この科の医師は――臨床派or研究派orハイブリッド・選べる働き方・手術少ないと思われてるけど多い!?
イラスト:イケウチリリー
取材・文:マイナビRESIDENT編集部
このコーナーは元々、医学生と初期研修医に将来のことを考える材料にしてもらおうと、『マイナビRESIDENT』用に作りました。2018年に開始した新専門医制度で基本領域になった19診療科の専門医に、その科の魅力やイマイチなところ、どんな人が向いているのか、「あるある」、一日の仕事の流れ、典型的な医師像などを「ぶっちゃけ」で語ってもらった記事です。こういった他科の詳細な情報は、転科や診療領域の追加を考えている医師にとっても有益だと考え、『マイナビDOCTOR』にも掲載することにしました。
耳鼻咽喉科は、専門医の前田陽平(まえだ・ようへい)さんに聞きました。
インタビューを受けていただいた医師
前田陽平(まえだ・ようへい)医師 = 1979年生まれ
- ■所属
- 地域医療機能推進機構大阪病院(565床)耳鼻いんこう科診療部長
- ■主な資格
- 耳鼻咽喉科専門医・指導医、アレルギー専門医・指導医
- ■卒業大学
- 大阪大学
* 医師の所属、主な資格は取材当時(2023年10~12月)
インタビュー内容
- Q1.なぜ耳鼻咽喉科を専門に選んだのですか?
- Q2.耳鼻咽喉科の良いところを教えてください
- Q3.耳鼻咽喉科のイマイチなところはありますか?
- Q4.専門医としての技術や知識を磨くためにやっていることはありますか?
- Q5.耳鼻咽喉科は何年ぐらいで、自信を持って診療できるようになれますか?
- Q6.耳鼻咽喉科に向いている人を教えてください
- 病院勤務の一日の流れ
- Q7.耳鼻咽喉科は開業に向いていますか?
- Q8.もし耳鼻咽喉科がなかったら、何科を選びますか?
- Q9.他科の医師から一目置かれるのは何科ですか?
- Q10.耳鼻咽喉科の「あるある」を教えてください
- Q11.典型的な耳鼻咽喉科医とはどんな人ですか?
- 医学生・初期研修医へのメッセージ
Q1.なぜ耳鼻咽喉科を専門に選んだのですか?
父が耳鼻科医だったことがきっかけですが、最終的な決め手は、初期研修で楽しいと感じたからです。耳鼻咽喉科は、眼科と神経外科が扱う領域を除いて、首から上の全てが守備範囲です。対象は主に耳と鼻に分かれ、例えば耳の場合、病気も難聴やめまいをはじめ、さまざまな症状を扱います。さらに、舌がん、咽頭がん、喉頭がん、甲状腺がんなども診るんです。その幅広さに引かれました。手術で症状を改善することに興味があったので、それも耳鼻咽喉科を選んだ理由です。
また、僕が専門としているのは鼻、副鼻腔などの病気です。学生時代に、大学院で何の研究をするかという話になった時に教授に勧められました。僕自身、もともとアレルギー性鼻炎で困っていたので興味があったんですね。
Q2.耳鼻咽喉科の良いところを教えてください
外科的な側面、内科的な側面の両方があるのが魅力です。それに伴い疾患の数が多い割に、医師が相対的に少ないので、必然的に広く診療することになるのも良いところですよね。部長になった今は自分の専門外の疾患を診ることは少ないですが、若手の頃は、難聴やめまいの患者を診て、その翌日にはがんの手術に入って——といったように幅広く診療できたのはすごく良い経験でした。学会名も最近、「日本耳鼻咽喉科学会」から「日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会」に名称が変更になり、外科的側面を強調していますね。
耳鼻咽喉科を訪れる患者は、耳が聞こえない、鼻が詰まる、声が出ないなどの問題でQOL(生活の質)を落としていることが多いです。治療を通じて患者のQOLを改善することは、非常にやりがいがあります。一方で、頭頸部がんは人間が生きていく上で欠かせない機能を持つ場所にできるがんなので、治療(切除や放射線など)することでその機能の一部が損なわれることが多いです。そういった治療には、命を救うということとともに、いかにQOLの低下を最小限に抑えるかというやりがいがあります。その両方を体験できるのは魅力です。QOLを改善するのが好きなら、耳と鼻などの治療、がんに興味があるならそっちを専門にできるので、そういう選択の幅広さもあります。
Q3.耳鼻咽喉科のイマイチなところはありますか?
医師の中でも、耳と鼻のすごく狭い範囲の病気を診ているというイメージを持っている人が多く、幅広く診療しているということが、他科の医師から理解されにくいというのがあります。耳と鼻だけでも、病気が十分多いんですよね。また、診療科の魅力が分かりやすいわけではないので、初期研修でローテートしないと分からないところがあると思います。
イマイチなところといえるか分かりませんが、耳鼻咽喉科は病院によって、扱っている疾患や診療スタンス、忙しさの違いがとても大きい診療科です。すごく忙しい病院から割とゆったりと働ける病院があり、ある程度の年次になればそれを自分で選ぶことができるようになります。特に大学勤務の頃はさまざまな病院で非常勤医として勤務し、耳鼻咽喉科医が勤務医の中だけでも働き方がかなり多様な診療科だと強く感じました。耳鼻科医が10人いるところと、1人、2人でやっているところとでは扱っている疾患も働き方も、何もかも全然違ってきます。
Q4.専門医としての技術や知識を磨くためにやっていることはありますか?
