医療現場のICTとは?必要とされる理由や活用の具体例を解説|医師の現場と働き方

医療現場のICTとは?必要とされる理由や活用の具体例を解説

近年、ICT(情報通信技術)の活用が進み、医療現場でも導入が進められています。我が国は、かつて経験したことのない超高齢化社会を迎え、今後も医療従事者の不足が大きな課題となっています。医療に関わる人的資源が限られているなかで、医療の質向上と業務効率化に貢献するICTの導入は、課題解決に向けた重要な手段の1つです。一方で、医療スタッフのITリテラシー不足やセキュリティの問題などから、その導入は医療施設によって差があります。本記事では、医療現場におけるICTについて、具体的な活用方法も含めて解説します。

<この記事のまとめ>

  • ICTは、Information and Communication Technologyの頭文字をとった略称で、日本語では「情報通信技術」と訳される。
  • 業務効率化、医療の質の向上、医療技術の発展、ニーズに応じたケアなどができることから、ICT化が必要とされる。
  • ただし、普及率の低さ、セキュリティ対策が必須な点が課題とされている。

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1. 医療におけるICTとは

ICTは、Information and Communication Technologyの頭文字をとった略称で、日本語では「情報通信技術」と訳されます。
医療におけるICTとは、医療従事者と患者さん、医療機関同士のコミュニケーションを円滑化するために技術を活用することを指し、具体的には、電子カルテの共有やオンライン診療・遠隔医療、エラー防止のためのシステムなどの活用が挙げられます。
なお、同じ頭文字で略される「Infection Control Team (インフェクションコントロールチーム/感染対策チーム)」と混同しないように注意しましょう。

1-1. 医療ICTと医療DXとの違い

DXは、デジタルトランスフォーメーション(Digital Transformation)の略称です。経済産業省によると、DXとはデジタル技術やツールを導入すること自体を指すのではなく、データやデジタル技術を使って、新たな価値を創出することと示されています。
つまり、デジタル技術を活用してビジネスや社会、ライフスタイルに変革(Transform)を起こすことを意味します。

医療におけるDXとは、医療現場でデジタル技術を活用し、より質の高い医療を提供することです。2024年の診療報酬改定でも、デジタル活用に関する項目が新設されるなど、政府や厚生労働省が中心となってICTを活用した医療DXが推進されています。
ICTの導入は、あくまで医療DX化の一環であり、それだけで「医療DXを推進した」とは言えません。ICTは「手段」、それらを使って医療DXという「目標」を達成する、と考えましょう。

1-2.ICTと混同しがちな用語(IT、IoTとの違い)

ICTと混同しがちな用語として、IT(Information Technology)や、IoT(Internet of Things)があります。

ITとは情報技術そのものを指し、パソコンやスマートフォン、アプリケーションなどの情報機器に関連する設備の総称です。一方、ICTはIT技術を生かした情報端末などを活用しながら、コミュニケーションの円滑化を進めるための技術という違いがあります。

また、IoTはモノとインターネットを接続する仕組みです。ICTが情報共有ツールなどによって人と人のコミュニケーションを支援するのに対して、IoT はスマートフォンのアプリを通じて外出先から家電の操作を行うといった、人とモノをつなげる仕組みである点に違いがあります。

2.医療現場にICT化が必要とされる理由

少子高齢化に伴う医療の需給バランスやニーズの変化により、業務の改善や効率化が求められるようになっています。また、インターネットの普及は急速かつ広範囲に進み、今や私たちの生活において欠かせないものとなりました。そうした背景のなかで、ICTの活用が推進され、多方面で必要性が高まっています。ここからは、医療現場におけるICTが必要な理由について考えてみましょう。

2-1.業務効率化

ICTを活用することで、情報共有による施設間の連携が強化され、業務効率化につながります。ICTには医療機関同士で患者さんの既往歴や処方薬の確認がスムーズになるというメリットがあります。過去のデータ閲覧や情報収集にかかる時間の短縮が可能になり、医療スタッフの業務負担軽減につながることが期待されています。

2-2.医療の質の向上

ICTの導入が進めば、より高度で正確な診断や、適切な治療の支援が期待できます。たとえば、RRS (院内救急対応システム:Rapid Response System)の導入など、チーム連携や迅速な対応が求められる際に、ICT活用による情報共有が行われることで、質の高い医療の提供につながることでしょう。加えて、コンピューターシステムの導入により、手書きによる転記ミスや、重複したオーダーなどのヒューマンエラーの防止にもつながります。

