電子カルテを導入するメリット・デメリットを分かりやすく解説!|医師の現場と働き方

電子カルテを導入するメリット・デメリットを分かりやすく解説!

電子カルテとは、これまで紙で扱われてきたカルテを電子データに変換して、容易に検索・管理・編集ができるシステムです。最近では普及率もアップしており、大規模病院のうち90%程度の施設で導入されています。病院やクリニックなどの医療機関で電子カルテの導入を検討しているものの、どのようなメリットやデメリットがあるのか分からず、迷っている方もいるでしょう。

そこで今回は、電子カルテの概要や種類、電子保存の三原則、導入のメリット・デメリットなどを解説します。これから電子カルテを導入しようとしている方は、参考にしてみてください。

〈本記事のまとめ〉

  • 電子カルテとは、紙のカルテを電子化して検索・管理・編集がしやすくなるシステム
  • 電子カルテにはクラウド型・オンプレミス型・ハイブリッド型の3種類がある
  • 電子カルテの導入には業務効率の向上、ミスを減らせるなどのメリットがある反面、費用や手間の面でデメリットが生まれる場合もある

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1.電子カルテとは?

電子カルテとは、今まで診療情報や看護情報を記入していた紙のカルテを電子データに変換し、電子化して一括管理・編集ができるシステムです。

かつては手書きのカルテが広く使用されていましたが、近年では電子カルテが普及しつつあり、厚生労働省が発表しているデータによれば、2020年における電子カルテシステムの普及率は一般病院で57.2%、一般診療所で49.9%に達しています。

また、400床以上の病院であれば、普及率は91.2%とかなり多くの病院で導入されていることが分かります。

ただし、全ての病院で電子カルテが使用されているのではなく、普及しつつあるというのが現状です。医療機関全体を見た場合は、普及率はまだまだ低いといえるでしょう。

参考:厚生労働省「医療分野の情報化の推進について」

2.電子カルテの種類

電子カルテには大きく以下の3種類があります。

•クラウド型
•オンプレミス型
•ハイブリッド型

クラウド型とは、インターネット上のサーバーにカルテデータを保存するタイプの電子カルテシステムです。

電子カルテの作成や編集、管理が必要な場合、インターネット上のサーバーに設置されたシステムにアクセスします。インターネット環境があれば、時間や場所を選ばずに業務を行えるのが特徴です。

ただし、自然災害やシステムトラブルなどが発生し、インターネットに接続できなくなれば、システムにもアクセスできなくなります。

オンプレミス型とは、病院内のサーバーに設置するタイプの電子カルテシステムです。病院内だけで完結するため速度が速く、自由度が高いのが特徴です。

一方、導入に時間やコストが掛かりやすいというデメリットがある他、高度なセキュリティ対策を講じる必要があります。

ハイブリッド型とは、インターネット上のサーバーと病院内のサーバーにデータを保存するタイプの電子カルテシステムです。状況に応じてサーバーを切り替えられるのが特徴で、クラウド型とサーバー型の両方のメリットを併せ持っています。

ただし、ハイブリッド型に対応した電子カルテは、それほど多くないのが実情です。

3.【知っておきたい】電子保存の三原則

紙のカルテから電子カルテへの変換が進んでいる一方で、電子カルテには電子保存の三原則が関連していることを知っているでしょうか。

電子カルテには保存の義務や保存期間が規定されている他、診療記録や処方箋、手術や助産の記録などは、訴訟に使用される可能性もあることから、文書の正確性の担保が重要になります。

