医療現場でも使用される「コミュニケーションエイド」は、先天性の障がいや、後天性のALS・脳梗塞の後遺症などにより発語や発話が難しい方のコミュニケーションを補助する福祉機器装置です。コミュニケーションエイドが導入されるケースには代表的な対象疾患があり、機器によって特徴が異なります。いざという時に活用できるよう、今回はコミュニケーションエイドの種類や機能、対象者などについて詳しく解説します。
- コミュニケーションエイドの種類や活用例を知りたい方。
- 言語や意思伝達に困難を抱える方への支援方法に関心がある方。
- 患者のQOL向上に役立つ医療機器を理解したい方。
目次
コミュニケーションエイドとは

コミュニケーションエイド(communication aid)とは、何らかの疾患や障がいにより発語や発声が難しい人が、周囲との意思疎通ができるようにコミュニケーションを支援する補助具です。文字盤やデジタル機器を使い、シンボルやテキストなどで意思表示を行うほか、録音された肉声や合成音声を使用した音声出力などにより、コミュニケーションをとることができます。
1-1.コミュニケーションエイドの対象疾患
コミュニケーションエイドの使用が検討されるのは、身体機能に障がいがあり、発語が困難になる疾患を抱えた患者さんです。意識がはっきりしていて、知的機能を保ちつつも、発語だけでなくジェスチャーなどでのコミュニケーションも難しい場合に多く用いられます。
対象疾患としては、筋萎縮性側索硬化症(ALS)や筋ジストロフィー症といった神経・筋疾患が代表的です。そのほか、事故や疾患の後遺症による障がい、重度脳性麻痺、自閉症、緘黙症などのコミュニケーション障がいを抱える人、加齢によりコミュニケーションが難しくなった場合などにも用いられます。進行性疾患においては、利用申請時の状態のみが判断基準でなく、音声の完全喪失(障害固定)前でも一定の条件を満たす場合は疾患の進行を考慮してコミュニケーションエイドの支給対象となる可能性があります。
コミュニケーションエイドの種類

コミュニケーションエイドには、アナログ(ローテク)とデジタル(ハイテク)の2つがあります。アナログの場合、紙やプラスチックなどに表示された文字盤やシンボルを用いて、対象者に合図を送ってもらいながら意思を確認します。一方で、デジタルには、機器を使用するデバイス型と、スマートフォンを活用したアプリ型の2種類があります。それぞれの特徴を見てみましょう。
2-1.デバイス型
デバイス型は、コミュニケーションエイドとして開発された福祉補助器具で、主に次の3種類があります。
・携帯用会話補助装置
・VOCA(音声出力コミュニケーションエイド)
・重度障害者用意思伝達装置
それぞれの特徴や使い方については、後述します。開発・販売を行う企業によって商品名は異なりますが、上記いずれかの機能を持つ装置を使用します。上述した3種類の中にも、さまざまなタイプが存在するため、身体状況や可能な動作の種類に応じて、使いやすいものを選ぶと良いでしょう。
2-2.アプリ型
スマートフォンやタブレット端末の普及に伴い、アプリ型のコミュニケーションエイドも展開されています。
デバイス型として展開されている「携帯用会話補助装置アプリ(VOCAアプリ※VOCA:音声出力型コミュニケーションエイド)」は、Windows版やiPad、iPhoneなどで利用できるアプリが提供され、入力方法も「テキスト入力版」「シンボル入力版」などが選択できるようになっています。また、録音音声や音声合成、ネット上のサウンドファイルを利用した意思表示などが可能で、スイッチ入力機能の変更や画面反転機能に対応しているものも多く、身体状況にあわせて容易に操作できるように設定することができます。
コミュニケーションエイド導入の具体例