2-3.医療技術の発展

近年の医療現場では、これまでの画一的な治療から、個別化医療へと移行する動きがあります。患者さん個々に適した治療を行うには、膨大なデータを管理し、分析する必要があります。ICTを活用することで、データを効率的に処理でき、病気の発見や治療法の開発促進につながると期待されています。

2-4.ニーズに応じたケア

ICTを活用することで地方の医療機関との連携が容易になり、移動が困難な患者さんにも遠隔地から支援できるようになります。また、ICTの1つである「オンライン診療システム」は、在宅患者さんだけでなく、仕事や家事、育児などで忙しい患者さんのニーズを満たすことにもつながる可能性があります。ICTの導入は、患者さんにとってもメリットが大きいものです。

3.医療現場におけるICT化の主な課題

医療ICTを推進するため、マイナンバーカードを用いたオンライン資格確認の導入が2023年4月1日から原則義務化されました。また、多くの施設において、電子カルテの標準化や電子処方せんの運用などが行われ、診療の効率化が進んでいます。しかし、ICTの導入に踏み切れない医療機関や、活用に課題を抱えている現状もあります。ここからは、医療現場におけるICT化の課題について解説します。

3-1.普及率が低い

ICTの導入が推進されていますが、その普及には大きな差があります。2023年12月時点における、「オンライン資格確認」と「電子処方せんの導入」の状況は以下のとおりです。

項目 運用開始施設の割合
オンライン資格確認 95.5%(約20.5万施設)
電子処方せんの導入 約5.18%(10,609施設)

※対象施設数……義務化対象208,273施設から算出(令和4年度末時点)

オンライン資格導入に関しては、順調に普及しているものの、電子処方せんについては、導入している施設数が圧倒的に少ない結果となっています。導入が伸び悩む背景には、周囲の医療機関や薬局が導入していない、電子署名対応に手間がかかる点などが挙げられます。また、ICTシステムを導入・運用するには、初期費用やランニングコストが発生するため、資金不足により導入を見送るケースもあります。加えて、多忙な医療スタッフは、ICTを効果的に活用するためのスキルを身につける時間もなく、操作を不安視されることも導入の障壁となるでしょう。

さらに、医療機関側だけでなく、患者さんの利用が見込めないという理由も考えられます。特に高齢の患者さんはオンライン診療などのICTツールの活用に苦手意識を持つケースも少なくありません。主な患者さんの傾向を踏まえて利用が難しいと判断する可能性も考えられます。

参照:データヘルス改革・医療DXの進捗状況について|厚生労働省

3-2.セキュリティ対策が必要

ICTを活用するには、サイバー攻撃への対策が必須です。医療機関を標的としたサイバー攻撃が多発化するなかで、安定した医療提供体制を維持するためのセキュリティ対策が求められています。ICT活用で抱える疑問を解決するために、技術提供者と協力しながら対策を行う必要があるでしょう。
なお、参考として厚生労働省が策定した「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン 第6.0版」を確認しておくことをおすすめします。また、日本医師会は「サイバーセキュリティ支援制度」を設け、ネット接続の不具合といった軽度の障害から、情報漏洩などの重大問題まで対応しています。今後のためにも、こうした制度があることを知っておくことも大切です。

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4.医療ICT化の活用事例

実際の医療現場では、現在どのようにICTが活用されているのでしょうか。具体的なシステムを挙げて、ICTの活用事例を紹介します。

4-1.電子カルテ

電子カルテとは、既存の紙カルテをデジタル化し、パソコンなどで管理できるようになるシステムです。導入により、患者さんの情報検索がスムーズになるだけでなく、テンプレートや補助機能を利用することで、紹介状作成等の時間短縮にもつながります。また、会計との連携による業務のスリム化や、他の医療・福祉機関(かかりつけ医から地域包括支援センター、後方支援病院など)との情報共有も容易になるなど、多くのメリットがあります。

