医師は高収入の仕事といわれますが、実際に生涯年収で見ると、他職種よりも高いのでしょうか?また、勤務医と開業医によって差があるのかなど、気になる人も多いかもしれません。今回は、医師の生涯年収について、労働者全体との比較や、勤務医と開業医の違いについて解説するとともに、年収アップ方法も紹介します。
- 医師の生涯年収や働き方について興味がある方。
- 開業医と勤務医の違いや収入の仕組みを知りたい方。
- 年収アップの方法を考えたい医師の方。
目次
医師の生涯年収は他の職種と比べて高い?

厚生労働省の「令和4年賃金構造基本統計調査」で発表されている年齢別の収入より、「20歳~70歳以上」(医師も含む)の年収をもとに、生涯年収をおおよそで算出しました。同様に、医師の「20歳~70歳以上」より生涯年収の平均を算出したところ、以下のような結果となりました。
■労働者全体の生涯年収と医師の生涯年収
労働者全体の平均生涯年収 | 医師の平均生涯年収 | |
男女計 | 2億5,529万6,500円 (※1) |
7億8,643万2,000円 (※2) |
参照:厚生労働省 年齢階級別きまって支給する現金給与額、所定内給与額及び年間賞与その他特別給与額(産業別-第1表)|令和4年賃金構造基本統計調査
※2 年代別(5年区切り)に平均年収(「きまって支給する現金給与額」×12カ月+「年間賞与その他特別給与額」)を算出し、全ての年代別に5年分として乗算(20~24歳は、医師のキャリア開始の年齢を考慮して2年間の収入として計算)した金額を全て合算
参照:職種(小分類)、年齢階級別きまって支給する現金給与額、所定内給与額及び年間賞与その他特別給与額(産業計)(職種別-第5表)|令和4年賃金構造基本統計調査
労働者全体の平均生涯年収(医師を含む)と比較すると、医師の生涯年収は約3倍に相当することが分かりました。ただし、この結果はあくまで概算ですので、実際は勤務形態や勤務先によって大きく異なります。
勤務医と開業医の生涯年収を比較

上述した医師の生涯年収の平均は、基本的に勤務医を対象としています。続いて、開業医の年収について、2021年に調査が行われた第23回医療経済実態調査(医療機関等調査)を参考に算出しました。
結果、一般診療所(個人)全体の2020年度の平均収益は、2,527万9,000円でした。仮に、この年間収益で安定して収入を得たと想定し、経営を20年・30年継続した場合の収益金額をそれぞれ算出しました。
■一般診療所が20年・30年経営を継続した場合の想定収益
想定収益 | |
開業後の経営年数が20年 | 5億558万円 |
開業後の経営年数が30年 | 7億5837万円 |
参考:医療経済実態調査(医療機関等調査) / 第23回医療経済実態調査(医療機関等調査)
上記の金額は、一般診療所(個人経営)の年間平均収益に経営年数を単純に掛け合わせたものであり、あくまで参考値です。一般診療所の収益の全てが医師個人の収入になるわけではなく、また景気動向などの外部要因によって収益は上下する可能性があります。
加えて、開業をする前に勤務医として働いていた経験がある医師は、勤務医として得ていた収入やアルバイトなどで得た収入もあるはずです。
医師免許を20代半ば~後半に取得してから60~70歳頃まで勤務し続けたと仮定すると、医師としてのキャリアは40年前後となることが想定されます。上記の金額はあくまで目安であるものの、一般的に開業医は勤務医と比較して年収が高い傾向にあることから、生涯年収においても勤務医よりも開業医の方が生涯年収は高くなる傾向にあると考えられます。
診療科や経営形態、地域によって異なる医師の年収

