ジカ熱やデング熱などの蚊媒介感染症の国内発生を想定し、診断法の確立や高濃度の虫よけ剤を開発する動き、自治体による対策の強化が進んでいる。デング熱が国内で流行した際、発生源の1つとされた新宿区では、ジカ熱に備えて蚊媒介感染症の行動計画を改訂。国立感染症研究所も、ブラジルの研究者らと検査キットの共同開発などを視野に入れた研究を進める方針だ。【新井哉】

中南米で流行しているジカ熱のワクチンや迅速診断キットなどの開発につなげようと、国立感染症研究所は12、13の両日、日本とブラジルの研究者によるワークショップ（研究班会議）を開催した。ジカ熱の疫学研究に加え、デング熱などを含む蚊媒介感染症に関する分子生物学研究などをテーマに意見を交換したという。

同研究所の研究班は現在、ジカ熱のワクチン開発や迅速診断法、蚊媒介感染症リスク評価ツールの研究に取り組んでいる。ブラジルではジカ熱の患者の症例の集積が進んでおり、両国が協力することで、ジカ熱やデング熱などの蚊媒介感染症の研究を加速させたい考えだ。

ワークショップの開催について、同研究所の倉根一郎所長は「ジカウイルス感染症は、国際的な対応が求められる感染症の1つ」とし、両国の専門家が共に研究を進める意義を強調。駐日ブラジル大使館のサルキス・J・B・サルキス首席公使も「ブラジルと日本との科学分野における末永い協力関係の一歩となる」としている。

虫よけ剤をめぐっては、海外では蚊などに対する忌避効果の高い有効成分「ディート」の濃度の高い製品が販売されているが、日本では海外と同じような高濃度の製品は販売されていない。海外の製品は、国内の製品よりも長時間にわたって塗り直しをせずに使用できる利点がある。

こうした状況を踏まえ、厚生労働省は、国内でも高濃度の製品を販売できるように、迅速な審査で製造販売を認めると通知。これを受け、アース製薬は先月17日、「ディート」を高濃度に配合した製品の開発に着手したことを明らかにした。

通知によると、「ディート」（従来製品は12％以下）は30％、同様の効果のある「イカリジン」（同5％以下）は15％まで濃度を高めた製品について、申請があった場合は審査期間を短縮するとした。ただ、濃度が高いため、厚労省は「12歳未満の小児には使用しない」と製品の使用上の注意に記載するよう求めている。

ジカ熱が感染症法上の4類感染症に規定されたことを受け、対策の強化に乗り出す自治体も出てきた。同じ蚊媒介感染症のデング熱の国内感染を踏まえ、対策行動計画を策定していた新宿区は、同計画の一部を改訂した。

従来の対策行動計画に、ジカ熱は母体から胎児への垂直感染で小頭症などの障害を起こす可能性などを追記。蚊（成虫）の防除については、「ヒトスジシマカのみが対象となるため、有効性は高い」としている。