電子カルテは大きく2種類に分けられ、以下のような特徴があります。

特徴 メリット デメリット
オンプレミス型
(ソフト型)
院内にサーバーを設置 データを院外へ出さないため、セキュリティ面でリスクが少ない 初期費用が高額で運用管理が必要
クラウド型 サーバーが不要 コスト・手間がかからない
アップデートにより最新機能が利用できる
情報漏洩のリスク
通信障害や停電時に利用不可となる

電子カルテの種類は多種多様で、病院の規模や予算によって選択されます。予約システムやウェブ問診システム、患部を撮影した画像を取り込むなど、他のデータと連携できるタイプもあります。また、レセコンと一体型のものや、導入済みのレセコンと連携できるものなど、さまざまです。求める機能を把握したうえで選ぶ必要があります。

4-2. オンライン診療

新型コロナ感染症の拡大を機に、オンライン診療が普及するようになりました。オンライン診療システムの活用例として、以下のようなケースがあります。

●定期薬の継続処方(高齢者の通院困難、働き世代で診察に行く時間がない、転勤や引っ越しをした場合など)
●専門医が少ない地域での、セカンドオピニオン外来
●小児喘息など長期管理が必要な場合の定期受診
●周産期のメンタルヘルスケア
●精神科や禁煙外来、二次健診など通院のハードルを下げるための活用
●CPAP(経鼻的持続陽圧呼吸療法)の定期受診
●へき地や遠隔地で医師不足が深刻な場所での医療サービスの提供

医師不在のへき地で看護師がいる場合に、情報通信機器を用いて診察を行う「D to P with N」の活用も推進されています。在宅での褥瘡管理や聴診、咽頭所見などデジタル機器を使用した診察を、看護師を介してオンラインで実施するものです。地域の医療格差の緩和につながる取り組みとして注目されています。

4-3. RFID(自動認識システム)

RFID(アールエフアイディ/ Radio Frequency Identification)は、専用のタグを利用して情報を読み取り、管理する自動認識システムのことです。バーコードのように直接読み取る形ではなく、通信範囲内にタグが存在すれば読み取りが可能で、種類によってはある程度の遮蔽物があっても読み取れる非接触型となっています。

医療現場では、医薬品やME機器(医用工学機器)などの物品管理や、検体ラベルにタグを使用して取り違いを防止するといった目的で利用されています。また、患者さんのリストバンドにRFIDタグを使用すると患者照合もスムーズです。従来のバーコードタイプでは読み取りに時間がかかったり、夜間の認証で患者さんへの負担になったりしていました。RFIDを使用して時間や手間の短縮ができれば、医療従事者のストレス軽減にもつながるでしょう。さまざまな場面で業務の効率化や、医療安全の向上にも貢献しているICTツールです。

4-4. ウェアラブルデバイス

ウェアラブルデバイスとは、身につけられる(Wearable)機器(Device)のことで、手首や腕、頭などに装着して、心拍・脈拍・睡眠時間などの記録を行います。患者さんが身につけることで、生体に必要なデータを取得できるため、医療従事者が測定する手間が省け、人手不足の解消につながります。
体に直接身につけることから、高精度のデータが迅速に得られるのが利点です。患者さんの状態をリアルタイムで把握し、ケアに生かすこともできます。また、大量のデータ獲得ができることから、分析により臨床試験に使用できるとして、今後の市場拡大が見込まれています。

5.医療現場でのICT導入による業務効率化を進めよう

ICTの導入は、超高齢化社会における医療従事者の不足や、地域格差などの課題解決につながります。その一方で、導入にはコストやセキュリティ対策などの課題もあり、医療従事者はデジタル関連の知見も深める必要があるでしょう。政府による推進活動も行われていますが、医療機関や技術提供者がそれぞれ連携して取り組む仕組みづくりも必要です。今後の最新情報もチェックしながら、ICTを効果的に活用できる知識も身につけておきましょう。

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PROFILE

監修/小池 雅美(こいけ・まさみ)

医師。こいけ診療所院長。1994年、東海大学医学部卒業。日本医学放射線学会・放射線診断専門医・検診マンモグラフィ読影認定医・漢方専門医。放射線の読影を元にした望診術および漢方を中心に、栄養、食事の指導を重視した診療を行っている。女性特有の疾患や小児・児童に対する具体的な実践方法をアドバイスし、多くの医療関係者や患者さんから人気を集めている。

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