この科の医師は――まじめ・あふれる愛・エビちゃんで、あえて眼鏡、ザ・優しさ、ガンジー?、エビオ⁉
イラスト:イケウチリリー
取材・文:マイナビRESIDENT編集部
このコーナーは元々、医学生と初期研修医に将来のことを考える材料にしてもらおうと、『マイナビRESIDENT』用に作りました。2018年に開始した新専門医制度で基本領域になった19診療科の専門医に、その科の魅力やイマイチなところ、どんな人が向いているのか、「あるある」、一日の仕事の流れ、典型的な医師像などを「ぶっちゃけ」で語ってもらった記事です。こういった他科の詳細な情報は、転科や診療領域の追加を考えている医師にとっても有益だと考え、『マイナビDOCTOR』にも掲載することにしました。
内科は、専門医の筒泉貴彦(つつみ・たかひこ)さんに聞きました。
インタビューを受けていただいた医師
筒泉貴彦(つつみ・たかひこ)医師 = 1978年生まれ
- ■所属
- 高槻病院(大阪府、477床)総合内科部長
- ■主な資格
- 総合内科専門医、米国内科専門医
- ■卒業大学
- 神戸大学
* 医師の所属、主な資格は取材当時(2023年10~12月)
インタビュー内容
Q1.なぜ内科を専門に選んだのですか?
いろいろなものを幅広く診られるというのが自分の性に合っていたんです。外科は技術的なものに苦手意識がありましたし、体力的な面から、年を取った時に続けている姿がイメージできませんでした。一方で内科は、勉強を続けて経験を積んでいけば成長し続けられるし、自分の人生を通じてその科に所属していられるんです。それは、すごい喜びだと思いました。父が糖尿病内科医だったのでその影響もあって、医師を志した時点で内科医になろうと思っていたというのもあります。それが揺らぐことはありませんでしたね。
それから、大学6年生の時に、米ハワイ大学の内科の実習に参加したことも大きいです。専門が細分化されている日本と違って、アメリカではまず「内科(日本でいう一般内科)」を3年間しっかりトレーニングし、その後に循環器内科とか消化器内科とかの専門分野に移っていきます。ですから米国の内科医は、どんな患者に対しても「専門外です」と言うようなことはないんです。そのスタイルにとても共感しました。また、卒前卒後教育がすごくしっかりしていて、医学生でも上級医の監視下で診療に参加するんです。カルテの記載やプレゼンテーション、治療プランの立て方まで、医師レベルでこなしていました。研修医になると、もっと優秀なんです。僕はそれまで、勉強もそれほど真剣にやっていませんでした。でも、そこで目が覚めて、この人たちに負けない内科医になろうと一生懸命勉強するようになりました。
Q2.内科の良いところを教えてください
全身の状態の把握について、すごく強いところです。各臓器だけではなくて、各臓器をまたいで起こる病気や病態が分かります。また、病気だけではなくて、高齢化や貧困などの社会問題も含めて包括的にマネジメントできるのも良いところですね。カナダ出身の著名な医師・医学研究者・医学教育者であるウィリアム・オスラー(1849~1919)が「良き医師は病気を治療し、最良の医師は病気を持つ患者を治療する」と言っています。それが体現できているのは内科医だと思います。
診療の幅が広いのも魅力です。治療効果がはっきり出る感染症などの病態には効果的な薬剤の投薬を行い、慢性疾患に対しては長期的な対応が必要となります。また、治らない病気も残念ながらあります。そういった患者に、症状緩和も含めた対応を行うのも醍醐味(だいごみ)です。
かかりつけ医の制約が日本ではさほど厳しくないため、多くの医師が1人の患者に関与していることがあり、そのため診療が複雑化することがあります。その中で、医療の適正化を進めることができるのも内科だと考えています。内科は、患者が抱えるさまざまな問題に最初に対応する窓口になれると考えます。そして、自身で対応できるものは包括的に行い、各診療科の専門家が必要な時は協力をお願いするという流れを作ることが、今後の日本において必要だと考えます。つまり、各科の医師が適材適所で患者の診療にあたることができるようにするコンダクターのような業務もまた、内科の務めなのです。
Q3.内科のイマイチなところはありますか?
いろいろな問題に対応しなくてはならないので、慣れないうちはしんどいと思います。患者一人一人がたくさんの問題点を持っていて、それら全部を連結して捉えられるようになるまでは大変かもしれませんね。そのためにカルテが長くなることがありますし、最初はそれがしんどいかもしれません。でも内科は一般的に、入院患者については各問題点一つ一つにアセスメント(影響評価)を書くんです。1人の患者に割く時間も、カルテもかなりのボリュームになります。それは良いところでもありますが、大変なところでもあります。
Q4.専門医としての技術や知識を磨くためにやっていることはありますか?
