近年、世界的にも美容医療の市場が拡大し、国内でも興味を持つ人が増えていると考えられます。そうしたなか、今後の働き方として美容皮膚科を目指したい医師もいるのではないでしょうか。今回は、美容皮膚科への転職を考えている人に向けて、美容皮膚科の仕事内容をはじめ、働くメリットやデメリット、転職を成功させるポイントについて解説します。
- 美容皮膚科の具体的な仕事内容や特徴を詳しく知りたい
- 美容皮膚科への転職が自分に向いているか考えたい
- 美容皮膚科で働くメリット・デメリットを比較して判断したい
美容皮膚科の仕事内容

美容皮膚科への転科や転職を考える前に、まずはその仕事内容を確認しておきましょう。
緊急性の少ない治療や施術を担う
美容皮膚科では、主に緊急性の少ない皮膚疾患や肌の不調に対する治療や施術を行います。
具体的には、尋常性ざ瘡による発赤や皮膚の凹凸(ニキビ跡)などの改善、超音波やレーザーなどを使用した肌質改善や脱毛等の施術、肌の健康維持につながる点滴や処方などが挙げられます。また、美容皮膚科の一環として、AGA(男性型脱毛症)治療を行うクリニックも見られます。
一般的な皮膚科とは異なり、多くが自由診療で、治療の緊急度は低いのが特徴です。ただし、皮膚科と協働し、治療後のケアの一環として美容的な治療を担うケースや、術後の肌質改善などに携わる場合もあります。緊急性は低いものの、患者さんが抱える肌悩みなどに丁寧に対応し、幅広い選択肢のなかから適した治療や施術を提案するスキルが求められます。
外科的な処置を行うことが少ない
美容皮膚科では、外科的な処置を行う機会が少ない傾向にあります。皮膚科の領域では、皮膚腫瘍(ほくろやイボ)、皮下腫瘍(粉瘤や脂肪腫)などの摘出手術等を行うことがありますが、美容皮膚科ではレーザー治療などで対応できる範囲がほとんどでしょう。ただし、ニーズによっては、糸リフトなどの侵襲的な治療に関わる場合もあります。
なお、美容医療として外科手術を行うのが、美容外科の領域です。外科的な処置によって患者さんの希望する身体の構造・形に美しく整えたり、外見的なコンプレックスを解決したりします。
カウンセリングや相談の時間をじっくりとる
美容皮膚科の多くが予約制であり、患者さん一人当たりに対して、丁寧なカウンセリングや相談を行います。その際、患者さんが求める対症療法に加えて、肌の悩みを繰り返さないように原因療法にも取り組みます。例えば、尋常性ざ瘡のケースでは、跡や色素沈着を緩和する治療だけでなく、「尋常性ざ瘡を繰り返さないように、肌質を根本から改善する」ための施術や治療法を提案します。その際、定期的なレーザー治療やボトックス注射などを提案することも多く、患者さんの継続的な治療をサポートするための信頼関係を築く必要があります。個々に悩みが異なる患者さんの気持ちに寄り添いながら、悩みの解決につながる医療サービスを提案できる仕事に、やりがいを感じられることでしょう。
美容皮膚科への転職はどんな人におすすめ?