そのため、厚生労働省では医療情報システムの安全管理に関するガイドラインを設け、その中で電子保存の三原則を定めています。

具体的な三原則の内容は以下の通りです。

•真正性の確保
•見解性の確保
•保存性の確保

真正性の確保とは、電子カルテの作成や編集に対する責任の所在を明確にすることや、虚偽入力・書き換えを防止することを指します。

また見解性の確保とは、必要に応じて肉眼でカルテを読めることを指し、保存性の確保は、5年の保存期間の間にカルテを復元できることを意味します。

これらの三原則を遵守できる電子カルテを選ぶことが重要です。

参考:厚生労働省「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン 第5版」

4.電子カルテを導入するメリット

電子カルテのメリットを見極めてから、導入を検討しようとしている医療機関関係者の方もいるでしょう。そこで、ここでは電子カルテを導入するメリットを紹介します。

具体的なメリットは以下の通りです。

•データの閲覧・検索・管理が素早くできる
•人為的なミスを防げる
•業務効率を向上させる
•資料の保管スペースを減らせる
•カルテの共有が容易になる

それぞれ詳しく解説します。

4-1.データの閲覧・検索・管理が素早くできる

電子カルテを使用すると、診療データの閲覧、検索、管理がスムーズに行えます。

電子カルテでは、患者さんの名前などから診療記録や看護記録を簡単に検索可能です。欲しいデータへのアクセスが容易になるため、大量にある紙のカルテを探す必要はありません。

また、必要なカルテを他の人が使用している場合でも、システムを通じてカルテの閲覧ができます。

さらに、医師による診療記録や看護師による看護記録がリアルタイムで更新されるため、常に最新の情報を入手できるのも大きなメリットです。他にも、クラウド型の電子カルテを導入した場合、サーバーが外部に設置されるため、自然災害が発生した場合でもデータを簡単に復旧できます。

4-2.人為的なミスを防げる

人為的なミスを防ぎやすくなるのも、電子カルテを導入するメリットです。

一般的な紙のカルテに記入する場合、記入者によって文字が見にくいケースがあり、記載された内容の誤読によって、看護師や事務員へ誤った指示が伝えられたり、オーダーミスや請求ミスが発生したりする恐れがあります。

電子カルテなら、文字が判別できないという状況が発生しないため、上記のようなヒューマンエラーを防止できます。

また、名前や効果から薬を検索できたり、そのまま入力できたりするため、記入ミスや誤読による医療事故を未然に防止可能です。

人為的なミスを減らすことは、患者さんへの安全な医療行為の提供につながります。

4-3.業務効率を向上させる

電子カルテの導入は、医療機関内の業務効率化につながります。

電子カルテを使えばカルテを探す手間を省けるため、病院での受付業務の負担が大幅に軽減される他、カルテに情報を記載する時間も短縮可能です。また、診療情報提供書といった医療文書の作成時間も短縮できます。

さらに、システムによってはカルテへの記入からそのまま薬の処方や注射などをオーダーできるもの(オーダーリング)もあり、業務効率化に加えて会計時間や患者さんの待ち時間の短縮も実現できます。

カルテに関連するさまざまな業務に掛かっていた時間や負担を減らせることは、電子カルテを採用する大きなメリットでしょう。

4-4.資料の保管スペースを減らせる

電子カルテの活用は、カルテや資料の保管スペースの削減にもなります。

電子カルテでは、データは全てサーバーに保存・蓄積されます。将来的に患者数が増加し、関連する診療記録や看護記録が増えたとしても、データが保存されるのはサーバーとなるため、保存場所を増設する必要がありません。

一般的な紙のカルテの保管には、保管のためのスペースを確保する必要があります。規模が大きい医療機関であればなおさらです。

今後も紙のカルテを使用し続けた場合、保管場所が圧迫され、新たな管理スペースの確保が必要になるでしょう。

電子カルテの導入によって医療機関内でのペーパーレス化が進み、スペースの削減が可能になります。

4-5.カルテの共有が容易になる

カルテの共有がしやすくなるのも、電子カルテのメリットです。

電子カルテのデータは全てサーバーに保存されるため、そのサーバーにアクセスできれば、場所を問わずに電子カルテの情報を閲覧できます。

そのため、他の医療機関や行政などとの情報共有がしやすくなる他、病院やクリニックの分院を設立する場合にも便利です。

また、紙のカルテの場合、カルテを持っている人だけがその内容を確認できますが、電子カルテなら複数人が同時にカルテにアクセスでき、診療情報や監護情報を確認可能です。

さらに、訪問医療や訪問看護でも、訪問先から電子カルテへのアクセスが可能となるため、現物のカルテを持ち運ぶ必要がありません。

電子カルテを採用することで情報の共有が簡単になり、効率的で効果的な医療を提供できる可能性が高まります。

5.電子カルテを導入するデメリット

電子カルテの導入には、さまざまなメリットがある一方で、デメリットも存在します。具体的には、以下のようなデメリットです。

•運用開始までに時間がかかる
•導入時に初期費用がかかる
•紙のカルテの情報を移す必要がある
•停電したら紙の管理に移行しなければならない
•電子カルテに運用を合わせる必要があるケースが存在する
•運用に費用がかかる

