病院勤務の経験を積み、次は小規模のクリニックで働いてみたいと考えたことはありませんか。しかし、初めてのクリニック勤務となれば、病院との働き方や待遇の違いが気になるものです。今回は、医療法によって定義されているクリニック(診療所)と病院の違いを解説するとともに、それぞれの働き方や収入の違いについて解説します。
こんな方におすすめの記事です!
- クリニックと病院の違いを整理して理解したい
- クリニックへの転職で注意すべき点を知りたい
- キャリアや収入のバランスを考えながら転職を検討している
目次
クリニックと病院の定義と主な違い

クリニックと病院の大きな違いは「病床数」と「人員配置」であり、医師にとっても勤務環境に直結する要素になります。
医療施設の種類は、「医療法第1条の5」に基づき、病床数によって以下のように区分されています。
- 病院……病床数が20床以上の施設
- 診療所(クリニック)……入院施設がない、または19床以下の施設
また、病院の一般病床であれば、「患者さん16名あたり医師1名」などの配置が最低基準として義務付けられる一方で、クリニックは、病床がある場合は「医師1人と看護師及び准看護師1人」が最低基準です。入院施設がない場合には、「医師1人」から開業できます。
クリニックは小規模で地域密着型になることがほとんどです。病院と連携しながら地域医療を支える存在であり、病院勤務で培った経験や人脈を活かせる職場です。
クリニックに従事する医師数
厚生労働省の資料「令和4(2022)年医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」によると、令和4年12月末時点で、診療所(クリニック)に従事する医師数は全体の31.3%にあたる107,348人です。
一方で、病院に従事する医師数は220,096人(全体の64.1%)で、クリニックと比べて倍以上の差があり、多くの医師が病院勤務であることがわかります。
| クリニック(一般診療所) | 病院 | |
|---|---|---|
| 勤務する医師数 | 107,348人 | 220,096人 |
なお、施設数だけで比較すると、病院よりもクリニックの方が圧倒的に多いのが現状です。
厚生労働省の資料「医療施設動態調査」によると、全国にある医療施設数は180,103件。そのうち、病院が8,068件であるのに対し、一般診療所(クリニック)は105,346件で、クリニックの方が多い結果でした。(令和6年6月末時点)
参照:医師|令和4(2022)年医師・歯科医師・薬剤師統計の概況|厚生労働省
クリニックと病院、役割や働き方の違い

では、クリニックと病院を比べると、働き方にどのような違いがあるのでしょうか。それぞれの主な業務や働き方を紹介します。
クリニック(診療所)
クリニックは主に地域密着型の医療施設で、「かかりつけ医」としての診療を行います。
地域住民が体調不良時に最初に訪れる医療機関として、一般的には軽い感冒症状から、高血圧や糖尿病をはじめとする慢性疾患の管理、予防接種や健康診断まで、軽症例から慢性疾患管理まで、初期対応を担うのが特徴です。
専門の診療科を掲げるケースとして整形外科や美容皮膚科などに特化したクリニックも見られますが、多くの場合、内科を中心とする総合診療のニーズが高い傾向にあります。地域医療を支える存在として、在宅医療を担うほか、地域包括ケアシステムに貢献できるというやりがいがあります。
入院施設がある場合には、病院と同様にオンコール待機や当直が求められることもあります。ただし、緊急手術や長時間の対応は少なく、比較的負担は軽めです。無床であれば、外来のみで日勤が中心です。定められた休日があり、比較的オンコール負担が少なく、勤務時間をコントロールしやすいことから、ワークライフバランスを維持しやすい職場といえるでしょう。
また、クリニックでは対応が難しい患者さんは、地域医療の「ゲートキーパー」として、地域の病院や専門医療機関と連携し、患者さんが「必要なときに必要な医療を受けられる」ように調整する役割もあります。
病院
病院では、医師は患者さんの診療業務に加え、オンコール待機や当直にも対応します。院内の委員会に参画したり、チーム医療に携わったりとさまざまな業務を担当します。
特に大学病院では、教育や指導などを担当するほか、臨床業務と並行して研究を行うこともあります。大規模で専用の施設が整っていることも多く、日々の業務のなかでも最新医療に触れながら、知識とスキルの習得の場としての役割があるのが特徴です。
一方、地域にある一般病院では、運営母体の方針や規模によって医師の役割が変化します。地域密着型の総合病院では、地域のクリニックと連携しながら、治療を進めるほか、救急対応などを担っている施設もあります。大学病院と比べて、高度な治療に対応できない場合もあるものの、幅広い症例に対応できるのが魅力です。
クリニックと病院の収入の違い
続いて、収入の違いを見てみましょう。
厚生労働省の資料「第24回医療経済実態調査(令和5年実施)」によると、病院とクリニックに勤務する医師の収入は以下のとおりでした。
<病院に勤務する医師の年収目安(単位:円)>
| 医師 | 病院長 | |
|---|---|---|
| 一般病院 | 14,101,329円 | 19,083,108円 |
| 公立 | 14,557,416円 | 20,884,372円 |
| 公的 | 14,517,758円 | 22,424,223円 |
| 社会保険関係法人 | 12,824,307円 | 20,597,202円 |
| 医療法人 | 14,984,967円 | 30,212,670円 |
| 法人その他全体 | 14,609,725円 | 26,334,663円 |
| 個 人 | 17,029,091円 | 該当情報なし |
| 全体 | 14,610,739円 | 26,334,663円 |
<一般診療所(クリニック)に勤務する医師の年収目安(単位:円)>
| 入院診療あり | 入院診療なし | |||
|---|---|---|---|---|
| 医師 | 院長 | 医師 | 院長 | |
| 個人 | 9,485,598円 | 該当情報なし | 9,856,763円 | 該当情報なし |
| 医療法人 | 12,098,292円 | 34,377,821円 | 10,920,325円 | 25,782,632円 |
| 全体 | 11,722,397円 | 36,632,293円 | 11,064,262円 | 25,408,590円 |
参照:第24回医療経済実態調査 (医療機関等調査) 報告 - 令和5年 実施
病院は、経営母体によって年収に差があり、個人経営の施設で最も高い収入になっています。クリニック(診療所)は、入院施設がある施設で年収が高くなりやすい傾向があるものの、個人経営の場合は医療法人の場合に比べ、差は小さくなっています。
それぞれの全体を比較すると、収入が最多であるのは「入院施設のある診療所の院長」でした。収入が最少であったのは、「入院施設のない診療所の勤務医」です。しかし、これには入院施設のない診療所では平日の日勤を中心として運営しているため、当直や夜勤手当などの収入が得られないことが影響していると考えられます。
クリニックへの転職時に気を付けるべきポイント