コミュニケーションエイドは、以下のような条件を総合的に評価しながら、最適な機器を選択する必要があります。
・利用者の身体機能の評価
・利用者のニーズ(トーキングエイドを利用する対象、利用場面、希望する機能など)の把握
・パソコンの利用経験の有無
・最適なコミュニケーションを実現できる支援環境の確保の可否
デバイス型の種類と特徴を確認しながら、活用の具体例を見てみましょう。
3-1.携帯用会話補助装置
携帯用会話補助装置は、ひらがな50音のキーボードを押すことで、対応する音声が出力される装置です。主に音声機能もしくは言語機能障害者(児童)又は、肢体不自由者(児童)で音声言語に障がいを抱える人が導入する傾向にあります。気管切開し、人工呼吸器を装着している場合や、呼吸筋が完全に麻痺している呼吸器機能障害を抱える人も操作方法などを適宜工夫することで利用できます。他の機器と比べて導入しやすい傾向があり、がんなどの疾患の治療のために声帯切除を受けた患者さんなどが利用することもあります。
デバイス版は補助装置自体を携帯しますが、アプリ型で使用する場合はスマホやタブレット端末を利用します。
3-2.VOCA(音声出力コミュニケーションエイド)
VOCAは携帯用会話補助装置と比べて、細かな動作が難しい状況でも利用しやすいのが特徴です。アプリ型では、利用しやすいように配慮されたタッチペンなどを使用し、端末をタップして使用します。絵カードを並べて提示することでコミュニケーションを取ることも可能です。
肉声を録音する必要があるため、先天性の疾患だけでなく、後天的な理由で徐々に発語が難しくなってくるケースにおいても利用されます。手術等の影響で、一時的に会話によるコミュニケーションが難しくなる患者さんに適用されるケースがあるほか、知的障害や自閉症の行動障害支援、四肢不自由児の支援などにも利用されています。
3-3.重度障害者用意思伝達装置
重度障害者用意思伝達装置は、脳性麻痺や高位脊髄損傷をはじめ、ALSやSCD、MSなど神経難病と言われる疾患を抱える患者さんに導入される機器です。
主に「文字等走査入力方式」と「生体現象方式」の2種類があり、「文字等走査入力方式」は、意思伝達機能を有するソフトウェアが組み込まれた専用機器を操作してコミュニケーションを図ります。
「生体現象方式」は、生体信号の検出装置と解析装置にて構成され、運動機能(筋活動)によるスイッチ操作が困難な場合に導入が検討されます。脳波を利用する装置と脳血流を利用する装置の2種類があり、脳波や脳血流を利用する装置では「はい・いいえ」の判定結果が画面で表示されます。画面を見て患者さんとのコミュニケーションを図りますが、心理状態や環境により正しく判定できない場合があるため、同じ質問を繰り返すなどの確認や調整が必要です。
コミュニケーションエイドを活用するメリット

コミュニケーションエイドは、患者さんと家族や医療従事者とのコミュニケーションの幅を広げられるのが最大のメリットです。
特に医療現場においては、症状経過を把握するために、コミュニケーションを確保する手段となります。ALSの患者さんの場合、呼吸筋の萎縮による呼吸障害を生じた際に患者さんの苦痛の程度や要望などを適切に理解することに役立ちます。
また、患者さんによっては、状況に応じてコミュニケーションエイドを使い分けるケースもあります。会話やジェスチャーによるコミュニケーションが難しい状態にあっても、医師をはじめとする医療従事者や家族、介護者などが、本人の意志や心身の状況などを確認する機会を得られるのも大きなメリットと言えるでしょう。
患者さんの意思表示は、家族や介護者、医療従事者など、生活を支える人の精神的な負担の軽減にもつながり、よりよい人間関係を築くだけでなく、本人だけでなく周囲も含めたQOL向上につながります。
コミュニケーションエイドの課題・今後の展望

利用者にとって大きな課題となっているのが「価格」です。特にデバイス型の製品は高価になる傾向があり、経済状況によっては利用が制限される可能性があります。障がいの程度に応じて補助金が適応されたり、非課税対象になったりしているものの、より普及率を高めるためには、製品の販売価格自体の値下げが望まれるでしょう。
また、医療現場にとっては、コミュニケーションエイドを通しても、適切に相手の意思を理解するのが難しいという一面があります。認知障害を抱える患者さんは、文字表示の理解や操作が難しく、喚語困難や失書を抱える場合には構文でのやり取りもスムーズにはいきません。できるだけ利用者の負担を減らし、操作しやすいものを選択するとしても、受け取る側への配慮が必要でしょう。
コミュニケーションエイドについて理解を深めよう
コミュニケーションエイドの使用例として有名なのが、イギリスの物理学者スティーブン・ホーキング博士です。筋萎縮性側索硬化症(ALS)で肉声が発せなくなったものの、コミュニケーションエイドを利用しながら、学会発表や論文を作成し、宇宙物理学で大きな功績を残しました。
コミュニケーションエイドは、正しい使い方によって社会とのつながりを保つことができるものであり、その役割は大きなものです。医療現場においては、患者さんとのコミュニケーションが取りやすくなるだけでなく、患者さんにとってのストレス軽減につながり、社会参加や自立を支えるツールとしてQOLの向上が期待できます。
すでにコミュニケーションエイドを導入している患者さんには、コミュニケーションエイドを利用しながらも、患者さんごとの個性に応じて細やかに配慮しながら関わっていくことが大切です。コミュニケーションエイドについて正しく理解を深め、必要としている患者さんに適切に導入できるように備えていきましょう。
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