それぞれ詳しく解説します。

5-1.運用開始までに時間がかかる

電子カルテは導入してから運用を始めるまでに時間が掛かります。

電子カルテをスムーズに運用するには、システムの使用方法や操作方法を習得しなければなりません。デジタルツールの取り扱いの得手・不得手は人によって異なるため、電子カルテツールを使いこなせるようになるまで、時間が掛かる可能性があります。

また、電子カルテは機種によって操作方法が違うため、デジタルツールの使用が得意な人でも、適切に使用するのに手間取るケースもあるでしょう。

さらに、実際に導入する場合は、システムの使用方法や操作方法について医師や看護師、スタッフにレクチャーする時間を設ける必要があります。

電子カルテは運用が始まれば便利であるものの、導入にはある程度の時間が必要になることを理解しておきましょう。

5-2.導入時に初期費用がかかる

導入に初期費用が発生するのも、電子カルテのデメリットです。

電子カルテには3種類あることは解説した通りですが、そのうちコストを抑えやすいクラウド型であっても、ある程度の初期費用が発生します。

オンプレミス型を選択する場合は、医療機関のサーバー内にシステムを組み込む必要があるため、導入コストはさらに高くなります。

また、無料で利用できる電子カルテも存在しますが、使用できる機能の範囲が制限されていたり、セキュリティ面で不安があったりするのが実情です。試しに使用する分には問題がありませんが、医療現場で運用するには向かないでしょう。

5-3.紙のカルテの情報を移す必要がある

電子カルテ導入時には、紙のカルテに記載された情報を電子カルテに移す業務が発生するのもデメリットです。

患者さんの名前や住所、加入している保険の情報、診療記録、看護記録など、さまざまな情報を正確に移す必要があるため、手間の掛かる業務となるでしょう。

ただし、一度電子カルテに情報を記載してしまえば、後は検索や閲覧がしやすくなる他、システム上での編集もできるようになります。

なお電子カルテには、紙のカルテをスキャンして電子カルテに読み込めるタイプもあるので、事前に確認してみるとよいでしょう。

5-4.停電したら紙の管理に移行しなければならない

電子カルテは停電すると使用できないのもデメリットです。

電子機器によってカルテの情報やデータを管理するため、電源が確保できなければ、サーバーを立ち上げることも、サーバーへのアクセスもできなくなります。

自然災害や人定的なミスなどによって停電が発生したり、電力供給が不安定だったりするケースでは、電子カルテやシステムを利用できないと考えておいた方がよいでしょう。

いざというときのために、一時的な紙カルテ運用への変更にも対応できるよう、準備や訓練をしておくことをおすすめします。

5-5.電子カルテに運用を合わせる必要があるケースが存在する

電子カルテの導入により、カルテの運用方法の統一が必要になる場合があります。電子カルテの機能に応じた診療情報や看護情報の記入に対応する必要があるためです。

また、電子カルテでは使用できない帳票などを用いていた場合、代替手段を考えたり、使用できる帳票に変更したりする必要もあるでしょう。導入前のカルテの運用方法から一部変更しなければならないケースもあるため、事前にルールを決めるなどの対応が求められます。

5-6.運用に費用がかかる

電子カルテシステムは、初期費用だけではなく運用コストも発生します。

電子カルテシステムによって金額は異なるものの、月ごとにランニングコストが掛かるシステムがほとんどです。

ランニングコストは、電子カルテを運用する限り発生するため、費用対効果の高い電子カルテシステムを選択することが大切になります。

医療機関のニーズに合った電子カルテシステムを複数ピックアップしている場合、機能性や操作性だけではなく、費用面での負担についても確認しておきましょう。

6.まとめ

電子カルテシステムを導入すれば、患者さんの名前などですぐにカルテを検索できるようになり、必要な情報にアクセスしやすくなります。

医療機関での業務効率化につながる他、患者さんの待ち時間を軽減できるなど、医療機関に関係するさまざまな人にメリットがあるため、導入を前向きに検討するとよいでしょう。

ただし、いつまでたっても電子カルテを導入してもらえず、日々の業務に負担を感じている場合は、働きやすい医療機関への転職を考えるのも一つの手段です。

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