精神科医としてのキャリアパスを考えるうえで、精神保健指定医の取得を目指している人もいることでしょう。精神保健指定医は資格取得が必要であり、一般的な精神科医とは役割などが異なります。今回は、精神保健指定医と精神科専門医との違いをはじめ、精神保健指定医の役割ややりがいなどについて解説します。
- 精神保健指定医は、厚生労働大臣によって指定された法的な資格であり、措置入院・緊急措置入院・医療保護入院など、任意入院以外の入院を医師自身の判断で決定できる。一方、精神科専門医は患者さんの意に反した強制入院を指示できない点が大きな違いである。
- 精神保健指定医の資格を取得するには、5年以上の臨床経験(うち3年は精神障害の診断・治療)、研修受講、ケースレポートの提出、口頭試問などを経る必要がある。
- 患者さんの人権を守りながら社会復帰を促し、家族の支援や地域の福祉にも貢献できるやりがいの大きい仕事。精神科専門医からのステップアップにもおすすめ。
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1.精神保健指定医とは
まず精神保健指定医の定義について確認してみましょう。
1-1.精神保健指定医の定義
厚生労働省は、精神保健指定医について「精神科医療においては、本人の意思によらない入院や、一定の行動制限を行う事があるため、これらの業務を行う医師は、患者の人権にも十分に配慮した医療を行うに必要な資質を備えている必要がある」(厚生労働省「精神保健指定医とは」より)としています。一定の実務経験や研修を経て、このような資質を備えた医師として厚生労働大臣によって指定されたのが、「精神保健指定医」です。
精神保健指定医制度は、1987年(昭和62年)の精神衛生法改正(精神保健法の成立)により、患者さんの人権に配慮した医療の提供を目的として創設されました。
「精神保健指定医」の指定要件は、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律第18条において明記されています(後述)。精神保健及び精神障害者福祉に関する法律第19条4に定められた措置入院、緊急措置入院、医療保護入院など、任意入院以外の判断を職務として遂行できる法的な資格です。
1-2.精神科専門医との違い
精神科専門医は、日本精神神経学会が定める研修を受けた後に認定される専門医資格です。一般的に、精神科専門医は、患者さんの意に反した強制入院を指示できません。一方、精神保健指定医は、精神科専門医としての業務に加えて、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律第19条4に定められた任意入院以外の判断を職務として遂行できるのが大きな特徴です。
具体的には、措置入院のように任意入院以外を必要とする患者さんに対し、精神保健指定医は自身の判断で入院を決定できます。一方、精神科専門医が措置入院を必要とする患者さんだと判断しても、医師の権限としては断行できません。精神保健指定医に診察を依頼したうえで、判断してもらう必要があります。
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2.精神保健指定医の役割とやりがい
続いて、精神保健指定医に与えられた社会的な役割を見てみましょう。具体的なポイントとやりがいについても解説します。
2-1.精神保健指定医の役割
前述の通り、精神保健指定医は、任意入院以外の判断を、患者さんの意思に関わらず遂行できるのが大きな特徴です。その時々の判断で、患者さんに適切な医療を提供します。
こうした判断と医療の提供は、患者さんの将来だけでなく、家族や地域社会などの安全な環境の確保につながるものです。精神保健指定医しか行うことのできないことであり、社会的に重要な役割を担います。患者さん本人のみならず家族や地域社会の福祉を守る点でも大きな意義があります。
2-2.精神保健指定医としてのやりがい
精神保健指定医は患者さんの人権を守りながら、本人にとって適切な医療を提供しながら深く関わります。家族や地域社会と協働しながら患者さんの社会復帰を促し、社会参画の機会をつくるといった社会生活を総合的に支援します。
患者の安全を確保するだけでなく、家族を支援し、地域社会の福祉に大きく貢献します。これは、精神保健指定医のみが実践できる職務であり、自身の役割に大きなやりがいを実感できるでしょう。
