産業医は医師の健康確保をどうサポートするか【小山文彦先生インタビュー】|スペシャルコラム

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産業医は医師の健康確保をどうサポートするか【小山文彦先生インタビュー】

今年の3月に医師の働き方改革についての内容が取りまとめられ、2024年には勤務医にも改正労働基準法による時間外労働規制が適用されます。医療機関にとってもこれまで以上に産業医の重要性が高まることになりますが、医療機関の産業医はどのような点を心得ておくべきでしょうか。Web医事新報「この人に聞きたい 第68回:産業医は医師の健康確保をどうサポートするか」より小山文彦先生(東邦大産業精神保健・職場復帰支援センター長/教授)のインタビューを転載し、紹介します。

まずは睡眠衛生対策

産業医が医師のセルフケアをサポートするために取り組むべきことは。

小山 文彦(こやま ふみひこ):1991年徳島大卒。岡山大病院を経て、2001年より香川労災病院でストレス関連疾患の診療に当たりつつ、労災疾病等研究、厚労省委託「治療と仕事の両立支援」事業などを担当。13年より東京労災病院勤労者メンタルヘルス研究センター長。16年10月より現職
小山 文彦(こやま ふみひこ):1991年徳島大卒。岡山大病院を経て、2001年より香川労災病院でストレス関連疾患の診療に当たりつつ、労災疾病等研究、厚労省委託「治療と仕事の両立支援」事業などを担当。13年より東京労災病院勤労者メンタルヘルス研究センター長。16年10月より現職

医師の働き方改革では、国が勤務間インターバルの確保やタスクシフティングを進めるという方向性を打ち出していますが、そうした対策はスタッフの多い都会の大病院ではできても、地方の総合病院などでは現実的に困難です。しかし、医療機関の規模や地域を問わず、健康状態の悪化やストレスの要因となるものを取り除き、対処していくことが重要です。

最も基本的なことは、精神作業疲労の蓄積をいかに避けつつ働くか。生物学的視点では睡眠衛生と過重労働対策に尽きます。過重労働と睡眠不足が続くと、コルチゾール分泌が亢進して生活習慣病のリスクが高まり、さらに前頭葉機能に影響が及べば、うつ病の発症を招きます。産業医は睡眠と休養の重要性を教育し、職員に向けて、健診で不整脈や体重増加等の所見の乱れが出たら健康相談へ来るよう呼び掛けるべきです。

また、医療従事者の中でも医師は自己解決しようとする傾向が強く、それがメンタル不調に陥る要因ともなっています。多忙ゆえに業務以外の話をする時間を持とうとしない、あるいは持てない状況は多々見受けられます。

日本の医療現場にはまだ十分浸透していませんが、産業医が率先してレジリアンス(心の弾力性)の概念に着目した心理教育の重要性を説き、職場環境にポジティブな変化を促すべきでしょう。

具体的にはどんなことをすればよいのですか。

ハワイで行われた追跡研究「カウアイ研究」などを通じて、精神的なタフさを獲得した人や、肯定的な認知・行動パターンを保って暮らし続けられた人は、家族以外の支持的存在を持っていたという共通点が分かっています。

衛生教育や面接の機会に、自分の感情を安定的に調整できているか、好きなことへの興味が落ちていないか、自分の未来を明るく見られるか、などを振り返ってもらいましょう。そして、多忙な中でも業務の話以外のコミュニケーションを少しでも取るようにすることで、コミュニティがセーフティーネットになり、互いに不調に気づき合える可能性が高まります。

医師でなく「人」を診る

長時間労働者や健康状態が悪化している医師に産業医がアプローチする際のポイントは。

産業医としては、健診所見を縦断的に診て、急に悪化している人に着目したいところです。私はそういう人と面接する際、体調や仕事の量だけでなく、通勤時間や休日の過ごし方を尋ねることにしています。たとえ時間外労働の量が他の職員に比べて多くなくても、長時間かけて満員電車で通勤しているとか、家庭では家事や子育てに忙殺されて睡眠が十分とれないとか、休日はやる気が起きずぐったりしているとなれば、職場外でも精神作業疲労や睡眠負債を解消できていないことになります。

どんな出来事が客観的にどの程度の心理的負荷と評価されるのかを知っておくことは、臨床医としても産業医としても重要です。

それはどのようにして知ればよいのですか。

労災認定上の心理的負荷の判定基準を示した「心理的負荷による精神障害等に係る業務上外の判断指針」が参考になります。この指針には、心理的負荷の職場要因を評価する「別表1」と職場外要因を評価する「別表2」があります。産業医の役割は職場における安全衛生上の配慮について助言することですから、職場外のことを聞くのは必須ではありません。しかし、人は必ず1人数役のキャリアを持っています。職場では労働者でも、家に帰れば父や母、病めば患者になる。それは医師も同じです。この視点は医師が医師を診る時にも、セルフケアの際にも持っていてほしいです。

過去の労災認定事案にも目を通しておくと、経営層に対しても「このままだと労災になりますよ」と進言するなどして、事業場と職員の双方を守るという産業医の職務を果たすことができます。

目指すは顔の見える産業医

医師は産業医の言うことを聞かない、という声もあります。

もし、ろくに顔も見たことのない産業医に健診結果が悪いからといきなり呼び出されて「指導」されたら、医師でなくても良い気分はしないでしょう。産業医に選任されたら、まず取り掛かるべきは職員とのラポール形成です。この先生は話を聞いてくれると思ってもらえる関係を築きましょう。

健診所見が悪化している人に何度か面談を入れ、勤怠管理表で見える表面的なことだけでなく、生活者の側面を含めた「人」としての健康について話をする。安全衛生委員会に出席し、衛生的な助言をする。そして、相談に来ない人を含め、普段の職場の様子を見るためにも職場巡視の機会を積極的に活用し、できるだけ多くのスタッフに声を掛ける─。地味で少し時間はかかりますが、こうした積み重ねが重要だと思います。

院内の医師が産業医になるほうが良いのでしょうか。

一概には言えませんが、そうした面もあると思います。院内なら、管理部門とのコネクションをある程度持っていて、普段の現場の事情も分かっているポジションの医師が適任でしょう。副院長クラスが産業医を務めているというパターンをよく見聞きしますが、よほど現場との信頼関係がないと職員が遠慮してしまうだけで効果的ではないと思います。

外部の嘱託産業医であっても、出務日に安全衛生委員会を合わせてセットすれば、各部門の代表者と毎月顔を合わせられます。巡視の際の声掛け、研修会や健康講話などの機会を積極的に活用すれば、嘱託でも職員・経営層双方からの信頼を得ることは可能です。

産業医に選任されたら、まずは「顔の見える産業医」「声を掛ける産業医」を目指しましょう。
(聞き手・藤ノ井峻介)

出典:Web医事新報
※本記事は株式会社日本医事新報社の提供により掲載しています。

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