若手のうちは外科の医師と同じように、縫合やメスなどの技術的な練習が必要です。でもそれは診療科によらず、一般的なことですかね。耳鼻咽喉科だから特別にやるということはないかなと思います。
僕は大学病院に勤めていた期間が長かったので、研究に関わる業務も多少はやってきました。耳鼻咽喉科はまだまだ分かっていないこと、研究すべきことがすごく多いので、研究に興味がある人にもお勧めできます。臨床研究もできるし、基礎研究も神経系、免疫系など幅が広いですよ。
Q5.耳鼻咽喉科は何年ぐらいで、自信を持って診療できるようになれますか?
耳鼻咽喉科は、内科や外科みたいにたくさん資格があるわけじゃないんですよ。耳鼻咽喉科専門医が、ダントツで大きい資格で、他の専門医資格(サブスペシャルティ)は、持っていない人もたくさんいます。だから医師7年目くらいで専門医を取ると一人前感が出てくると思います。外来の対応や基本的な手術、少し発展的な手術での助手ができるようになり、さまざまな手術の適応を理解できるようになる頃です。その後で、サブスペシャルティを極めていく段階に入る医師が多いと思います。
Q6.耳鼻咽喉科に向いている人を教えてください
どういう医師になりたいか決まっていない人にはすごく合っているんじゃないかと思います。多くの診療科は、科の中で医師のキャラクターがある程度似ていると思うんですけど、耳鼻咽喉科はばらばらです。というのも、めまいを治すのが好きな医師はどちらかというと内科の医師のような雰囲気だったり、頭頸部がんを専門にしている人は外科医的な雰囲気だったりと、他科以上に、医師によってキャラクターもまちまちなんですよ。働き方のスタンスに関しても、すごく忙しく働きたい人、ぼちぼち自分のペースでやりたい人などさまざまです。研究中心で頑張っている医師もいますし、手術ばかりをやっている医師もいます。さらに、手術と研究のどちらも精力的にやっている人もいますよ。キャリアを自由に作っていけるのが、耳鼻咽喉科だと思います。
あと、手術で患者を良くするのが好きな人は特に向いているんじゃないかなと思います。
病院勤務の一日の流れ

Q7.耳鼻咽喉科は開業に向いていますか?
耳鼻咽喉科はやはり開業を考えて入ってくる医師は多いですし、開業しやすいという側面はあると思います。開業医でも勤務医でも楽しく、いろいろなスタイルを取れるのが耳鼻咽喉科の良いところだと思います。
Q8.もし耳鼻咽喉科がなかったら、何科を選びますか?
たぶん、外科とか泌尿器科とかですかね。科の雰囲気が自分の雰囲気に合っているかなと思うのと、研修医のころから手術をすることに興味があったからです。耳鼻咽喉科でも、がんの治療で命を救う分野に興味を持つ医師も多いです。いうまでもなく、腫瘍を切除する手術はもちろん感謝されますから。また、鼻が通るようにしたり、耳の聞こえを良くしたりというQOLの改善に直結する手術も、患者にとても感謝されるのが素晴らしいと思っています。手術のメリットを患者さんが体感しやすいという点が魅力的です。「生まれ変わりました」「人生が変わりました」「もっと早く手術を受けていればよかったです」といううれしい言葉をもらうことがあります。あれ? いつの間にかまた耳鼻咽喉科の話をしていますね。
Q9.他科の医師から一目置かれるのは何科ですか?
どの診療科もそれぞれ大変だし、すごいなと思いますよ。というか、どの診療科でもすごい人はすごいです。その診療科の中で他の医師から信頼を得ているような医師は、ちょっと話すとすごさが分かるんです。そういう医師は、自分は〇〇科だからすごいという感じではないんですよね。若手の医師には、自分の診療科の医師からもリスペクトされるような医師を目指してほしいと思います。
Q10.耳鼻咽喉科の「あるある」を教えてください
「耳鼻科も手術やってるんですね」と、見学に来た学生からよく言われます。僕の病院は、このインタビューの直近で2週続けて、毎日手術がありました。むしろ手術がたくさんある病院の方が多いのかもしれません。あとは、他科の医師からの耳鼻咽喉科の印象は、その医師がそれまでにどんな病院に勤めていたかによってものすごく違いますね。がんセンターに勤めていた人は、「耳鼻科マジヤバいよね。ずっと手術してるじゃん」という捉え方ですし、耳鼻咽喉科のアクティビティが低い病院にいた人は、「耳鼻科は暇そうだよな」と思ってる方も多いです。
Q11.典型的な耳鼻咽喉科医とはどんな人ですか?
男性はさまざまなタイプがいますが、大きくは、優等生もしくは真面目でオタクっぽい医師と、いかにも体育会系の外科医っぽい医師に分けられます。女性は明るく快活で、目立つ人が割と多いです。手術をいかにもやっていそうなイメージですかね。男女共に、白衣を羽織っている人よりスクラブの人が多いです。処置が多いので、白衣は汚れちゃうんですよ。
医学生・初期研修医へのメッセージ
初期研修先にどこの病院を選ぶかが、人生に与える影響はそこまで大きくないですが、どの診療科を選ぶかは、医師人生に大きく影響を与えることになると思います。なので、楽しいと思える診療科を選べるといいですね。病院によって診療科の雰囲気が違うので、後期(専門)研修先を選ぶ際には、初期研修をしているところとは別の病院にも見学に行くといいと思います。