2019年7月21日(日)、JR新宿ミライナタワーにてマイナビDOCTORが主催する医師のためのセミナー「離島発 とって隠岐(おき)のエコーで変わる外来診療――当てれば見える、見えるとわかる、わかるから面白い」(共催:コニカミノルタジャパン)が開催されました。本セミナーでは、隠岐島前病院で20年以上にわたり離島医療に携わる白石吉彦先生が、普段より外来で行っているエコー診療について解説。実演を混じえながら解説するさまを食い入るように見つめる医師たちの姿が目立ったセミナーの様子をレポートします。
離島医療で培われたエコー技術を紹介
この日、イベントに登壇したのは3人のドクター。演者を務めたのは離島医療の実践者として知られる白石吉彦先生(隠岐島前病院・院長)。座長の古屋 聡先生(山梨市立牧丘病院・院長)、デモンストレーターの多田明良先生(奈良県立医科大学放射線科・総合画像診断センター)とともに、外来で診療することが多い3つの主訴(腹痛、胸痛、腰痛)について、日ごろから使用しているというコニカミノルタのエコー機器を用いた診療について解説がされました。
イベントのオープニングを飾ったのは、白石先生が実際に患者さんを診察している様子を撮影した動画です。患者さんはエコー診療を経て症状が改善したようで、にっこり嬉しそうな笑顔を見せます。白石先生が院長を務める隠岐島前病院に訪れる方の大半は腰痛や肩痛など局所的な痛みに苦しむ患者さん。その訴えを聞き、気になる部位へすぐにエコーを当てると白石先生は言います。
「検査室でフルスクリーニングしなくても、気になる部分にだけすぐアクセスできるのがエコーの特徴。外来での“ちょい当て”は、診療科を問わず役立つはずです」(白石先生)
Acute/Chronic、Common/Criticalで疾患を分類したとき、AcuteかつCriticalな疾患はいろいろとプロトコールが決まっていて、かつ広まりつつありますが、日常の外来診療でAcuteかつCommonに該当する疾患群にもエコーが有効であると白石先生は言います。「腹痛」に関しては尿路結石や虫垂炎、「胸痛」では肋骨骨折や気胸、「腰痛」では急性腰痛症などの筋膜性疼痛症候群に焦点を合わせ、それぞれエコーでチェックすべきポイントを具体的に解説していきました。
登壇した先生方が繰り返し伝えたのは「見ようと思わなければ見えない」ということ。ただ漠然とプローブを当てるのではなく、どこに何があるか予測しながら目的を持って診察することが大切だと言います。
「そのためには、日ごろからエコーに慣れておくことが欠かせません。多くの症例を経験する中で、プローブを当てる角度や短軸・長軸の切り替えなどにも自信が持てるようになっていきます」(白石先生)
イベントで使用した超音波診断装置SONIMAGE HS1は、音声コントロール機能を搭載(バージョンによっては対応していないこともあるため、詳細はメーカーへお問い合わせください)。例えば「エコーカラーモード」と声に出すことで画面が自動的にカラーへ切り替わる、といったように、事前に登録したキーワードを使って、ハンズフリーで操作することができます。
「プローブを当てたまま穿刺するときなどに重宝しています。人手が足りない現場、忙しい現場ほど役立つ機能ではないでしょうか」(白石先生)
さまざまな診療科の医師から質問が飛び交う
この日来場したのは69名もの医師。そのうち約4割が整形外科・整形内科の医師、また別の4割が内科の医師、残り2割が麻酔科などの医師でした。
質疑応答では、登壇した先生方への質問が飛び交いました。「気胸の診断時、エコーとX線撮影はどのように使い分ければよいですか」という実践的な質問には、古屋先生と白石先生が連携しながら回答。ポイントをかいつまんで紹介すると「気胸の診断では即時性が重要になるため、まずはエコーでスクリーニングするのが優先。特に気胸に関しては、エコーの感度・特異度は非常に優れています。緊急度やおおまかなサイズなどを把握した後、全体像をとらえやすいX線撮影やCTも併せて実施するのがよいでしょう」といった回答でした。
