浜松医科大臨床薬理学講座教授、国立国際医療研究センター臨床研究センター長)が編集した『なぜ効く?どう違う?を理解し処方するための 治療薬の臨床薬理データブック』(日本医事新報社)が12月に刊行されました。いまなぜ臨床薬理学の知見が医療現場に必要なのでしょうか? Web医事新報にて紹介されたインタビューをお届けします。

タイトル:『なぜ効く?どう違う?を理解し処方するための
治療薬の臨床薬理データブック
出版社:日本医事新報社
編者:渡邉 裕司(浜松医科大学 臨床薬理学講座教授/国立国際医療研究センター 臨床研究センター長)
発売日:2018年12月25日
定価:本体4500円(税別)
ISBN:978-4784948055
判型:B6判
内科医は、外科医がメスを使うのと同じくらい慎重に薬剤を選択すべき
臨床薬理学は主に何を目的とした学問と考えればいいでしょうか。
渡邉 臨床薬理学は2つの大きなミッションを持っています。
1つは、吸収・分布・代謝・排泄の過程での薬物血中濃度の変化といった薬物動態学的な情報、あるいは、薬力学、薬理遺伝学的な情報に基づいて個別化薬物治療を推進すること。
もう1つは、新しい医薬品や医療技術を開発するための臨床試験をサポートすることです。
『治療薬の臨床薬理データブック』の序文でも、「必要とする人に、必要な薬を、必要なだけ」という薬物治療を実現することが臨床薬理学の目的であり、本書を刊行した意図もそこにあると書かれています。臨床薬理学の目指すところは、日常診療で薬を使う臨床医にとってのゴールでもありますね
渡邉 その通りです。
外科の先生はおそらく、自分の技術が患者の術後の状態に強く影響するからこそ、技術の修得に熱心なのだと思いますが、私も含めて内科医は、外科医がメスを使うのと同じくらい薬剤選択を慎重にすべきです。なぜこの薬を選択したのか、なぜこの薬用量を選択したのかというところをもっと丁寧に、もっと慎重になすべきだと思うのですが、そういった教育が十分になされていないのが日本の現状です。
臨床薬理学の講座のある大学は日本にはどれくらいあるのですか。

渡邉 まだそんなに多くないです。浜松医大では臨床薬理学講座が臨床系講座として成立しており、診療科もありますし外来も開いていますが、日本では臨床薬理学という講座はどこの大学にでもある講座ではありません。しかし、海外ではかなり一般的な講座として定着していて、薬物治療のレベルをさらに高めていきたいという思いを持つ人、臨床試験で新しいエビデンスをつくっていきたいという希望を持つ人がたくさん集まっています。
今年7月に京都で開催した国際薬理学・臨床薬理学会議で、米国のヴァンダービルト大臨床薬理学講座のナンシー・ブラウン主任教授に「ファカルティメンバーは何人ですか」と聞いたところ、「250人です」とおっしゃっていた。そのくらいの規模が一般的で、だからこそ米国では新薬開発も医師のミッションという精神が刻み込まれているのかもしれません。
臨床薬理学会として看過できなかったドラマ「ブラックペアン」の描写
先生は今年11月まで日本臨床薬理学会理事長を2期4年務められましたが、その中で特に力を入れたことは何ですか。
渡邉 臨床薬理学は非常に横断的な学問領域です。私自身は循環器内科というバックグラウンドを持っていますが、臨床薬理学会にはいろいろなバックグラウンドを持った方が参加しています。臨床薬理学のミッションに興味を持つ方であれば、どんな専門性を持つ人でも幅広く参加していただきたいということで、6つの地方会を整備するなど、臨床薬理の魅力を多くの人に知ってもらうための活動に取り組んできました。
臨床薬理学のプレゼンスを上げるための取り組みにも力を入れ、2018年4月1日に施行された臨床研究法では、臨床試験を進める上で欠かせない人材ということで「臨床薬理学の専門家」が技術専門員の基準に明記されました。