クリニックの勤務は、病院と比べて緊急対応やオンコール対応などが少ない傾向にあり、ワークライフバランスが取りやすいというメリットがあります。しかし、クリニックでの働き方として、注意しておきたいデメリットもあります。転職時に気を付けるべきポイントを紹介します。
収入が減ってしまう可能性がある
先の資料にもあるように、診療所での勤務は、病院勤務と比べて年収が下がる可能性があります。診療科目や施設(入院施設の有無など)によって異なるものの、収入アップを目指したい場合には、しっかりと条件を確認したうえで転職活動を進めることが大切です。
特に、入院施設がない場合には、当直やオンコールによる手当が得られないため、減収になる可能性が高まります。
[医師が収入アップするには?]
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経験やスキルが問われることがある
クリニックでは、基本的に「即戦力となる医師」を募集しています。小規模施設の場合、十分な研修期間がなかったり、指導の機会が少なかったりする可能性もあるため、注意が必要です。
最近では、初期研修直後に、美容医療系クリニックへ就職する若手医師が増えています。クリニック勤務は、ワークライフバランスを維持しやすく、若手医師でも高額な収入を得やすいとして人気が高まっているようです。しかし、十分な研修や経験がないなか、「短期間で診療に必要な技術を取得しなければならない」など、求められるスキルが高いケースがあるのも事実です。診療所で働く際は、それぞれの診療科の特性と医師に求められる役割を十分に確認することが重要なポイントになります。
医療スタッフ数が限られている可能性がある
病院と比べると、クリニックでは最低限の人数で運営されているケースも少なくありません。医師をはじめ、スタッフにも限りがあり、診療以外の幅広い業務を担当する可能性もあります。人員不足の状況では、柔軟に休みが取れないことも考えられます。病院勤務時とは異なる働き方を求められる場合もあることを理解しておきましょう。
電子カルテなどが使用できない場合がある
近年、業務効率化を進めるうえで、電子カルテや予約システムなどを導入する施設が増えています。比較的規模の大きな病院ではDX化が進められていても、小規模のクリニックでは導入や管理にかかる費用や人員不足のため、効率化が進んでいないこともあります。実際に、2023年10月時点での電子カルテ普及率は、病院では65%、診療所では55%と差がありました。クリニックへの転職を考える際には、こうしたシステム環境の違いも考慮しておく必要があります。
今後のキャリアを考えた選択が必要
クリニックと比べて、病院の方が、幅広い症例に触れる機会が多い傾向にあります。そのため、病院勤務では専門性を磨いたり学会発表・研究実績を積んだりすることが可能です。
一方でクリニックでは、患者さんと長期にわたり向き合い、地域医療の第一線を担うという経験が得られます。どちらもキャリア形成に役立ちますが、「専門スキルをさらに高めたい」「患者さんとの距離を近く感じながら診療したい」など、目指す将来像によって選択のポイントが異なります。将来的なキャリアパスを考えたうえで、自身に合った職場を選ぶことが大切です。
クリニックと病院の違いを十分に理解してから転職しよう
クリニックと病院での働き方の違いについてお伝えしました。ワークライフバランスを重視したい医師に人気のクリニック勤務ですが、転職を考える際には、「自分のキャリアをどう描きたいか」という視点が重要です。収入や勤務時間だけでなく、将来的なスキル習得やライフプランとのバランスを考慮することで、後悔の少ない決断につながります。自身のキャリアプランとマッチする職場を見つけたいときには、医師専門のエージェントに相談し、実際の求人傾向や勤務環境を確認するのもおすすめです。
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記事の監修者

小池 雅美(こいけ・まさみ)
小池 雅美(こいけ・まさみ)
医師。こいけ診療所院長。1994年、東海大学医学部卒業。日本医学放射線学会・放射線診断専門医・検診マンモグラフィ読影認定医・漢方専門医。放射線の読影を元にした望診術および漢方を中心に、栄養、食事の指導を重視した診療を行っている。女性特有の疾患や小児・児童に対する具体的な実践方法をアドバイスし、多くの医療関係者や患者さんから人気を集めている。
