「医学的な知識だけでなく患者さんの価値観を尊重する医師の育成を」【野口善令先生インタビュー】|スペシャルコラム

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「医学的な知識だけでなく患者さんの価値観を尊重する
医師の育成を」【野口善令先生インタビュー】

2004年に必修化された初期臨床研修制度の見直しが2020年に実施されます。診断(認識)に至るまでの思考プロセス・「診断推論」が臨床の現場では重要であると説いた名古屋第二赤十字病院副院長の野口善令先生は、どのように初期研修を実施し医師を育てているのでしょうか。Web医事新報「<シリーズ>よき医師を養成するには?」よりインタビューをお届けします。

診断のプロセスと手法を トレーニング

名古屋第二赤十字病院の初期研修の特徴を教えてください。

野口 善令(のぐち よしのり):名古屋第二赤十字病院副院長。1982年名古屋市大卒。Tufts-New England Medical Centerで臨床決断分析、ハーバード公衆衛生大学院で臨床疫学・EBMを学ぶ。97年に帰国し藤田保健衛生大学一般内科助教授などを経て2006年より名古屋第二赤十字病院総合内科部長、14年より副院長兼務。著書に『診断推論 奥義伝授』など。
野口 善令(のぐち よしのり):名古屋第二赤十字病院副院長。1982年名古屋市大卒。Tufts-New England Medical Centerで臨床決断分析、ハーバード公衆衛生大学院で臨床疫学・EBMを学ぶ。97年に帰国し藤田保健衛生大学一般内科助教授などを経て2006年より名古屋第二赤十字病院総合内科部長、14年より副院長兼務。著書に『診断推論 奥義伝授』など。

医学的な知識に凝り固まらず
患者さんの価値観や社会的背景まで
考慮して診断・治療ができる医師を育成したい

救急外来の症例が豊富で、研修医が主体的に診断するトレーニングができるのが特徴です。研修医がファーストタッチで、診断のついていない患者さんを診察し、見逃してはいけない疾患を重点的に除外し、当日帰宅させるか入院させるのか判断もします。

初期研修医が1人で診断までするのは難しくはないのですか。

もちろん1人で放り出すわけではなく、上級医や指導医が屋根瓦体制でバックアップしますし、研修医向けのカンファレンスでフィードバックもします。
来年度から外来診療研修が必修化されます。緊急度の高くない一般外来での診断推論のトレーニングとして、初診患者の病歴と身体所見をとって鑑別診断を考え検査計画を考えるような研修を少し時間をかけて行う予定です。

診断推論を学ぶ機会もあるのですか。

週1回、初期研修医を対象に、救急外来や総合内科の受診患者を題材とした診断推論カンファレンスを行っています。例えば「最近とても疲れやすく、食欲もない」という訴えの患者さんにどのように病歴をとっていくか。まずは患者さんの主訴、年齢、性別、バイタルサインだけを示し、私や他の指導医が患者役になって研修医に質問をさせ、鑑別診断を考えさせます。

診断推論カンファレンスの目的は、聴取した病歴、診察した身体所見から鑑別診断を考え、それに沿ってどんな検査をオーダーするかできるだけ正確に効率的に進められるように訓練することです。
また、ジェネラリストの教育が進んでいる米国から講師を招聘して、1週間指導を受ける機会も設けています。ケースカンファレンスを行い、ジェネラリストとしての診断のプロセス、身体診察の仕方などを双方向的な実習形式で訓練します。

情報リテラシーも重要

診断プロセスを教える指導の効果は?

研究として効果の検証はしていませんが、1年目の研修が終わる頃には、かなりポイントを突いた病歴聴取、身体所見の観察ができるようになる印象です。

一方で、医学は日々進歩していますし、活字情報がいつも正しいとは限りません。科学的に正しくない医療行為が世の中に流布している実情もあります。臨床医として情報リテラシーを高めることも重要です。

情報リテラシーを高めるための指導もしていますか。

総合内科をローテートする研修医には、本人が関心のある臨床的疑問に基づいて文献を検索し、批判的に吟味をしてEBM抄読会で発表する機会を作っています。自分で文献を調べて読み込むうちに、これはエビデンスがあると言われている事柄でも妥当性に欠けるなど、批判的な眼が養われます。

臨床医でいる限り、一生勉強が必要ですし、自分で情報を選んで応用するリテラシーが問われます。

臨床現場で増える 医療倫理を考える機会を

野口先生の考えるよい医師像を教えてください。

自分が正しいと考えることに強く執着せず、常に振り返りをして気づくことができる医師です。

実臨床では、医学的には妥当であっても患者さんの価値観によっては、「その治療は受けたくない」などと言われることもあるわけです。そこで衝突せずに、なぜ嫌なのか患者さんの気持ちを受け止め、心理面・社会面の背景まで考えることが、患者中心の医療につながると考えています。

医師になりたての時には医学の知識と技術を身につけることで精一杯です。もちろんそれも重要ですが、それだけに留まると医学的な正しさだけで凝り固まった医師になってしまうでしょう。

理想的な医師を育てるためにはどうしたらよいのでしょうか。

当院では倫理的問題が発生したときに、医師、看護師、ソーシャルワーカーなど多職種で話し合い、助言ができる臨床倫理コンサルテーションチームを整備しました。後期研修医はこのチームが主催する臨床倫理研修会、臨床倫理模擬カンファレンスへの参加が必須で、そこで倫理的な問題の解決に向けた活動を体験します。

高齢化社会になり治癒を目指せず、病気と共存しなければならない状況も増えています。医療の目的は患者さんをハッピーにするというか、不幸の度合いを少なくするのが目的なので、治療によって本人が不幸になっては元も子もありません。倫理的な問題に対する感性は、医学的に正確な診断だけでなく、患者さんの価値観や社会・心理的な面まで配慮した医療が提供できるようになるために重要だと考えています。

若い医師の指導に困った時にはどうしたらいいですか。

難しい問題ですね。コミュニケーション能力に問題があるようなら、ロールプレイなど練習によって鍛えることは可能でしょう。

また、自分の気持ちを言葉でうまく表現できず、わかってもらえない感が昂じてキレル人もいます。医療者としてアンガーマネジメントを身につけることは重要ですから、それに関するトレーニングを勧めてもいいかもしれません。

研修医制度の課題は?

研修病院の選択にも関わる新専門医制度は問題だらけで全面的な見直しが必要だと考えます。本来は医学的専門能力の担保が目的であったはずですが、現行の制度がそれを担えるとは思えず、さらに医師の配置など他の問題も絡んできて権益争いの状況に見えます。指導医も研修医も患者さんも誰もハッピーにならない制度ではないかと思います。

今後、実現したいことはありますか。

医学的な知識や技術だけではなく、患者さんの価値観や社会的背景も含めて診断治療ができる、広い視野を持った医師を育てたいです。そのためにも、個人的には、臨床倫理に関連する活動を広げていきたいと考えています。
(聞き手・福島安紀)

出典:Web医事新報
※本記事は株式会社日本医事新報社の提供により掲載しています。

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