田上佑輔先生(やまと在宅診療所 院長)02|DOCTORY(ドクトリー)

DOCTORY INTERVIEW

医療法人社団やまと やまと在宅診療所 院長

田上 佑輔先生

行動し、思索し、実践する医師の、
生きる悦びと診る喜びに包まれた、時間と空間。

田上佑輔氏と盟友であり、大学の同級生である安井佑氏が、卒後8年目で東京大学附属病院(以下、東大病院)を飛び出し開設した医療法人社団やまと やまと在宅診療所(以下、やまと診療所)は、宮城県登米市と首都圏(東京都板橋区、神奈川県横浜市、川崎市)で在宅医療を展開し、双方の拠点に若手医師が行き来する動線の確立を目指している。「医師がつくり出し、提言し、社会の仕組みそのものに貢献できるはず」――そんな前向きな可能性へのチャレンジが、日々続いている。

地域医療を通して、ソーシャルデザインにも参加する

登米市に若い医師が継続的に訪れ、医療に参加する。その流れを生み出すために必要な大きな魅力のひとつとして、教育が考えられる。ここでしか得られない学び、経験。田上氏はそのプログラムづくりにも注力する。

やまと診療所が登米市立米谷病院、登米市民病院、石巻赤十字病院と連携して構築した「登米全員参加型家庭医育成プログラム『やまとプロジェクト』」は、日本プライマリ・ケア連合学会認定の家庭医療後期研修プログラムとして2016年4月から稼働している。現在は、東北大学コンダクター型総合診療医要請プログラムとのコラボレーションも進めている。

「臨床経験はもちろんですが、コミュニティとの密接な関係を持った医療を通してソーシャルデザインを学ぶこともできる。そういった、登米市ならではの医療の魅力を、研修プログラムとして構築して行きたいと考えています」
「医療を通してソーシャルデザインにまで参加する」は、すでに実践が始まっている。2015年4月から、やまと診療所は登米市の行政アドバイザーの任を得ているのだ。
「地域行政の再構築のための同市の委員会に参加し、さまざまな取り組みに意見を求められています。現在は、計画の入り口での、事業仕分けに参加しています」

これからの医師には、新しい仕組みを生み出す考えがあってもいい

登米での診療風景。医師と看護師、事務スタッフが3名1組となって訪問し、多い日には7軒、8軒と訪問する。

精力的な活動の力の源はどこにあるのか、行動原理はいつできあがったのか。

「私は、熊本県出身。地方に生まれ育った若者がそうであるように、私も、大学を目指していたころには漠然と『東京でがんばってみたい』、『日本で一番の何かになりたい』程度の考えを持っていました。

医師免許を取得し、外科医の修練を積んでいた時代には目の前の患者さんを助けることの重要性を肌で感じました。しかしそれ以上に日本の医療制度、特に地域医療に関する仕組みがうまくいっていないことが気になるようになっていた。『日本のために、もっと何かできるのではないか』と考えるようになっていました」

決して、医師の仕事を否定するわけではない。田上氏は「これからの医師には、これまでとは違う新しい可能性があるはず」と模索したのだ。

「医師という職業は、仕事の大部分が整えられた医療制度の中で『与えられた仕事』です。それはそれで社会的意義があり守るべきことでしょうが、たとえばその部分を80%として、残り20%の余力では何かをつくりあげる努力をしてもいいのではないか。

新しい何かを生み出し、それを別の何かと組み合わせ、社会に資する仕組みに育てて行く。医師にも、そういったタイプの社会貢献ができるのではないかと考えるようになったのです」
そして、ここでも登米市でのそれを彷彿とさせるような行動力を見せた。そういった考えを医療界はもとより経済界、ベンチャービジネス界の先達にまでぶつけていったのだ。
「初期臨床研修を終えたころに、頭の中にあった疑問をいろいろな人へ投げかけました。まったく面識のない企業経営者に、いきなりメールを送ったこともあります。すると、驚くことに、時代をつくってきたような社会的な地位のある人に限って、会ってくれるんです。こんな若造に!

多くの方が私の言葉に耳を傾けてくださり、理解を示してくださり、ときには厳しい意見もくださいました。とても励まされました。
登米市で活動を始めた直接のきっかけは東日本大震災でしたが、在宅医療で地域医療に貢献するビジョンは、すでにこのときにできあがっていました」

40歳での評価を待っている。その先にあるものは……

当然のことだが、やまと診療所を立ち上げてのここまでは試行錯誤の連続だったという。ただ、試行錯誤しているとは思えないほどのスピードで、施策を次々とかたちにしている。田上氏は今、活動に1)臨床、2)研究、3)教育、4)ビジネス、5)行政(政治)の5つの軸を設定し、常にそのバランスの中で前進の構想を練っているという。

「前進するにあたって大事なのは、『当たり前のことを当たり前にするには』という視点で活動を進めることだと思います。5つの軸はそれを検証するための軸であると同時に、前進の方法論を検証するための軸でもあります。
医療にとって臨床、研究、教育は外すことのできない大きな柱ですが、在宅医療を通して地域医療に貢献し、ひいては地域社会の構築にまで医師が貢献するには、ビジネスのスキルと行政の仕組み、時には政治機構への理解もなくてはなりません

マイルストーンは、5年おきに設定しているとのこと。

「30歳でこの構想を持ち、35歳の時には走り始めていました。自分が正しいと信じることに従って動いたわけですが、40歳になったときには一度立ち止まり、それが社会に受け入れられているか否かを検証するつもりです」

田上氏の行動力、実践力に目を見張らない者はいないだろう。ただ、この人物の本当の凄さは構想力なのだ。「診る」だけでも十分に魅力的な医師の人生に、社会貢献の新しいスタイルをつくりだす意欲でさらに大きな悦びを示そうとしている。共感する医師、後を追う医師が続々と登場する次の時代がしっかりとイメージできる。

医療法人社団やまと やまと在宅診療所 院長
田上 佑輔先生

2005年3月 東京大学医学部卒
4月 国保旭中央病院(初期研修医)
2007年4月 東京大学附属病院
2013年4月 医療法人社団やまと やまと在宅診療所開設

(2015年7月取材)

「Doctor=医師」+「Story=物語」+「Victory=成功、喜び」から成る造語です。第一線で活躍される先生方のキャリアや生き方に関するお話をうかがい、
若き医師たちの指針となるようなメッセージをお届けします。

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