美容皮膚科を目指すとしても、人によっては向き不向きがあるかもしれません。美容皮膚科への転職に向いている人の特徴を見てみましょう。
美容医療に強い関心がある
美容皮膚科の患者さんは、審美的な観点から肌質の改善や見た目の若返りなどを希望される方が中心です。そうした患者さんに寄り添い、納得してもらえる治療法や施術を提案するには、最先端の医療技術や流行などの情報にも敏感である必要があります。自由診療として導入される治療法や施術内容は幅広く、常に新しい方法が世界的に開発されています。そうした背景を踏まえながら、患者さんの求める美しさを一緒に探求し続けられる人は、美容皮膚科への転職に向いています。
患者さん一人ひとりにじっくり寄り添って、適切な美容医療を提供したい
肌悩みやコンプレックス持つ患者さんは、その解決法を求めて美容皮膚科に来院されます。その悩みは個々に異なり、一度の治療では解消できない場合もあります。しかし、緊急性が低く、自由診療として高額な費用が必要になるケースでは、患者さんも継続に不安を感じがちです。そんな患者さんの不安や悩みに寄り添いながら、じっくり丁寧に治療を提案・提供することにやりがいを感じる人は、美容皮膚科への転職に向いています。
外科的な処置にかかる負担を減らしたい
外科的な治療や処置を行うことに心理的な負担を感じやすい場合、美容皮膚科は働きやすい傾向があります。一般的に美容皮膚科での外科的治療はなく、医療機器を使った施術や点滴、処方などが中心です。自由診療では、医療機器などを使用して非侵襲的な治療の選択肢が広がり、なかにはスタッフが操作できるものもあります。自身で行う施術の負担を軽減できる可能性もあるでしょう。
ワーク・ライフバランスを重視した働き方を目指している
美容皮膚科では、緊急性の低い患者さんが主な対象で、夜勤やオンコールなどはほとんどありません。また、予約制とする医療機関が多く、基本的に決められた勤務時間内で働けます。ワーク・ライフバランスを重視し、特にプライベートの時間を確保したい人にとっては、働きやすい環境です。
実力が反映される働き方を求めている
美容皮膚科のクリニックや診療所では、インセンティブ制としてノルマ達成によって手当が出るところもあります。自身のがんばりが収入に反映される働き方を望む人には、やりがいを感じられるでしょう。また、美容医療は目に見える変化を求められることから、他の診療科と比べて、治療や施術の成果や実感しやすい診療科といわれています。具体的な成果を求める人も、美容皮膚科への転職が向いているかもしれません。
将来的に開業を検討している
美容医療市場は、近年急激に成長し、売上を伸ばし続けています。男性を対象とする美容医療のニーズも増加傾向にあり、今後も成長が見込まれます。将来的に美容医療での開業を検討するなら、まずは美容皮膚科に転職して経験や実績を積むのがおすすめです。個人クリニックで勤務するほか、大手チェーンクリニックに勤務したあと支院で院長を経験するなど、運営にも携わる機会を得るチャンスもあります。
美容皮膚科で働くメリットとデメリット

美容皮膚科への転職を検討するために、改めて、メリットとデメリットについて確認しておきましょう。
メリット
美容皮膚科で働くメリットとしては、以下の点が挙げられます。
●患者さんの気持ちに寄り添いながら、丁寧な診療が実施できる
●夜勤やオンコール対応がほとんどない
●予約制のため、勤務時間内で働けてワーク・ライフバランスがとりやすい
●緊急性の低い患者さんが中心で、心身への負担が少ない
●自由診療による経営安定により、収入が増える可能性がある
美容皮膚科では、複数回の来院を前提に治療や施術を提案することも少なくありません。患者さんが抱える悩みを解決するために、患者さんとじっくり向き合って診療を行いたい人には大きなやりがいがあるでしょう。
また、予約制で診療をする施設が多く、時間外労働が少ない傾向にあり、夜勤やオンコールなどもほとんどありません。業務内容もスタッフとの分業がすすめられている施設が多く見られます。医師は患者さんへの診察や治療、処置などに集中しやすい環境です。緊急性の低い患者さんを対象にしている施設が多いため、時間外診療に対応するケースも少なく、ワーク・ライフバランスを確保しやすいのもメリットです。そのほか、美容皮膚科では、自由診療を取り入れるところが多く、保険診療を中心とする診療科と比べて、収入が高い傾向にあります。
デメリット
一方で、美容皮膚科で働くデメリットとして、以下の点が挙げられます。
●インセンティブ制の勤務先では、収入が不安定になる可能性がある
●職場によっては限られたスキルしか得られない
●患者さんからのクレーム対応を求められることがある
●今後のキャリアが限定される可能性がある
美容皮膚科では、インセンティブ制で売上ノルマが課せられることがあります。ノルマを達成できずにいると収入が減ってしまう可能性もあるでしょう。また、職場によって、メインとする診療や施術内容が異なるため、思ったよりも経験できる症例が少なくなるかもしれません。また、美容皮膚科を受診する患者さんは美容意識が高く、細やかな要望に応える必要があったり、治療結果によってはクレームに対応したりすることもあるでしょう。加えて、美容皮膚科では臨床経験とみなされにくい場合もあります。今後、美容医療以外でのキャリアも検討したい場合には、慎重に考える必要があります。
美容皮膚科への転職を成功させるポイント

