超高齢社会の今、リハビリテーション科医の活躍の場が広がっています。実際に、リハビリテーション科医はどのような業務に携わりどのような役割を求められているのでしょうか。今回は、リハビリテーション科医の仕事内容ややりがい、年収事情、リハビリテーション科医になる方法について解説します。
- チーム医療を指揮しながら患者さんに最良の治療を提供したい方。
- 患者さんの生活に寄り添い、QOL向上を支援するやりがいを感じたい方。
- 新専門医制度のカリキュラムに基づいて専門医を目指したい方。
目次
リハビリテーション科医とは

リハビリテーション科医(以下、リハ科医)とは、病気や外傷、加齢などによって生じる障がいに対して、その予防や診断、治療などを行い、リハビリテーションを担う医師を指します。
リハビリテーションとは、医師の指示に基づき、理学療法士や作業療法士、言語聴覚士といった専門職(セラピスト)が、患者さんのQOLを向上させるために身体機能の維持・回復を目的に提供する訓練のことです。リハ科医は、患者さんの回復や状態維持に向けたチーム医療の中で、総合的な視点を持って取り組む監督役、司令塔のような存在だといえるでしょう。
1963年に公益社団法人「日本リハビリテーション医学会」が創立され、その後リハビリテーション医学会専門医が登場したのは1980年と、比較的新しい領域になります。
1-1.リハビリテーション科医の役割
リハ科医は、疾患や障がいを抱える患者さんの身体機能や生活などに着目しながら介入し、最良の治療が行われるようにプログラムの作成をしたり、セラピストや看護師などとのチーム医療を指揮、監督したりするのが主な役割です。
実際にリハビリテーションを行うのは、理学療法士や作業療法士、言語聴覚士といったセラピストであり、さらにサポートする看護師などとのチーム連携が欠かせません。そうしたチーム医療において、より良い治療を進めるためのかじ取り役、司令官として活躍するのがリハ科医です。
1-2.リハビリテーション科医の仕事内容
リハ科医の仕事は、リハビリテーションの依頼を受けてから、患者さんの情報(既往歴、病歴、併存疾患、病前のADLなど)を確認することから始まります。各種検査、心身機能や活動の評価などからリハビリテーション診断を行い、ゴールを設定したら、具体的なプログラムを作成します。
リハ科医の診察では、他の診療科と共通する内容の他、以下の内容に着目する点が大きな特徴です。
・病前のADL
・病後のADL
・予想されるADL(1週間後、1カ月後、さらにその後など)
・患者さんが目指したい活動レベル
・リハビリテーションを行う上で生じるかもしれない医学的リスク
・患者さんの機能障がいや能力低下、社会的不利
・患者さんはどのような活動ができ、どのような社会参加ができるのか
診断時に設定したリハビリテーションのゴールを患者さんが達成できるように、リハビリテーション処方や治療(理学療法、作業療法、言語聴覚療法など)に取り組みます。その後は、処方や治療を評価しながら、適宜リハビリテーションのゴール設定の調整も行い、患者さんの機能回復だけでなく、自己実現をサポートできるように関わります。一部の疾患、機能障がいなどを治療するのみならず、退院後のビジョンを踏まえて、QOLの向上を目指します。
リハビリテーション科医の年収事情

リハ科医の年収は、どのくらいなのでしょうか。年収事情についてご紹介しましょう。
2-1.リハ科医「常勤」の給与事情
マイナビDOCTORに掲載されている、リハ科医の常勤医師を募集する求人情報では、給与の提示は、年収での記載がほとんどです。求人によって「1,000万円~1,700万円」「1,200万円~2,400万円」などと幅があるケースも多く見られます。全体の情報からまとめると、年収の下限は平均1,291万円、上限は平均1,842万円でした(2022年10月時点)。なお、年収の提示に幅がある求人では、臨床経験などにより年収が変動する旨が説明されています。
2-2.リハビリテーション科医「非常勤(アルバイト)」の給与事情
リハ科医の非常勤医師の求人募集では「日給」「時給」「単価」の3通りが見られました。
日給の場合「6万円から8万円」などと幅があり、下限は平均8万4,150円でした。時給においても同様に幅がありますが、時給の下限は1万250円でした(2022年10月時点)。その他、単価のケースでは平均5万2,000円でした。非常勤においては、勤務時間の長さなど条件に差があるため、一概には言えません。求人案件ごとに、細かい条件を確認しておきましょう。
リハビリテーション科専門医になるには