講演終了後も個別に先生方へ質問をぶつけたり、実演で使用された機材でモデルを模擬診察してみたりと、熱心な様子の参加者が多くみられました。エコーは一般的な医療機器ですが、自分以外の医師がプローブを当てる様子は意外と目にすることが少ないもの。あらためて自身の知識や技術を振り返ることができる貴重な機会となったのではないでしょうか。
診療科や診療地を問わず活用できる
2時間にも及ぶ講演の終盤、3人の先生方がエコー診療の重要性を改めて強調します。離島医療を支える白石先生、多職種連携に力を入れる古屋先生、小児科医の経験をもつ多田先生と、さまざまな分野でエコー診療が積極的に活用されていることがわかります。
「人もモノも不足している離島にあって、少しでも良い医療を提供したいという思いから、エコーの活用にたどり着きました。疾患を可視化することで、診療そのものが楽しくなってくるという効果もあります。これからもエコーを使いこなしながら、離島医療の魅力を伝え続けていきたいです」(白石先生)
「エコーを駆使することで、患者さんの所見とも“対話”が可能になります。多職種で情報共有しやすいというメリットも大きく、エコー診断の結果は院内における共通言語になりうると感じています。普段の外来の流れにエコーを取り入れて、より良い診療をめざしていただければと思います」(古屋先生)
「私はもともと小児科医だったこともあり、特に小児分野におけるエコーの可能性を強く感じています。診療科の垣根を越えて、さまざまな現場でエコーを活用してもらえたらと思います」(多田先生)
参加した医師へのアンケートには「エコーは使いこなすのが難しいイメージがあったが、実践的なコツを学び、知識をアップデートできた」「登壇された先生方の『見ようと思わなければ見えない』という言葉が印象的。エコーを使う医師として意識改革が必要だと感じた」といったコメントが並びました。かつてその精度の高さに驚いたという白石先生によって行われたエコー診療の実演を目の当たりにし、自身の医療への活用の仕方を具体的にイメージできた参加者も多かったのではないでしょうか。これまでも一般的な診療方法ではあったエコー診療の、新たな活路を見出すこととなった本セミナーは盛況のうちに幕を閉じました。
<講演者プロフィール>
【座長】古屋 聡先生[総合診療医/山梨市立牧丘病院]
自治医科大学を卒業後、山梨県立中央病院で研修。山梨市立牧丘病院での勤務後、1992年に赴任した塩山市国保直営塩山診療所では、在宅医療に取り組む。2006年に山梨市立牧丘病院に再度赴任し、2008年から同院の院長を務める。東日本大震災や熊本地震において、口腔ケアや食支援をサポートする多職種チームを結成し活動するなど、多職種間・多機関のスタッフの連携による地域医療を推進している。
【演者】白石吉彦先生[総合診療医/隠岐広域連合 隠岐島前病院 院長]
自治医科大学を卒業後、徳島大学医学部付属病院、国民健康保険日野谷診療所(徳島県)などで勤務。 1998年、島根県の隠岐諸島にある島前診療所(現・隠岐島前病院)に赴任。2001年に院長になり、周囲のサテライトの診療所を含めて総合医の複数体制、本土の医療機関との連携をとりながら、人口6,000人の隠岐島前地区の医療を支えている。第2回「日本医師会赤ひげ大賞」受賞。病院での診療のみならず、書籍などの執筆、講演など、医師の診断と治療技術向上のための活動を精力的に行っている。
【デモンストレーター】多田明良先生[小児科医/日本小児科学会専門医/奈良県立医科大学 放射線科 総合画像診断センター/紀美野町立国保国吉・長谷毛原診療所]
自治医科大学卒業後、長野県立須坂病院、飯田市立病院、同県立木曽病院、国保北山村診療所(和歌山県)で勤務し、2019年より奈良県立医科大学放射線科総合画像診断センター、紀美野町国保国吉・長谷毛原診療所(同)に赴任。年齢を問わず領域横断的な超音波診療を実践している。
撮影/和知 明 取材・文/ナレッジリング