勉強をすることです。有名医学雑誌に発表される論文や新しいガイドラインなどを日々ちゃんとチェックして、最新の医療を提供できるように努力しています。意識の高い内科医は、よく勉強しますよ。英文のものを読み込んで世界の最新情報を収集している人もいます。これまで学んできたことや、やってきたことだけをベースにして、情報をアップデートせずに何年も診療を続けていくのは当然良くないですからね。
Q5.内科は何年ぐらいで、自信を持って診療できるようになれますか?
内科医として診療を始めて5年目(卒後7年目)ぐらいになれば、一般的な診療ですごく困ることはだいぶ減るのではないでしょうか。ただ、それでも、難しい症例や希少な症例に遭遇することはあって、そういう時は上級医との違いが出ます。
内科全体をカバーするためには、日々研さんを積まないといけません。何年たっても自信満々になったらダメです。常に謙虚さを忘れてはいけません。専門科に進んで1年経験して2年目になったぐらいで、多くの人が1回自信が付いた気になるんですよ。「もう、できるんちゃうん」て。でも、これは完全に「まやかしの自信」なんです。そこで、ちょっと痛い目にあって、謙虚になれる人は成長し続けるし、そうでない人は失敗し続けます。
Q6.内科に向いている人を教えてください
なんかクサくなっちゃうんですけど、患者のことをちゃんと思える人です。患者のことを自分のことのように、自分の家族のことのように、患者のことを何とかしてあげたいという気持ちを持てる人。内科の疾患の多くはそのまま内科医が見続けることも多く、その後のことも全部引き受けなくてはならないんです。ですから、患者に対するコミットメントを持てる人は向いていると思います。
また、幅広い領域について、常に新しい情報を取り入れていかなければなりませんから、勉強が嫌いな人は向いていないですね。
病院勤務の一日の流れ

Q7.内科は開業に向いていますか?
めちゃくちゃ向いていると思います。開業医にかかる患者の数は、内科と小児科が圧倒的に多いです。なので、質の高い医療を提供できる内科と小児科は有利です。これまでは盲目的に医師は信頼されていましたが最近はしっかりと評価される時代です。本当に質が問われるようになっています。患者が抱えるさまざまな問題に対して、ちゃんとしたアセスメント(影響評価)及びマネジメントができる内科医が生き残る時代になっているのだと思います。
Q8.もし内科がなかったら、何科を選びますか?
小児科でしょうか。小さい頃から僕の中では、困った時に相談したら決して「専門外です」と言わずに、何でも答えてくれるのが格好良い医師の姿なんですよ。もちろん何もかも診られるわけではないのだけど、大人であれ子どもであれ、病気に対する最初の対応ができるところに、医師としての面白味があると思っています。だから、大人の全体を診る内科がなければ、子どもの全体を診ることができる小児科がいいですね。
Q9.他科の医師から一目置かれるのは何科ですか?
各科に優劣がつけられないのは前提ですが、強いてあげるなら個人的には循環器内科と消化器内科でしょうか。両方とも早期の対応を要する患者が多いんです。24時間体制で何かあったときにすぐ駆けつけてくれ、カテーテルや内視鏡ですぐに対応してくれる。格好良いと思っています。
Q10.内科の「あるある」を教えてください
常に論理的なので、それが時としてウザがられる(笑)。日常生活においても科学的根拠(エビデンス)を求めちゃって、ちょっと「ややこしい人」に思われているんじゃないですかね。後輩の医師同士がプライベートな話をしていて、子どもにあせもができたときにワセリンを塗るかどうかで言い合いになって、「それ、エビデンスあるのか」と言って論文を検索し始めたこともありました。いつも「エビデンスあるのか」って言っているので、陰で「エビオ」とか「エビちゃん」とか呼ばれることがあります。
Q11.典型的な内科とはどんな人ですか?
優しい人が多いです。「オレが!オレが!」という人はあまりいません。内科の患者は、複数の問題を抱えていることが多いんです。それに全部対応しなくてはならないので、愛がないとできないんですよ。これは完全に私の偏見かもしれませんが、みんな(インド独立の父)マハトマ・ガンジーみたいな印象ですよ。
男性は眼鏡率が高いと思います。基本的に医師の多くは視力が悪いのですが、内科医は自然体で、コンタクトレンズを着けずに眼鏡をかけている人が多いです。女性は、性格がきつい人は少ないですね。真面目で優しい人が多い印象です。
医学生・初期研修医へのメッセージ
自分と社会と家族が求める診療科に進むと良いと思います。最初のうちは、「お金が欲しい」とか「楽な仕事がしたい」と考えることがあるかもしれません。でも、だんだん年を取ってくると、「何のために医者をやっているんだろう?」と考えるようになります。その時に、仕事にやりがいがあって、人(社会)に必要とされていれば、納得がいくじゃないですか。そして、家族を幸せにできない人は他人を幸せにはできないので、自分のやっていることで家族をちゃんと幸せにできていなければなりません。それに当てはまる診療科が、自分が選ぶべき診療科だと思います。