「日本の口腔がん死亡率は米国の2.5倍以上」~柴原孝彦先生(東京歯科大学口腔がんセンター長)インタビュー|スペシャルコラム

「日本の口腔がん死亡率は米国の2.5倍以上」~柴原孝彦先生
(東京歯科大学口腔がんセンター長)インタビュー

国立がん研究センターの発表によると、日本における2017年のがん死亡者数は37万3334人。口腔がんは、大腸、肺、胃、肝臓などのがんと比較すると死亡数・罹患数が多くないことからその実態は意外と知られていません。今回、口腔がん撲滅委員会代表理事を務める東京歯科大学口腔がんセンター長の柴原孝彦先生に口腔がんの現状と課題についてお聞きしたインタビューをWeb医事新報より紹介します。

罹患数は40年間で4倍増

日本の口腔がんの現状について教えてください。

柴原孝彦(しばはら たかひこ):1979年東京歯科大卒。84年同大院修了。国立東京第二病院厚生技官、東京歯科大学講師、ドイツ・ハノーバー医科大客員講師などを経て、2015年より東京歯科大口腔顎顔面外科講座主任教授。一般社団法人口腔がん撲滅委員会代表理事を務める。近著に電子コンテンツ『口腔の異常のみかた〜がんを見逃さないコツ』(日本医事新報社)
柴原孝彦(しばはら たかひこ):1979年東京歯科大卒。84年同大院修了。国立東京第二病院厚生技官、東京歯科大学講師、ドイツ・ハノーバー医科大客員講師などを経て、2015年より東京歯科大口腔顎顔面外科講座主任教授。一般社団法人口腔がん撲滅委員会代表理事を務める。近著に電子コンテンツ『口腔の異常のみかた〜がんを見逃さないコツ』(日本医事新報社)

全国がん登録速報値によると、2016年に口腔・咽頭がんと診断された男性は1万5205人、女性が6396人で、この40年で4倍以上に増えています。なぜか世界保健機関(WHO)の統計でも口腔がんと咽頭がんは一緒に算出されているのですが、その50~60%が口腔がんとみられます。

高齢男性に多い病気ですが、女性や40歳未満の若年者にも増えてきたのが特徴です。口腔がんは舌、歯肉、口底、頬粘膜、口蓋など、口の中の歯以外のすべての部位に発生する可能性があります。

口腔がんが増えている理由は分かっているのでしょうか。

若年者に増えている理由は分かりませんが、全体的な増加の最も大きな要因は人口の高齢化です。がんの要因の7割は食生活、生活習慣、ウイルスだと言われますが、口腔がんの場合はこれに慢性的な刺激が加わります。

なお、慢性的な刺激とは物理的、化学的刺激です。物理的な刺激は、悪い歯並び、合わない入れ歯などで舌や口の中の粘膜を傷つけること。化学的な刺激は、添加物、人工甘味料、熱による化学的変化の影響です。

35.8%はステージⅣの進行がんで発見

死亡率も高いそうですね。

はい。国立がん研究センターの統計で、2013年の罹患数と死亡数から算出した口腔・咽頭がんの死亡率は46.1%で、全28部位中10番目に高い値でした。同じ年の米国の口腔・咽頭がん死亡率は19.1%ですから、日本では米国の2.5倍以上死亡率が高いことになります。

なぜ死亡率が高いのですか。

日本では口腔がんの認知度が低いため、口の中に病変があっても単なる口内炎と思い込み、なかなか医療機関を受診しない人が多いからではないでしょうか。医療者側も、口腔がんを早期発見しようという意識がまだ希薄であるために、がんの発見が遅れがちです。

これに対し、米国をはじめとした先進諸国では、口腔がんの早期発見・治療が行われ、死亡率が減少傾向にあります。

口の中は自分でチェックが可能であり、ステージⅠの段階で早期発見すれば95%は治ります。しかし、日本頭頸部癌学会に登録された158施設のデータでは、2014年に口腔がんと診断された人のうち35.8%はステージⅣの段階で見つかっていました。

同じ年の他のがんのステージ別の割合を全国がんセンター協議会のデータで見たところ、ステージⅣの割合は、胃がん17.6%、大腸がん19.8%、肺がん27.8%でした。口腔がんは、目で見たり手で触って分かる場所に発生するがんであるにも関わらず、内臓のがんより進行した状態で見つかっている人の割合が高いわけです。

ステージⅣで見つかると、手術はできないのでしょうか。

そんなことはありません。リンパ節への転移の数が少なく、離れた臓器への転移がなければ手術で病変を取り除くことができ、完治する可能性もあります。ただ、ステージⅣは再発リスクが高く予後が悪いですし、例えば舌がんなら他の場所から組織を移植するなど、かなり大がかりな手術が必要になります。がんの広がり方によっては、舌、顎、頬を大きく切除しなければならない場合もあります。

食事や会話、外見に関わる場所なので、手術の侵襲が大きければ患者さんのQOLはかなり低下します。米国では、口腔がんの患者さんは、他のがんに比べて自殺率が高いというデータもあります。

早期発見が可能ながんであるにも関わらず進行して見つかる人が多く、医学の進んだ日本で、口腔がんで救えるはずの命が救えていないのは大きな問題です。こういった問題意識から、口腔がんに関心の高い歯科医に呼びかけ、2014年秋に口腔がん撲滅委員会を立ち上げました。17年には一般社団法人化し公的な団体として活動しています。

口腔がん検診の普及を

口腔がん撲滅委員会は、どういう活動をしているのですか。

具体的には、「歯科医院で救える命がある!『なぜ、いま口腔がん検診か?』地域の口腔がんを考えるシンポジウム」を全国各地で展開中です。来年3月には47都道府県を回り終える予定です。

シンポジウムでは、それぞれの地域の歯科医療や口腔がん診断の中心になっている大学、歯科医師会の先生方にその地域での実態や意見を述べていただくと共に、私達が、口腔がん検診の重要性を講演しています

早期発見のための機器、仕組み、基幹病院との連携の仕方なども紹介します。対象は、歯科医師、耳鼻咽喉科医、歯科衛生士、歯科助手など、医療従事者なら誰でも参加できます。

また、委員会では、一般の患者さん向けに、「口腔がん検診歯科医師エキスパート」の在籍歯科医院の情報も公開しています。

口腔がん検診の実施による死亡率減少効果はありますか。

早い段階で見つかる患者さんは増えますが、死亡率減少効果は、まだ海外でも証明されていません。日本では、千葉市、東京都江戸川区、埼玉県越谷市などで口腔がん検診が始まっていますので、死亡率減少効果の検証もしていきたいと考えています。

難治性の口内炎に注意

一般医に強調したいことは。

口内炎がひどいときに受診する科は、内科が最も多いという報告もあります。口内炎がなかなか治らない患者さんがいたら、歯科や口腔外科へご紹介ください。

今後の目標を教えてください。

まずは、一般歯科医の口腔がんの早期発見への興味を高めたいです。現在は、粘膜を診ても診療報酬上のメリットはないので、粘膜を診ることで診療報酬の加算が得られるようにしたいですね。

もう一つは、国民への啓発活動です。11月15日を「口腔がんの日」とし、今年から啓発キャンペーンを展開する予定です。口腔がん検診を受けて早期発見される人を増やし、死亡率を米国並みに下げるのが目標です。
(聞き手・福島安紀)

出典:Web医事新報
※本記事は株式会社日本医事新報社の提供により掲載しています。

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