参考値とはいえ、医師の生涯年収は、労働者全体(医師を含む)の平均よりも高い結果となっています。ここからは、診療科や経営形態、地域による年収の違いを見てみましょう。
3-1.診療科ごとの違い
「勤務医の就労実態と意識に関する調査」(2012年、独立行政法人労働政策研究・研修機構)をもとに算出した診療科別の平均年収は以下になります。
■診療科目別・勤務医の平均年収
診療科 | 平均年収 | 30年勤務した場合の生涯年収の目安※ |
内科 | 1,247.4万円 | 3億7,422円 |
外科 | 1,374.2万円 | 4億1,226万円 |
整形外科 | 1,289.9万円 | 3億8,697万円 |
脳神経外科 | 1,480.3万円 | 4億4,409万円 |
小児科 | 1,220.5万円 | 3億6,615万円 |
産科・婦人科 | 1,466.3万円 | 4億3,989万円 |
呼吸器科・消化器科・循環器科 | 1,267.2万円 | 3億8,016万円 |
精神科 | 1,230.2万円 | 3億6,906万円 |
眼科・耳鼻咽喉科・泌尿器科・皮膚科 | 1,078.7万円 | 3億2,361万円 |
救急科 | 1,215.3万円 | 3億6,459万円 |
麻酔科 | 1,335.2万円 | 4億0,056万円 |
放射線科 | 1,103.3万円 | 3億3,099万円 |
その他 | 1,171.5万円 | 3億5,145万円 |
参照:勤務医の就労実態と意識に関する調査|独立行政法人労働政策研究・研修機構
30年間、継続勤務した場合に生涯年収が最も高かったのは、脳神経外科でした。次いで、産科・婦人科となっています。
同資料における年次有給休暇取得日数に関する調査にて、脳神経外科は「有給休暇取得3日以下」と回答する割合が最も多く、他の診療科と比べて、労働時間が長い傾向にあることが分かっています。また、高度な手術に対応することも多いため、専門スキルを評価されて高収入となっている可能性が高いでしょう。産科・婦人科は、ハードな勤務環境となる傾向があり、オンコールや当直回数の多さが影響して給与が高くなっている背景が考えられます。
診療科別の年収の傾向について見てきましたが、実際は勤務地や勤務先の施設、勤務形態など、個別の事情や環境によって医師の収入は異なります。さらに、2012年度の調査資料にもとづいているため、現在は状況が変化している可能性があります。あくまで参考値としてお考えください。
3-2.経営形態による違い
一般的に公立や国立病院よりも、民間の医療法人を経営母体とする施設で働く医師の方が給与は高い傾向にあり、生涯年収も高くなる可能性が考えられます。
先にも紹介した「勤務医の就労実態と意識に関する調査」(独立行政法人労働政策研究・研修機構)によると、経営形態別では、国立、公立、公的、社会保険関係団体、学校法人、個人などに比べて、民間の医療法人で働く医師の平均年収が最も高く、1,443.8万円という結果でした。また、年収2,000万円以上となる医師の割合も、国立の勤務医は全体の1.5%であるのに対し、医療法人は全体の16.6%という結果となっています。
ただし、こちらもあくまで目安であり、勤務形態や地域によって異なります。
3-3.地域による違い
全国的に医師不足が続く中、特に深刻なのが都市部から離れた地方の状況です。医師不足が深刻な地域の医療施設において、高水準の年収や手厚い手当支給など優良な処遇を設定する施設も少なくありません。
例えば、独立行政法人国立病院機構のホームページによると、「医師確保が困難な機構内の病院の診療援助に従事した場合に、1日につき 20,000 円を支給」、「機構内の病院の診療機能確保等のための診療援助に従事した場合に、1日につき 10,000 円を支給」するといった派遣手当制度があります。
地域によっては、都市部での勤務に比べて、生涯年収が高くなる可能性があるでしょう。
医師が生涯年収を上げる方法

平均生涯年収を参考として考えると、現時点で自身の年収は低い傾向にあると感じる人もいるかもしれません。また、今後のライフイベントを考慮して今以上に年収を上げたい人もいるでしょう。
実際のところ、勤務地や診療科、経営母体など、収入に差が出る要因はさまざまです。また、勤務医か、開業医かによっても収入を増やす方法が異なります。医師として生涯年収を増やす方法について見てみましょう。
4-1.勤務医の場合
勤務医が生涯年収を上げる方法としては、「勤務時間を増やす」「役職に就く」「資格や技術を修得する」「スポット(単発)アルバイトや定期非常勤で働く」「臨床現場以外で収入を増やす」などが挙げられます。勤務時間を増やしたり、手当を想定したりすることで、収入アップを目指す方法です。
勤務医が年収を上げる方法について詳しく知りたい方は、こちらの記事もご参照ください。
4-2.開業医の場合
開業医で生涯年収を上げる方法としては、まず、医療保険制度の適用のない「自由診療に取り組む」ことが挙げられます。しかし、この場合は個人診療所では所得にかかる税金の割合も大きくなるため、自由診療に取り組む際は節税対策も検討する必要があります。
また、開業医は、経営者としてのスキルを高めることで、年収アップが期待できるでしょう。例えば、分院をつくったり、医療法人として高齢者施設やリハビリ専門院、障害者福祉施設などを併設したりすることで、利益率を高め、自身の収入アップを目指す方法です。
その他、自身のスキルアップだけでなく、スタッフによる収益アップも考える必要があります。専門スキルを持つスタッフを採用する、人材教育に努めるなどの取り組みも検討してみましょう。同時に、スタッフの定着率向上に取り組むことも大切です。優秀なスタッフが安定的に勤務できる環境をととのえ、質の良い医療を提供すれば、集客力を高められる他、地域医療への貢献にもつながります。
医業の成果とは異なる角度で収入を増やす方法を考えると、医業と並行して資産運用に取り組むことも一案として挙げられます。ただし、資産運用は必ず増益する保証はなく、損出を伴うリスクがあることを理解した上で取り組む必要があります。
生涯年収アップを目指した働き方を考えてみよう
医師が生涯年収を上げる方法は、勤務医か開業医か、専門とする診療科、臨床経験、勤務形態、勤務地域などさまざま要素に左右されます。現状のライフスタイルを維持しながら年収を上げたいなら、給与水準の高い勤務先へ転職をするのもひとつの方法です。医師専門の転職エージェントでは、転職した場合の年収水準や希望に合った転職先、経験・スキルを生かして年収を上げる方法について相談をすることができます。まずは医師専門のエージェントに相談してみてはいかがでしょうか。
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