3.精神保健指定医の資格取得・取得更新方法
精神保健指定医を目指すにあたり、資格取得・取得更新方法について理解しておきましょう。
3-1.精神保健指定医の資格取得方法
精神保健福祉法第十八条では、精神保健指定医について「次に該当する医師のうち第十九条の四に規定する職務を遂行するために必要な知識及び技能を有すると認められる者を、精神保健指定医」に指定すると定めています。
2.三年以上精神障害の診断又は治療に従事した経験を有すること。
3.厚生労働大臣が定める精神障害につき厚生労働大臣が定める程度の診断又は治療に従事した経験を有すること。
4.厚生労働大臣の登録を受けた者が厚生労働省令で定めるところにより行う研修(申請前一年以内に行われたものに限る。)の課程を修了していること。
厚生労働省「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律と精神保健福祉行政の現状について」をもとに、資格取得までを大まかにまとめると、5年の臨床経験のうちに3年以上の臨床経験を精神科で積み、精神保健指定医研修会を修了、5分野5症例以上のケースレポートを提出したうえで口頭試問が行われるという流れです。提出するケースレポートには細かな要件がさだめられていますので事前に確認しておきましょう。
最終的に適切と判断された場合に、認定されます。以前は研修会とケースレポートのみでしたが、精神保健指定医の不正取得を防ぐための「精神保健指定医の指定に関する要件・実施方法等の見直し」に伴い、2018年に口頭試問の追加、ケースレポート様式の見直し、指導医の要件見直しなどがされました。
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3-2.新規申請の場合
新規申請の場合は、申請書やケースレポート等を都道府県経由で、厚労省に提出します。書面審査の後、口頭試問の日時と場所が通知されます。対象者1名に対して複数名審査員が口頭試問を行い、精神保健指定医として指定の可否が決定されて通知を受ける流れです。
3-3.資格の更新方法
精神保健指定医の資格は、5年ごとの更新が必要です。5年度ごとに研修を受講し、研修の実施団体経由で都道府県知事又は指定都市の市長に申請して、更新を行います。5年度ごとの研修を受けなかった場合には、やむを得ない理由があると厚生労働大臣が認めた場合を除き、当該指定を受けるべき年度の終了の日をもって失効されます(厚生労働省「精神保健指定医の証の更新等に係る事務取扱要綱」より)。
4.精神保健指定医のこれから
厚労省の調査によると、精神疾患を有する総患者数は平成29年度の調査時点で約419.3 万人と報告されています。2002年と比較すると約1.6倍以上の増加です。
それに対して精神科に勤務する医師の総数は、2018年12月31日の時点で15,925人(病院勤務11,886人、診療所勤務4,039人)であり、これは2002年時点の精神科に勤務する医師の総数11,790人(病院勤務9,901人、診療所勤務1,889人)に対して1.35倍の増加にとどまっています。
こうした状況を踏まえると、精神科医師はもちろん精神保健指定医の需要が高いことが推察できます。また、近年ではストレスの高い社会生活のなかでメンタルヘルスケアが重視されていることにあわせ、超高齢化社会を目前にして、精神科を受診する患者数が増加する可能性も懸念されます。地域社会を守る精神保健指定医の需要は、今後も高まることが考えられるでしょう。
5.地域に貢献できる精神保健指定医を目指そう
精神保健指定医を目指すには、臨床経験を高めるほか、ケースレポートの作成や口頭試問にも備える必要があり、準備の時間も必要でしょう。効率よく精神保健指定医の取得を進めるには、資格取得に向けたサポートが得られる職場で働くことも1つの方法です。自分のキャリアパスに沿って職場や働き方を見直す際には、専門のエージェントに相談してみてはいかがでしょうか。
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※本記事に記載の内容は、2022年4月時点の情報です。精神保健指定医の新規申請・更新などに関する最新情報は厚生労働省「精神保健指定医」のページをご確認ください。
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