では、リハ科医を目指すにはどうすればよいのでしょうか。ここでは、リハビリテーション科専門医になる方法と、その後のキャリアについて解説します。
3-1.リハビリテーション科専門医 取得の流れ
リハビリテーション科は、新専門医制度における19の基本領域の一つです。リハビリテーション科専門医を目指すには、全国の研修プログラムのうち1つに所属し、3年間以上の研修カリキュラムをすべて満たす必要があります。研修終了後、専門医試験を受験し合格すると、日本リハビリテーション医学会と日本専門医機構により、「リハビリテーション科専門医」の認定を受けることになります。
リハビリテーション科専門医認定試験(研修プログラム制)の申請要件(2018年4月1日または2019年4月1日以降に専門研修プログラムを開始した専攻医の場合)は以下のとおりとなっています(日本リハビリテーション医学会サイトより)。
2)学会の定めた専門医制度卒後研修カリキュラムに基づき、学会が認定したリハビリテーション科専門医研修プログラムを修了した者
3)申請書提出期限前までに発表した本医学会年次学術集会における主演者の学会抄録2篇を有すること。ただし主演者としての発表2回のうち1回は日本リハビリテーション医学会年次学術集会または秋季学術集会であり、もう1回は日本リハビリテーション医学年次学術集会、秋季学術集会、または地方会学術集会のいずれかとする。
4)自らリハビリテーション医療を担当した30症例の症例報告を提出すること
5)自らリハビリテーション医療を担当した100症例のリストを提出すること
3-2.リハビリテーション科医の活躍の場

リハ科医は、急性期や回復期を主とする病院の他、最先端治療に取り組む大学病院や在宅医療、地域医療など、幅広い活躍の場があります。
例えば、急性期病院では、早期からのまひや嚥下の評価と改善、がんのリハビリテーションへの介入が主となります。ただし、現状では、リハ科医が配置されている急性期病院は少ない傾向にあるとされています。
また、回復期病院では、リハ科医は「主治医」として患者さんの内科的治療も担いながら、障がいの継時的評価と介入を行います。限られた期間の中で、患者さんの能力をどれだけ引き上げられるかが大きな課題です。その他、在宅医療では、維持期にある患者さんの生活のサポートが主な役割となり、高齢化の進行や予防医学の発展、浸透に伴い、地域での需要も高く、包括的に地域を支える役割も求められています。
最先端治療に取り組む大学病院では、まだ確立されていない治療法について臨床研究や基礎研究を通して最適な治療法の確立に貢献することが期待されています。
リハビリテーション科医の魅力、やりがい

ここからは、リハ科医の魅力ややりがいを見てみましょう。
4-1.患者さんの生活に大きく関わることができる
リハ科医には、患者さんの機能を回復させて障がいを克服してもらうだけでなく、それぞれの患者さんの「生活」に寄り添った取り組みが求められます。在宅復帰だけでなく、復職など、患者さんの社会生活に大きく関わるリハ科医は、患者さん自身や、家族との生活にも寄り添う治療を行うことになります。精神面でのサポートなども含め、患者さんのQOL向上を実感できることに、やりがいを感じるのではないでしょうか。
4-2.幅広い症例に関わることができる
リハ科医は幅広い状況で活躍が求められます。リハビリの必要性は、急性期や慢性期といった状態や、領域を問いません。例えば、超急性期から介入することで、患者さんの機能予後や生命予後までの改善に貢献できます。また、さまざまな領域に関わることから、専門的な知識を広げることが可能となり、将来の選択肢も広がるでしょう。
4-3.リハ科医自体の人数が少なくニーズが高い
2022年5月に日医総研が行ったリサーチによると、2020年時点での医療施設に従事する医師の総数32万3,700人に対し、リハビリテーション科に勤務する医師数はわずか2,903人でした。高齢者人口が増える中、リハビリの需要が高まっているにもかかわらず、まだまだリハ科医は少ない状況です。全国的に需要があることが考えられるため、今後の転職などにも有利に働く可能性があることも、魅力の一つだといえます。
リハビリテーション科医を目指すなら
リハ科医になるためには、定められた卒後研修カリキュラムを修める必要があるため、キャリアパスをしっかりと立てて効率的に進めていくことが大切です。キャリアパスの立て方が分からない場合は、医師専門のエージェントに相談してみるのもよいでしょう。
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参考URL
日本リハビリテーション医学会の概要|日本リハビリテーション医学会
リハビリテーション科医とは|慶應義塾大学 医学部 リハビリテーション医学教室
リハビリテーション科専門医の仕事紹介|島根大学 医学部 リハビリテーション医学講座
全国で活躍するリハビリテーション科専門医(医学生・研修医の方へ)|日本リハビリテーション医学会
リハビリテーション科専門研修プログラム整備基準|日本リハビリテーション医学会
医師養成数増加後の医師数の変化について |日医総研リサーチレポート
リハビリテーション医学教室特別講義(2021年5月7日)”リハ科医師になること”のススメ|国際医療福祉大学医学部
リハビリテーション科専門医を選んだ理由|日本リハビリテーション医学会
リハビリテーション科医の魅力|日本リハビリテーション医学会
リハビリテーション科専門医認定試験のお知らせ(「研修プログラム制」での受験)|日本リハビリテーション医学会