メリット、デメリットを踏まえて、やはり美容皮膚科に転職したいと考えるなら、より納得できる働き方を考えてみましょう。転職を成功させるポイントを5つ紹介します。
皮膚科の専門医を取得する
活躍できる美容皮膚科医を目指すなら、皮膚科専門医の取得をおすすめします。美容皮膚科の専門医取得は必須ではありませんが、経験や知見がない分野での診療は、成果につながらなかったり、クレームに発展したりする可能性もあります。また、緊急性の少ない美容皮膚科であることに慢心していると、皮膚科の疾患に疎いために病気が隠れていることを見抜けないかもしれません。そうした状況は、医師としての矜持に関わるだけでなく、医療機関としても信頼を大きく損ないかねません。専門医の取得は転職に有利というだけでなく、皮膚科に携わる医師として信頼度を高めることにもつながります。
なお、美容皮膚科の専門医は、皮膚科専門医のスペシャルティ領域となる「美容皮膚科・レーザー指導専門医(日本皮膚科学会認定)」があります。
希望するキャリアの方向性を明確にする
美容皮膚科といっても施設によってメインとなる内容が異なります。美肌や痩身、AGA(男性型脱毛症)治療など、どの分野で活躍したいのかを明確にしておきましょう。転職先によっては、限定された治療や施術のみを担当する医師を募集していることもあります。幅広い治療や施術を提供している施設への転職の場合、事前にどのような分野を担当するのかを確認しておきましょう。そのうえで、希望するキャリアを明確にし、志望動機としてアピールすることが大切です。
ノルマの有無や、収入の仕組みを確認しておく
美容皮膚科に入職できても、ノルマが辛かったり、思った収入が得られなかったりすれば、転職成功とは感じられないかもしれません。ノルマの有無とその内容を確認し、達成できるかどうか、自身が求める働き方かどうかを慎重に検討しておきましょう。インセンティブ制の場合には、達成条件を確認しておくとよいでしょう。
コミュニケーション力を高めておく
美容皮膚科は、患者さんの悩みや価値観などにあわせて、解決につながる治療や施術を提案します。そのため、患者さんの気持ちに寄り添いながら接客するスキルが求められます。美容皮膚科のメニューには、定期的、継続的に来院が必要なものも多く、会話や接客のスキルが集客に影響します。転職活動の際には、優れたコミュニケーション力があるというアピールが有効です。
応募先の情報を十分に収集する
美容皮膚科は、施設によって勤務条件が異なります。加えて、施設によって使用している薬剤や医療機器などに違いがあります。自身が納得して治療や施術に取り組める環境かどうかも確認しておきましょう。
そのうえで、施設の運営方針に納得できる転職先を選ぶことが重要です。ただし、働きながら情報収集するのは容易ではありません。できるだけ効率よく、転職活動を行いたいなら、医師専門の転職エージェントを利用するのも一案です。求人情報には書かれていない内部情報を得られることもあり、自身のキャリアパスや希望する条件に合った転職先を提案してもらえます。
長く安定して働ける美容皮膚科医を目指そう
美容皮膚科では、ワーク・ライフバランスを重視した働き方ができるのが魅力です。専門医資格を取得していなくても転科がしやすい傾向にあり、今後の働き方を見直すことができるでしょう。とはいえ、転職についてはメリットだけでなくデメリットを踏まえたうえで検討することが大切です。納得できる働き方を目指して、美容皮膚科への転職を成功させましょう。

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